2012年12月17日

出版社の武田ランダムハウスが破産

アインシュタイン伝記の機械翻訳事件で話題になった武田ランダムハウスが破産です。やはりあの事件の影響が大きすぎた感がありますね。
出版社の武田ランダムハウスが破産、負債総額9億3千万円

 出版社の武田ランダムハウスジャパン(東京都千代田区)が東京地裁から破産手続きの開始決定を受けたことが17日、分かった。東京商工リサーチによると、決定は12日付で、負債総額は9億2600万円。

 米国の出版社ランダムハウスと講談社が平成15年、対等出資の合弁会社、ランダムハウス講談社を設立。しかし、22年に合弁を解消し武田ランダムハウスジャパンに社名変更した。

 合弁解消以降は大きなヒットに恵まれなかったほか、昨年8月には物理学者アインシュタインの伝記を翻訳した本の中で、コンピューターの自動翻訳をそのまま掲載したような記述が多数見つかり、回収騒ぎになっていた。
主な誤訳はこちらにまとめられています。

アインシュタインの伝記のひどすぎる誤訳

アマゾンのレビュー欄には今も訳者の事情説明が。

訳者からの事情のご説明

で、こちらはネットで公開されている機械翻訳部分のコピーです。 参考までに。

第13章 さまよえるシオニスト

みなさん、機械翻訳のご利用は計画的に!(アコム風)

2012年12月13日

EU、単一特許制度を導入へ 翻訳費用など削減

やっときたか、という感じ。
EU、単一特許制度を導入へ 翻訳費用など削減
 
【ブリュッセル=御調昌邦】欧州連合(EU)は11日、2014年に単一の特許制度を導入する方針を正式に決めた。企業や個人が英語、フランス語、ドイツ語のいずれかで申請すれば、ほかの国でも特許を認める。これまでかかっていた翻訳や各国での手続きなどの諸費用が約7分の1になる。  

欧州議会が11日に単一特許制度を承認し、1960年代に検討が開始された議論が決着した。今回の決定ではイタリアとスペインが自国の言語での申請が認められずに反対したことから、当面は両国を除いたEU25カ国での制度となる見通し。  

これまでは欧州特許庁(EPO)から特許を取得したうえで、発明品などを保護したい国ごとに翻訳や必要な行政手続きをする必要があった。手続きの簡略化により約3万6千ユーロ(約385万円)かかっていた費用が約5千ユーロで済む。米国(約2千ユーロ)に比べると依然として割高だが、一気に差が縮まる。欧州委員会は単一特許制度の導入により、欧州での特許申請件数が増えるとともに、費用削減で欧州企業などを支援できるとみている。
ただ、普通に考えれば、新制度導入により特許翻訳の需要は減少することが予想されます。日本でも経営的に厳しくなる会社が出てくるかもしれませんね。

2012年12月12日

法と言語 学会2012 年度年次大会

法と言語 学会2012 年度年次大会

■日時

12 月15 日(土) 午前9:30 受付開始 (大会プログラムは10:00 開始)  

■会場 

明治大学駿河台キャンパス 1115教室 (リバティ・タワー11階)
アクセスマップ 
キャンパスマップ 

■プログラム

<シンポジウム> (10:10-12:00) 「法と言語研究の展開」  

企画者     堀田秀吾(明治大学)  

パネリスト   
小林史明(明治大学、法哲学・法と文学)   
札埜和男(京都教育大学附属高等学校、社会言語学・法方言学)   
原大介(豊田工業大学、言語学・手話言語学)  

コメンテーター   石橋達成(弁護士・第一東京弁護士会)

<基調講演>(13:00-14:00) 「司法通訳言語研究が公正な司法にどう貢献できるか」  
水野真木子 (金城学院大学)

<研究発表> (14:10-17:00)

・研究発表1 (14:10-14:40)
「名誉毀損事件を例に、起訴状の公訴事実の適正な情報量について言語学的に考察する」   
池邉瑞和(早稲田大学)・首藤佐智子(早稲田大学)

 ・研究発表2 (14:40-15:10)
「相互行為上の資源としての「次」の発話位置における裁判官の発言―模擬評議場面のミクロ分析」
北村隆憲(東海大学)

・研究発表3 (15:10-15:40) 「法廷通訳人の語彙選択が模擬裁判員に与える影響についての実験結果に対する考察」   
中村幸子(愛知学院大学)・水野真木子(金城学院大学)・河原清志(金城学院大学)

・研究発表4 (16:00-16:30) 「機能と権力の視点から読み解く裁判員制度PRのための方言キャッチコピーと法言語景観」   
札埜和男(京都教育大学附属高等学校)

・研究発表5 (16:30-17:00) 「今なぜ『日本語保護法』が必要なのか?~日本語の地位計画への言語法アプローチ~」   
津田幸男 (筑波大学)

■事務局

〒168-8555 
東京都杉並区永福1-9-1 
明治大学法学部堀田秀吾研究室内 
法と言語学会事務局

2012年12月11日

公開シンポジウム「翻訳『革命』期における翻訳者養成」

公開シンポジウム「翻訳『革命』期における翻訳者養成」

■日時

2013年1月12日(土)10:00~14:30

■パネラー

井口 耕二(異文化コミュニケーション研究科兼任講師、翻訳者)
影浦 峡(東京大学大学院教育学研究科教授)
オヘイガン 統子(ダブリンシティー大学上級講師、翻訳研究修士課程主任)
ラッセル 秀子(モントレー国際大学翻訳通訳大学院助教授、日本語科主任)
関根 康弘(異文化コミュニケーション研究科博士前期課程在籍、クレステック)
武田 珂代子(異文化コミュニケーション研究科教授)
山田 優(麗沢大学、神戸女学院大学大学院、青山学院大学兼任講師、翻訳ラボ代表)

■趣旨

立教SFR「翻訳『革命』期における翻訳者養成の新たなコンテンツと方法に関する学際的研究」の研究代表者・分担者によるパネルディスカッション。機械翻訳・翻訳支援ツール・ボランティア翻訳の進展、グローバル翻訳市場の構造的変化などを背景に、翻訳者と翻訳業界をとりまく環境が急激に変化している。その中で求められる翻訳者養成の新たなコンテンツとデリバリー方法について口頭発表の後、議論を展開する。

■場所

立教大学池袋キャンパス8号館3階 8304教室
東京都豊島区西池袋3-34-1(JR池袋駅西口から徒歩約7分)

■対象

異文化コミュニケーション研究科学生、本学学生、教職員、校友、一般市民

■申込み

事前申込不要

■お問い合わせ先

独立研究科事務室 TEL 03-3985-332

2012年12月10日

通訳に特化したQ&Aサイト。


通訳に特化したコミュニティーQ&Aサイトです。

http://interpreting.info/

質問内容を見ると欧米系の通訳に関する質問が多いようです(まあ今の所は英語コンテンツしか盛り上がってないようですし。)。日本語のQ&Aは今日の時点ではまだ存在しません。

ソーシャルQ&Aサイトは多数ありますが、一つのニッチ分野に絞ったもの、特に通訳ではこれが初めてだと思います。フェイスブックやツイッターとの連携がないようですが、ソーシャル機能を強化すれば面白いことになるかもしれません。

2012年12月9日

ジャーナリストと通訳者(5)

前回の続きです。 インタビュー後について。
After the interview

1. Go over the interview with your translator immediately. Bearak notes in his memo that they will often correct themselves. Plus, you can ask questions about any responses that confused you.
"自分の訳をたびたび事後修正する"通訳者がどれほどいるのかは分かりませんが、これは聞き方にも影響されると思います。私もよくインタビュー後に、特定の発言の正確なニュアンスなどについて聞かれることがあるのですが、長い取材だと細かなことは覚えてないのが正直なところです。その意味では、実際の訳と事後の解釈ではニュアンスのズレが生じる可能性は十分に考えられます。ただ、コミュニケーションの本質に影響を与えるようなズレは通訳中に修正するのがプロなので、誤った事実に基づいて取材が終わることはまず考えられません。
2. If the story involves a long chronology or otherwise complex material, go over the facts repeatedly with your translator. Bearak wrote in his memo: “If you’re not aggravating your translators (making them complain, ‘You’ve already asked that!’), you’re not being precise enough.”
これはある意味、危険な行為です。というのは、通訳者の記憶が一番新鮮なのは現場で通訳している瞬間であり、事後に記憶をたどって、「えーっと、あの時は確かこう言ってた気がします」というのは、記憶の上書きをする行為で、そこには改変の可能性が生まれます。正確な通訳ノートがあれば一定の正確性は担保できるかもしれませんが、あくまでも内容のおおまかな理解を目的とするべきであり、正確なコメントをとる目的では勧められる行為ではありません。
3. Get your translator’s opinion on the source. Since your bullshit detector is turned off, tune into your interpreter’s. Bearak says, “I usually ask, ‘So what do you think of who we’ve just talked to?’ And they’re always pick things up that I didn’t pick up” — namely, whether the interviewee was being evasive or had an axe to grind.
前にも書きましたが、通訳者は言葉以外のコミュニケーション行為も注意して見ているので、取材対象についての印象を聞くことは問題ないと思います。あくまでも個人的な意見ですが。それに確かに、通訳者はジャーナリストとは異なる視点を持っているので、意外な事実に気付くこともあるかもしれません。
4. When you write, tell the reader what language was spoken and that a translator was used. As Bearak said in his memo, “the reader deserves to know that the words have passed through the translation process.”
読者としても、通訳者を通して行われたインタビューだと知ればニュアンスに注意しながら読むかもしれませんね。良いアイデアだと思います。
5. Have the translator read the story before you turn it in. At that point, he or she may have further corrections.
記事の最終確認を通訳者がするべきか。これには賛否両論あると思いますが、私は賛成です。というのも、数年前に某ゲームメディアの取材を通訳をした時、明らかに訳とは異なる事実が記事として発行されてしまった経験があるからです(私はそのゲームのファンだったので、訳した部分ははっきりと覚えていました)。本筋から離れた細かい内容だったので大きな問題にはならなかったようですが、やはり通訳者としては正直悔しいです。私が確認していれば絶対にありえなかったミスですから。

2012年12月8日

ジャーナリストと通訳者(4)

前回の続きです。実際のインタビューのときにどうするか。
During the interview

1. Begin by explaining what the story is about. Omar Fekeiki, a special correspondent and Iraqi translator for The Washington Post from 2003 to 2006, was almost kidnapped when interviewing people who didn’t understand the purpose of the story. He managed to escape, and after that, always explained “why we were writing the story and explained how we were going to voice their issues and problems,” he said in a phone interview. “I always think it is better to be honest with people and they can decide whether to talk to you or not.”
日本で通訳者が誘拐されることはまずありませんが(もっとも、ヤクザ社会に切り込んでいったジェイク・エーデルスタインのような記者に付いたら狙われるかもしれませんが)、取材対象にインタビューの趣旨を説明するのは大事なことですし、事前に通訳者に説明しておくとなお良いです。なぜなら、円滑なコミュニケーションの成立には正確性と同時に適切なスピードとタイミングも重要だからです。

極端な例を挙げると、記者が文脈を誤った発言をして、取材対象が怒って退室する素振りを見せたとしましょう。記者が弁解するのを待っていたら取材対象が帰ってしまうかもしれません。けれど事前に取材目的を通訳者に伝えておけば、「すみません、ちょっと待ってください、今の発言は実はこういうことで・・・」と説明できるわけです。「話者が言わないことを喋ってはいけない」と考える通訳者もいるようですが、私にはそれがコミュニケーションの本質を見失っているようにしか思えません。

通訳者の仕事は円滑なコミュニケーションを成立させることです。記者がわざと取材対象を挑発していない限り、文脈のズレを修復するのは通訳者の役割です。むしろ、それは通訳者にしかできません
2. Describe the interpreting process and find out how much English your source speaks. Introduce both you and your interpreter, and explain that you’ll be asking questions, the interpreter will be relaying them, and that the same will happen for the source’s answers. Also ask the interviewee directly, “Do you speak English?” to see whether he or she can respond and how well. Depending on how good his or her English is, you may be able to conduct some parts of the conversation more directly.
通訳プロセスを説明とありますが、取材対象によっては時間がかなり限られている場合もあるので(私の経験上、最短は7分)、「通訳者を介しているので、所々確認の質問をしたり、普通の取材と比べて時間がかかってしまいますがすみません」くらいで良いと思います。

取材対象の英語力を確認するのは悪いことではないと思いますが、仮に英語が話せたとしてもインタビューは日本語で行うことが多い印象があります。特に政府関係の通訳では。というのは、取材対象が話せても、同席する事務方が話せなければ色々困るという部分がまずあります(記録がとれないし)。それに、やはり公式会見は母国語で話すことが慣習であり、政治家の常識です。オーストラリアのラッド前首相が中国語でインタビューに応じて一部の国民から批判されたことは記憶に新しいですね。
3. Face the interviewee. “Address your questions directly to [the source] even though the interpreter is doing the translating,” Chandrasekaran says. “Put the interpreter to the side. You want to be making eye contact with that person as they’re talking, and nod your head, so they’re looking at you.”
通訳者の方を見ないで取材対象を見るのは正しいです。通訳者を見てもノートを取るのに必死で意味ないですしね(笑)。
4. Speak simply, slowly and clearly. This is so your interpreter can accurately relay your questions. Plus, your source, if he or she understands some English, may comprehend you directly.
簡潔に、ゆっくり、明確に話すのは大事です。いきなり本筋から脱線して、おまけに二重否定表現などが飛んできたりしたら通訳者は困ります。
5. Make sure everyone sticks to the process you outlined at the beginning. Make it clear that it’s important to you that the interpreter can keep up with both you and the source. Set a pace that ensures each person has the floor when he or she speaks and waits for his or her turn. Badkhen says that if the source isn’t giving the interpreter time to translate, she has her translator stop the source and say, “Excuse me, I need time to translate.”
もちろんきちんと通訳しなければコミュニケーションが成立しないのですが、通訳者が取材対象に対して「すみません、通訳するのでちょっと待ってください」的なことを何度も言うのはあまり好ましいことではありません。人にはそれぞれ話しやすいスピードとリズムがありますから、何度も繰り返してお願いすると逆に気分を害してしまう可能性があります。私もどちらかというと早口で、意識的にゆっくり喋るとストレスを感じます。

ちなみに私の場合は、取材時間にもよりますが、ものすごく早口の人には1~2回はお願いしますが、それでも直らない人については諦めて自分の集中力を高めるようにしています。自分の普段のペースを乱してエネルギーを使うので、いつもよりずっと疲れますが、仕方ありません。
6. Have an ear out for incorrect or incomplete translations. Watch out for these red flags:

“When you hear something surprising, repeat it just to be sure accuracy hasn’t meandered,” Bearak said in his 2003 memo.

If your source appears to be speaking longer than your interpreter’s translations, ask the interpreter to give you a full translation. Badkhen says if she still feels that the interpreter is summarizing, she will dissect the answer into parts and repeat them back to the person to make sure she hasn’t missed anything and to give him or her an opportunity to fill in gaps.

In cases where your source understands a bit of English but isn’t comfortable speaking it, he may attempt to correct the translation — a big red flag. If so, ask him directly whether his words are being accurately relayed.
トピックの本質に影響するような驚きの事実が出てきた場合、再度確認するのは良いですね。事実確認の意味もあるし、ニュアンスの確認という意味もあります。

話者の話の長さと訳の長さは必ずしも一致しません。プロは可能な限り違和感が残らないように調整しますが、それでも人によっては、「あれ、なんか訳が短い(長い)ような・・・?」と感じることもあるでしょう。ですから必ずしも誤訳とは言い切れませんが、重要な点であれば記者が一つひとつ再確認するのは悪くないと思います。

取材対象が通訳者の訳を修正するケースですが、これは確かにあります。ただこれは、通訳者が単に下手な場合もあるし、自信過剰な話者が実は間違った修正をしている場合もあるので、一概には言えません。この点は取材対象と通訳者の英語能力を見極める必要があるかもしれません。

2012年12月7日

ジャーナリストと通訳者(3)

前回の続きです。ジャーナリストが取材対象とインタビューを始める前に通訳者とすることを書いています。
Before the interview

1. Explain to the interpreter the purpose of the interview. If she knows what you are looking for, then she will be able to help you get it.
2. Review all your questions with your interpreter. Doing this will keep him from being surprised or confused during the interview, according this article by the Institute for Education in International Media. If you’ll be using any technical or obscure words, he can learn them beforehand. Plus, if you plan to ask any sensitive or tough questions, he can help you come up with a strategy for asking them.
両方とも完全同意です。通訳者は一般的になんでも瞬時に訳せるロボット的な存在と見られがちですが、トッププロでも話の筋道が見えないと訳出に苦労します。事前情報がない通訳は、真っ暗なトンネルの中を携帯電話のライトだけを頼りに歩き回ることに似ています。

優れた通訳者は取材対象の文化・文脈に通じているので、ジャーナリストが空気を読みながら厳しい追求をしたいのであれば、事前に相談して戦略を練るのが得策です。取材対象について思わぬ情報・視点を得られるかもしれませんよ。
3. Ask your interpreter whether she thinks any cultural issues might arise during the interview. Don’t just use her language skills; also use her cultural knowledge to see whether any age, gender, class or regional differences could hamper the interview.
通訳者は単に言葉の表面的価値を訳すのではなく、文化や文脈、その場の空気なども考えながら総合的に訳出しています。ジャーナリストには、その豊富な知識をうまく活用してほしいです。

例えば以前、某メディアが沖縄の基地問題を取材する際、準備段階のやりとりで「両方の意見がほしいので、基地賛成派も取材したい」と希望しました。沖縄の政治文化を知っていたら、これがどれだけ難しいかよく分かるはずです。心では基地賛成・基地賛成寄りの政治家がいたとしても、それを声高に主張する、特に海外といえどもマスメディアに対して主張するのは政治家生命を自ら絶つことを意味するからです。

ジャーナリストの年齢や社会的階級は日本ではあまり問題になりません。
4. Plan to record the interview when it’s important enough. Given time constraints in the field, this is not always possible, but for key interviews, you may want to record them and have your interpreter re-translate them to ensure accuracy.
録音・録画は記者の判断ではなく、取材先の許可次第です(少なくとも日本ではそれが一般的)。日本では録音・録画が入る公式記者会見で建前が語られ、時折その後に用意されるざっくばらんとしたオフレコ会見(懇談)で本音に近い発言が期待できます。上手いジャーナリストはこの二つを巧みに使い分けて聞きたい情報を引き出している印象です。

テレビの場合、録画した素材に字幕を付けて流すので、字幕の内容と話者が話している内容が概ね一致するように素材を編集する必要があります(もっとも、近年は新聞もネット配信用にカメラを持参するケースが増えています)。極端に言えば、放送用の素材で政府高官が「尖閣問題についてはできる限りのことをしている」と話しているのに、字幕が"Yes, we're aware of the Chinese fishing vessels in the EEZ. (排他的経済水域内の中国漁船については承知している)"となってはいけないのですね。正しくないし、かっこ悪い。

つい最近も某新聞社と仕事をした際、取材後にホテルのカフェで素材の切り取り・編集を手伝いました。フォトグラファーの話によると、今時のフォトグラファーは動画編集の技術が普通に求められるそうです。時代ですね。

余談ですが、録音禁止のインタビューでも、取材対象側が録音をしている時があります。アーカイブ目的なのか、通訳内容を後で確認しているのかはわかりませんが、事実としてそういうケースはあります。参考までに。

2012年12月6日

ジャーナリストと通訳者(2)

前回の続きです。ローラ・シンは次に、良い通訳者の探し方と、通訳者を訓練する方法について書いています。

How to find and train an interpreter

1. Start with recommendations. Unfortunately, depending on how remote of a location you are reporting in, landing a good translator can be a crapshoot. If you’re working for an organization that has bureaus around the world, it will likely already have reliable translators in the area, but if you’re freelance, you should ask other colleagues who have reported in the region.

仕事仲間に通訳者を紹介してもらうのは良いことだと思います。やはり通訳者は使ってみないと分からない部分がありますし、特に通訳内容が似ているのであれば、通訳者が前回勉強した知識・経験が存分に活用されます。

逆に誰も知らない場合、紹介のアテもない場合は、現地の通訳者団体を探して問い合わせるのも一つの方法です。または検索して、自分の実績や専門知識を公開しているフリーランス通訳者を探すのも良いかもしれません。ブログなどで情報発信している通訳者の場合は、発信内容の質に注目するとよいでしょう。

2. Look for someone who speaks conversational English. “If your translator has only an academic background in English, their vocabulary will be substantially different from someone who has lived in America and watched a lot of American TV,” says Bearak.

これは確かに一理あります。大学で教えている人だから実力があるに違いない、と思われがちですが、少なくとも日本の大学教員でトップレベルの通訳ができる人はほんの一握りしかいません(教員自身はできると勘違いしてますが)。業界内の人間は誰ができるか(できないか)分かっていますが、そういう情報はあまり外に出ません。

私は優れた純国産通訳者がいることを知っているので、決して彼らを悪く言うわけではありませんが、やはり長期の海外留学・滞在歴がある通訳者の方が概ね優れている印象があることは否めません。訳の正確性は当然として、文化的差異を汲んだ訳出をすること、つまり「味のある表現」ができる人が絶対数として多い印象です。それはやはり現地で生活して、現地のメディアを消費し、生の文化を吸収したからだと私は思うのです。

3. Get a translator who will help you navigate cultural differences, or, if you’re in a politically unstable region, won’t put you in danger. War correspondent Anna Badkhen says she prizes translators who are not hot-headed: “I try to make sure that this isn’t a person who will put us in danger,” she said by phone. “I feel responsible for the lives of the people I work with.”

まさにこの理由から通訳者がコミュニケーションを操作するケースがあるのです。通訳者だって人間ですから、自分の身の安全を確保したい。同時にクライアントの安全も確保したい。その結果、ジャーナリストが気づかないで空気の読めない発言(質問)をして、それが一発触発的な内容だった場合、通訳者は衝突を回避するために訳を操作するケースは十分に考えられます。戦場でしたら特にそうでしょう。誰もジャーナリストのアホな質問のせいで死にたくありません。戦場でなくても、事前に何も伝えられていない通訳者であれば、ジャーナリストに質問の真意を問うか(私はこっちです)、質問をうまくぼかして処理するケースは普通にあります。だからジャーナリストは事前に通訳者と相談して、案件の趣旨と内容を説明し、自分の手足となって働いてくれるように協力を求めるべきなのです。

4. Make sure the interpreter understands the importance of accuracy. If your interpreter doesn’t have experience with journalism, explain that accuracy has to do both with both the big picture and nitpicky details. Emphasize how important it is to get the words exactly right and, if the topic is complex, to understand it completely.

“Make the point that if you’re going to put something in quotation marks, it has to be an exact translation, and not a paraphrase, of what they actually said,” says Bearak.

Rajiv Chandrasekaran, who was The Washington Post’s Baghdad bureau chief in 2003 and 2004 and covered the war in Afghanistan from 2009 to 2011, has the interpreter jot down his own notes, particularly about words he didn’t know how to translate, so he can look them up later.

プロの通訳者であれば別に誰に言われなくても正確性が重要なことを知っています。ただ、”exact translation”が何なのかはプロのあいだでも意見が分かれることが頻繁にあるのがこの世界なのです。結局のところ、語感は人のセンスに左右される部分がありますので。シンやベアラクが言うように簡単な作業ではないのです。時には”paraphrase”が話者の真意に一番近い「最寄りの訳」であるケースも実在するのですから。

チャンドラセカランが通訳者にノートをとらせたというのも、具体的な状況は分かりませんが、プロであれば首を傾げるところです。というのも、プロ通訳者のノートはスピードと理解のバランスをとるために、自分だけが読めるように最適化されているのが普通なので、記者が後で内容を確認できるように書かれたノートは逆に詳しすぎて(=書くことに集中して聞く集中力が低下して)、実際の通訳の質が落ちていたのでないかと疑ってしまいます。通訳を学び始めたばかりの人によくある落とし穴です。

5. Ask your translator to “get in character.” This means that when translating, she should say, “I looked for my mother,” not “He looked for his mother.” Request that your translator never paraphrase.

一人称で話すのはプロなら当たり前のことで、こんなことを注意する必要があるのは素人通訳者だけです。

「パラフレーズ(意訳)をするな」というのは料理人に「芋を使わないでマッシュポテトを作れ」と言うようなものです。すべての通訳は究極的には意訳です。必ず訳者の主観が介在します。もちろん適切な訳として許容できる意味の幅は存在しますが、それはまったく別の話で、意訳を禁じるのは本末転倒としかいえません。

6. Ask your translator to translate everything he or she hears, no matter how offhand the remark. As Bearak wrote in a 2003 memo on working with a translator circulated internally at The Times: “Explain to them that a seemingly irrelevant remark like, ‘Praise Allah for this new window,’ helps you capture the flavor of a scene.”

事前に通訳者と相談すれば、通訳者は可能な限り対応してくれるでしょう。ただ、通訳環境や疲労度によってはすべての発言を拾うことができない場合があることをジャーナリストの皆さんには理解してほしいです。

2012年12月5日

ジャーナリストと通訳者(1)

先日、How journalists can work well with interpreters during interviewsと題された記事を読みました。要はジャーナリストの仕事を”邪魔”する下手な通訳者をどうやって見分けるか、そして”良い”通訳者をどう選び訓練するかという内容です。

10月~11月はオスプレイ問題と尖閣問題で国内外から多くのジャーナリストが沖縄を訪れました。私も複数の海外メディアに付いて仕事をしましたが、その経験をふまえて個人的見解を述べます(ジャーナリストの通訳は2000年の沖縄サミット以来、毎年一定の量をこなしている)。なお、最終的には英語で意見しないと肝心の海外メディア関係者に読んでもらえないので、現在デザイン中の新しい英語サイトが完成したらそちらで見解を述べる予定です。これは日本人ジャーナリスト向けということで。

記事を執筆したローラ・シンはまず通訳者を介したコミュニケーションの難しさを指摘します。

The difficulties of working with an interpreter

1. Accuracy: The biggest and most obvious danger of working with an interpreter is that you’ll get facts wrong or misquote someone — a serious mistake when interviewing anyone, let alone a prominent figure.

これに異論はありません。特に政治家や政府高官の発言は微細なニュアンスのズレが新聞の一面を飾り、無用な政治的緊張を生みます。たとえば「~を注視している」を軍事的な文脈でどう訳すか。”we’re monitoring the issue closely.” と無難に訳すかもしれないし、前後の文脈によっては”we’re on alert.”と踏み込んだ表現になるかもしれない。忘れてはならないのが、通訳者は言葉だけを分析しているのではなく、話者の表情や振る舞いなどの非言語表現なども含めて総合的に分析して訳出していることです。

2. Tone: An interpreter’s tin ear can lend a tinny feeling to your story. In a phone interview, Barry Bearak, a New York Times reporter who served as a foreign correspondent in South Asia and Southern Africa, recalls covering the aftermath of a hurricane in the Dominican Republic while working for The Miami Herald:

“I went to some village and just about everything had been washed away. I interviewed some man who had lost everything, and tears were coming out of his eyes and he was moving his hands to and fro, and the interpreter said something like, ‘I estimate the damage to my dwelling to be substantial.’” Bearak asked his photographer, who happened to speak Spanish, to interpret from that point on. 

通訳、というか社会言語学にはレジスターという概念があります。状況に応じて語彙や文法、発音などを変えた言語変種を意味します。普通の人には理解が難しい概念ですが、通訳の文脈で平たく言えば「話者本人っぽく話しましょう」ということです。

たとえば”Thank you for coming all the way to see me.”を例にしましょう。育ちがよくて気品に溢れ、教養もある人が話者であれば「遠方からはるばるお越しいただき感謝いたします」となるかもしれない。けれど話者がいわゆる普通の人であり、気心が知れたビジネスパートナーであれば「遠くから来てもらって本当にありがとう」と、カジュアルさが前面に出るかもしれません。

シンが挙げた例(”I estimate the damage to my dwelling to be substantial.”)はレジスターを極端に誤った例であり、プロの通訳者はそもそもこのような間違いは犯しません。レジスターの振り幅は通訳者によって変化しますが(そもそもコミュニケーションとはそういう行為である)、何もかも失って絶望した被災者の言葉を英国紳士のような語り口で訳す非常識・経験不足なプロ通訳者はいません。私が思うに、この記者は直前にブッキングしたので良い通訳者を手配できなかったか(大学教授がしかたなく手伝いを申し出たのかもしれない)、通訳料を値切ったせいでランクが低い通訳者が手配されたのではないか。特に最近はどこのメディアも支出に敏感で、私自身も交渉段階で「フォトグラファーの2倍なんてとても払えない」と言われたことがあります。日本では普通のレートなのですが・・・

3. Bullshit detecting: When interviewing someone in your primary language, you pick up on hesitations or stammerings, hear when they start to say something and then backtrack or sense when they are putting things diplomatically, and these clues help you know when to probe further. Using an interpreter hinders your ability to read between the lines. 

話者の言葉に戸惑いがあったり、つまりがあったとしても、それは必ずしも何かを隠しているわけではありません。実際、日本の政治家の多くは考えながら話したり、つまりながら話したりしますが、これは彼らにとって普通の話し方です。いつも事務方に仕事を任せているので、事実とは異なる発言をして後から訂正することもしばしばです。"putting things diplomatically"ですが、これは日本では(特に政治の文脈では)デフォルトのコミュニケーション様式なので、どれが建前でどれが本音なのか(そもそも一言でも本音を語ったのかどうかさえ)、日本の文化やコミュニケーション様式に慣れていない外国人ジャーナリストには判断が難しいのでは、と思います。

ちなみに通訳者の場合ですが、通訳者の言葉に戸惑いがあったり、言葉につまったりすることは普通にあることです。ただ、それは必ずしも情報を隠しているわけではありません。単に訳語を忘れたか、疲労から訳出に遅れがでただけかもしれません。一度出した訳を撤回することも時にはあります。ただ、これをジャーナリストが許さないのであれば、誤って出した訳を訂正できなくなるので、通訳者としてはかなり困ります。通訳者も人間ですから、どんなトッププロであってもミスはします。ミスは時間の問題なのです。

とは言っても、通訳者によっては無用な衝突を避けるために、意図的にコミュニケーションを操作するケースは確かにあります。ですが、少なくとも日本人の通訳者においては、悪意をもって操作するケースは少ないと私は信じています。おそらくシンの念頭にあるのは中国や北朝鮮のように通訳者が政府当局に監視・管理されている状況だと思います。

日本人通訳者がコミュニケーションを操作するとしたら、その主な理由は、ジャーナリストが日本の文化や文脈、空気を理解していないためだと思います。通訳者としてはジャーナリストの面子を守りたいと考えるのが普通です。その場を険悪なムードにしたくない。ジャーナリストが「いや、それでも俺は突っ込んだ質問がしたいんだ。ムードなんてどうでもいい。俺が出禁になってもいいからガンガンやってほしい」と思うのであれば、事前にそれを通訳者に伝えるべきです。プロの通訳者であれば、覚悟を決めて一緒に戦って(?)くれるでしょう。それは無理ですと断る通訳者もいるかもですが(笑)。

4. Color: Unless your interpreter is diligent about translating every single sentence, including offhand remarks or under-the-breath mutterings, your ability to add color to a scene will be impaired.

話者の発言を丁寧に訳すことは大事ですが、通訳環境によってはそれができない場合があります。例えば複数の話者が入り乱れて話す場合。この場合は全部訳すことは不可能なので、まとめ版を訳すことが多いです。某新聞社と仕事をした際には、ある理由から「可能な限り小さい声で訳してくれ」とお願いされたこともあります。

それにあえて言えば、ジャーナリストの方の失言(思わず出てしまった空気を読めてない冗談など)を通訳者が意図的に訳出しないでコミュニケーションを安定化させている場合の方が圧倒的に多いのです。時に通訳者がいることを忘れてしまって独り言をつぶやいてしまった場合とかですね。だから結局はお互いさまなのですが、仮に通訳者にすべての発言を訳してほしいのであれば、事前にきちんと伝えるべきなのです。プロの通訳者であれば自分ができること、できないことを把握しているので、ジャーナリストの目的に沿った通訳を提供してくれることでしょう。いずれにしても、シンが言うような「通訳者を訓練する」という視点は、無駄な上下関係を生むことから適切な通訳が難しくなるだけであり、通訳者は自分(話者)自身の延長だという視点-実務者として私が信じる真理-が欠落していると思うのです。

2012年11月29日

Found in Translationが面白い。


Common Sense Advisory研究員のナタリー・ケリーさんが新著を発表しました。

Found in Translation

翻訳は私たちの生活にどう影響を与えているのか?一般人にはなかなかイメージしにくいのではないでしょうか。「英語(または外国語)ができるのだから、翻訳なんて簡単でしょ?」と考える人が少なくない中、一般向けにこういう本が書かれるのは良いことだと思います。翻訳者が何をしているのか、その仕事があんな所やこんな所で役に立っていることを具体的にイメージできますからね。
Translation. It’s everywhere we look, but seldom seen—until now. Found in Translation reveals the surprising and complex ways that translation shapes the world. Covering everything from holy books to hurricane warnings and poetry to peace treaties, Nataly Kelly and Jost Zetzsche offer language lovers and pop culture fans alike an insider’s view of the ways in which translation spreads culture, fuels the global economy, prevents wars, and stops the outbreak of disease. Examples include how translation plays a key role at Google, Facebook, NASA, the United Nations, the Olympics, and more.
 一ヶ月前にグーグル本社で行われた講演を観れば本の内容が少し分かるかなと。


ちなみに本で紹介されているケーススタディーでは日本翻訳者協会会員のNora Stevens Heathさんや鈴木いづみさんも登場してます。

2012年11月28日

政府の公式文書が機械翻訳されて大炎上

翻訳者のあいだで最近話題になってるネタがこれ。

Chinese version of Julia Gillard's Australia in the Asian Century paper was poorly translated

In the translation of the executive summary, the last line referring to a "highly skilled workforce" was translated into a word meaning "an army of labour".

A reference to "world-beating actions" became "only one in the world". And on page 18, a reference to pathways was translated to "leading peak", but the translation also referred to a famous mountain in Hunan province.

One Chinese national studying in Australia, who asked not to be named, told The Sunday Telegraph: "It's kind of unbelievable. I was ready to cry when I read it. It just looked like they asked some random uni student to translate.

"It is reasonable to suspect that the person who translated this white paper relied heavily on Google Translate, not their Asian language skills."
まあ早い話が、ギラード豪首相が発行人のホワイトペーパーが機械翻訳されて意味がおかしくなったと。政府の公式文書が堂々と機械翻訳される時代がついにきたかという感じです。まあ結果は想定内ですが。

そして一部では負け惜しみなのか、苦しい弁解なのか、よくわからないコメントが…
The Confucius Institute at the University of Western Australia was more diplomatic.

"Upon a quick review of the Chinese version, it was found to be readable and understandable, although there was room for improvement, especially in the choice of word/terms," a spokesman said.
 いやいやいや、どう考えても誤訳でしょう(笑)。

さて、さらに問題なのが、これを翻訳した業者(翻訳者?)がNAATI認定を受けていること。ただでさえ業界内ではあまり評判が高くないNAATIなのですが、これでさらに信頼ガタ落ちですね・・・
A spokeswoman for the Prime Minister said the translation was done by a service accredited by the National Accreditation Authority for Translators and Interpreters.
ちなみにシドニーで来月開催されるJubilaTIon 25に参加します。地元オーストラリアですので、このショッキングな出来事についても追求されることでしょう。

2012年11月27日

翻訳で失敗しないために~翻訳発注の手引き

 
踊る翻訳者こと杉本優さんが訳したクライアント啓蒙活動用の冊子 “Translation: Getting It Right – A guide to buying translations” の日本語版が発行されました。

「翻訳で失敗しないために〜翻訳発注の手引き」

杉本さんのブログから引用。
「翻訳で失敗しないために〜翻訳発注の手引き」は、タイトルにもある通り、翻訳を発注するクライアントに読んでもらうことを念頭に書かれています。厳しい 環境の中だからこそ、「翻訳というプロセスを正しく理解し賢く利用することで対費用効果を上げる」というこの冊子のメッセージを、翻訳を利用するクライア ント側に伝えていくことが大切だと思います。翻訳関係者の皆様、どうか普及にご協力をお願いします。
明日開催の翻訳祭では300冊ほど配布されるらしいので、ぜひ一つお持ち帰りを。

2012年11月26日

ペア通訳に裁判官がキレる。

NAJITのメーリングリストで祭りになっているニュース。

Frustrated judge exposes government waste


簡単にまとめると、いつもペアで仕事している通訳者が一人体制の通訳を拒否し、裁判官が半ギレしたと。確かに通訳者の気持ちはわかります。私も一人で8時間通訳した後は夕飯が食べられないくらい疲れて、帰宅してすぐリビングにゴロンと横になって寝てしまった覚えがある。長時間の通訳は可能な限りペアで対応するべきだと思います。

ただ一方で、通訳者の側も柔軟に対応すべきケースはあると思います。

According to the 2009 standards and procedures of the Office of Court Interpreter Services, "court interpreters should recommend and encourage the use of team interpreting whenever necessary, and when resources allow."

ここの太字の部分を通訳者が厳しく解釈しすぎるケースもあると思います。例えば動画でも例が挙げられていますが、1時間の法廷通訳に必ず2人必要か、という問題です。私の経験から言えば、1時間の法廷通訳は1人で十分、というか2人だと逆にリズムに乗れない場合もあるかもしれません。記事が扱っている例の具体的状況はわかりませんが、仮に「ペアでなければ絶対に通訳しません」と言う法廷通訳者がいるのであれば、これはちょっとおかしいと思います。

要はケースバイケースで柔軟に対応したらいいのでは、というのが私の意見です。1時間のはずが長くなったら、通訳者が「すみません、これ以上やるのであれば訳の正確性を担保するためペアでお願いします」と言えばいいと。

2012年11月25日

通訳と第三次世界大戦

日本翻訳者協会が『翻訳者の目線 2012年』を出版した。普及目的のはずなのになぜか会員しかアクセスできないのが不可解なのだが(11月27日に一般公開されました)、まあせめて著作権を持っている自分のものだけでも公開しておく。


通訳と第三次世界大戦

1975年の夏に開催された全欧安全保障協力会議では、冷戦時代の東西対話に大きな役割を果たしたヘルシンキ宣言が採択された。最終的には全参加国(35ヶ国)が調印したが、合意までの道程は決して楽ではなかった。合意書が複数言語で作成される場合、各国は署名する前に一つひとつの文章内容が一致しているかどうか検証した上で認証する。ヘルシンキ宣言の場合は6言語ある草案を比較し、言語専門家(翻訳者・通訳者)が各言語バージョンについて「内容は同一だ」という認証を行う必要があった。合意書の内容を巡り東西の思惑が激しく衝突したことから、200人近くの専門家が寝ずにフル回転して調印日に間に合わせた。翻訳者・通訳者抜きでは世界平和は成し遂げられない。しかし、適性を見誤ると政治的混乱の原因になることもある。

西ドイツのハンス・ディートリッヒ・ゲンシャー外相(当時)が合意に先立ちフィンランドを訪れた際、首都ヘルシンキで記者会見を行った。通常の担当通訳者は休暇中だったので、大使館は格安の通訳者を雇っていた。東西ドイツ統一への道筋を立てるべく、外相は「重要なのはpeaceful change of borders(平和的に国境を変更すること)だ」と発言した。しかし政治は専門外である通訳者は何を勘違いしたのかpeacefulを訳さずに「重要なのはchange of borders(国境を変更すること)だ」と発言した。要は本来の意図から外れて、「つべこべ言わずに今すぐ国境を変えろ」という印象になってしまったのである。東側がこれを聞いたら態度を硬化させるに違いない。

幸いなことに、会場にはドイツ語とフィンランド語に堪能な記者がいた。危険を感じた記者は前に詰め寄り、「外相、今すぐ会見をやめてください!このままでは第三次世界大戦が勃発します!」と言った。そこで初めてミスが発覚したのである。

たった一言が異なるだけで意味が完全に変化してしまう。翻訳・通訳とは責任が重い仕事なのである。

2012年11月24日

iTunes映画の字幕が悲劇的なことに。

iPad miniが届いたので色々試しています。この画面サイズだと映画はどうなんだろうと思ってiTunesで日本版スパイダーマンをレンタルしたら、本来なら表示されるはずがない字幕コードがモロに出ていてビックリ。誰もいないと思って試着室のカーテンを開けたら女性が着替えてた的な展開です。


ツイッターで写真を公開したら早速反応が。



ここでチョコ姐さんが海外作業説。まあ日本語チェックしてないのは確実。


作業データが間違って使われたのか?それともデータ入れ込みの問題なのか?




ここでホリー姐さんがなつかしい話を・・・



どうやらiTunesの映画レンタルには字幕オプションがないみたいなので、しばらくは様子見ですね。

ちなみにiPad miniですが、超使えます。とにかく軽い上に、サクサク感は今までと同じ。このサイズだったら舞台上の通訳でも持って上がれますしね。今年一番の買い物になりました。

2012年11月23日

通訳翻訳ジャーナル2013年冬号。


通訳翻訳ジャーナル 2013年冬号(今週発売)の「"日本語力"強化大作戦」特集と「地方で働く通訳者・翻訳者インタビュー」で生意気な意見を散らかしてきました。いつも態度がデカくてすみません。天才でごめんなさい(←会田誠へのオマージュ)。

日本語力強化に役立つ本を三冊紹介してくださいと編集部にお願いされたときは、とりあえず田中美知太郎全集でも読んどけ…とは当然言えないので、懐に優しい新書を選びました。台所事情が苦しい新人さんもいるでしょうからね。ちなみに夏目さんが『ずばり東京』を選んだのはナイスだと思いました。私にもうちょっと勇気があれば講談社現代新書の『性の用語集』とかズバっと選んでみたかったですよ…

個人的には「日本全国 通訳・翻訳お仕事MAP」がなかなか良いと思います。シンプルなデータですが、ここから何を読み取れるか。それが「ビジネス」としての翻訳者の成功を支えるのではないかと思います。

2012年11月22日

神谷美惠子と翻訳



ツイッターのラーメン番長である@ura_mami先輩に陸前高田市図書館ゆめプロジェクトについて教えてもらった。早速ダンボール三箱分の本をまとめて送ったのだが、整理中になつかしい本を発見。

神谷美惠子 聖なる声

私は海外で教育を受けたので、日本に戻ってからはとにかく勉強することが山ほどありました。日本史、地理、文化など、日本人であれば中学生でも知っているような基本的なことから。天皇家だって、「え、ミチコサマ?それっておいしいの?」レベルだったわけです。

それで美智子皇后についてもそこそこ勉強したわけですが、その過程で神谷美惠子と出会いました。後で知ったのですが、神谷は医師でありながら語学の素養があり、翻訳書も多数残していて、私が深い感銘を受けたフーコーの『臨床医学の誕生』マルクス・アウレーリアスの『自省録』も彼女の翻訳だったのです。いやあ、感動しましたよ。運命の出会いと言ったらおおげさかもしれませんが、それくらいの縁を感じましたね。私が翻訳を仕事にするきっかけを作った一人であることに間違いありません。

もっとも彼女は別に翻訳者を目指していたわけではなく、父親の前田多門が戦後に文部大臣に就任し、信頼できる人材で周辺を固めたかったからなんですね。人材不足というのもありますが。

前田多門は文部大臣になると、自分の仕事をやりやすいように、周辺を親しい人たちで固めた……問題は、占領軍がやってくるというのに、文部省に実用的な英語のできる人はひとりしかいなかったことだ。戦時中に英語は「敵性国家」の言語とされていたから、英語力のある人材は無用だったのである。

ここで美惠子は「占領軍とのやりとりに困るから、急場をしのぐためだけでも来てくれ」と多門から必死の形相で懇願された。美惠子自身も父を助ける必要を感じていたので、東大と文部省を行ったり来たりした末に、十月からは文部省に勤めるようになる。

そして朝から晩まで翻訳に明け暮れることとなるのですが、やはり神谷も人の子。煮詰まって悩むこともあったようです。

日本の最高レベルの知識人が文部省の中枢に位置し、占領軍のなかのリベラルな人たちと戦後日本の教育の再建にあたる。熱っぽい議論が沸騰する。その通訳や文書の翻訳が美惠子の仕事になり、しばしば徹夜で英訳をすることになる。

「奴隷のごとく英訳をしている間にたまらなくなって、とうとう爆発」 といった事態になるが、それでも辞めるわけにはいかなかった。

私は神谷の素朴で純粋な人間性、とにかく真っ直ぐなところに惹かれます。それは彼女が神谷宣郎と出逢って本物の愛を発見し、その時の気持ちを綴った日記に表れています。

「彼の愛と理解は丁度この春の慈雨のように私の上にふりそそいでいる。それによって私のうちなるものがぐんぐんのびて行っているような感じがする。この二、三日、なんというあたたかさであろう。春遠からじの感が深い。ああ私の人生にもようやく真の春が訪れんとしているのか。昨日電話で彼の声をきいたとき、このことの成るのをただただはっきりと感じた。私にこのような春を迎える権利があるのか、とただただ勿体ない気がする。沢山の不幸せな人々を思うとどうしていいかわからないような気がする。どうかこのことにより私が少しでも成長しさらにあたたかく深き愛を人に注ぐことができるように!」
 
このとき、まだ交際を始めて一ヶ月も経っていなかったそうな。純粋すぎて泣けます!嫁にほしい!

2012年11月21日

日米Kindleアカウントの結合について

Kindleの日本上陸に全国の翻訳者が盛り上がっている印象ですが、私も例外ではありません。Kindle Paperwhite本体の到着は週末あたりになりそうですが、一足早く届いたiPad miniにKindleアプリを入れて楽しんでます。

私のように日米アマゾンのアカウントを同じメールアドレスで取得している人はアカウント統合の際にエラー表示が出たかもしれませんが、日本アマゾンにメールで問い合わせればすぐに統合してくれます。 で、アカウント統合で心配していたのが、日本アマゾンをデフォルトショップに指定してしまったら米アマゾンで買い物ができなくなるのでは?ということ。日本アマゾンで入手できない本もありますし、米アマゾンの方が安い場合が多いのですよね。

それで検索してみたら、どうやら心配の必要はなさそうです。

日米Kindleアカウントを結合しても購入ストアは自由に切り替えできます

念のためにアマゾンのカスタマーサービスに同じ質問を投げてみたら以下の回答が。
アカウントの結合後に、ご利用頂くKindleストアの変更は可能ですのでご安心ください。

同時に利用することは出来ないため、Amazon.co.jpKindleストアを選択していて、Amazon.comのKindleストアに変更されたい場合は、そのアカウントでご利用頂くKindleストアを切り替えていただく必要がございます。

その場合は、アカウント結合後に以下をご参照のうえご設定ください。

1,アカウントサービスのMyKindleの居住国設定にアクセスします。

2,「居住国設定」メニュー内の、以下の文章が表示されますので、「詳しくはこちら」をクリックします。
(アカウントの結合がまだのお客様は、「詳しくはこちら」のリンクをクリックしてアカウントの結合をしてください。アカウントの結合が済んだお客様は、「詳しくはこちら」をクリックすることで、購入先サイトの変更ができます。詳しくはこちら)

3,Amazon.com kindlestoreとAmazon.co.jp kindlestoreが表示されますので、「Amazon.comに登録を変更するには」をクリックします。

4,「好みのショッピングサイトを Amazon.com に変更しますか?」と表示されますので、「はい。好みのショッピングサイトを変更します」をクリックします。

5,「Thank you for transferring your Kindle Account to Amazon.com」とメッセージが表示され、Kindleコンテンツの購入先のサイトはAmazon.comに変更が完了となります。

また、Amazon.co.jpのKindleストアに変更されたい場合は、Amazon.co.jpのアカウントサービスにMy Kindleにアクセス頂きますと、「お客様のKindleアカウントは現在Amazon.comに登録されています。」とのメッセージが表示されますので、「詳細はこちら」より画面の指示に従って、ご変更ください。
Enjoy reading!

2012年10月30日

【検索用】沖縄総合事務局 組織の英訳名

内閣府沖縄総合事務局   Okinawa General Bureau, Cabinet Office

局長   Director-General, Okinawa General Bureau, Cabinet Office
次長   Deputy Director-General,Okinawa General Bureau, Cabinet Office
部・課長等   Director of...

内閣府事務官   Official, Cabinet Office
内閣府技官   Technical Official, Cabinet Office

総務部   General Affairs Department
  総務課   General Affairs Division
  人事課   Personnel Division
  会計課   Accounts Division
  調査企画課   Research and Planning Division
  跡地利用対策課   Division for Redevelopment of Military Base Conversion Sites
  公正取引室   Fair Trade Office
  振興企画官 Senior Officer for Promotion and Planning
  (主任)調査官   (Lead) Administrator for Research
  監査官   Director for Audit
  情報管理官   Director for Information System Management
  庁舎管理官 Director for Government Office Management

財務部   Finance Department
  財務課   Budget and Funds Division
  理財課   Financial Division
  検査課   Inspection Division
  金融監督課   Banking Facilities Division
  管財総括課   National Property Coordination Division
  証券取引等監視官   Director of Securities and Exchange Surveillance Department
  統括国有財産管理官   Supervisory Officer for National Property Management
  宮古財務出張所   Miyako Branch-Office of Finance Department
  八重山財務出張所   Yaeyama Branch-Office of Finance Department

農林水産部   Agriculture, Forestry and Fisheries Department
  農政課   Agricultural Administration Division
  経営課   Management Improvement Division
  土地改良課   Land Improvement Division
  生産振興課   Agricultural Production and Livestock Industry Division
  統計調査課   Statistics and Survey Division
  消費・安全課   Food Safety and Consumer Division
  食品・環境課   Food and Environment Division
  林務水産課   Forestry and Fisheries Division
  総務調整官   Senior Officer for Administrative Coordination
  首席企画指導官   Senior Officer for Policy Planning
  那覇農林水産センター   Naha Agriculture,Forestry and Fisheries Center
  名護農林水産センター   Nago Agriculture,Forestry and Fisheries Center
  宮古島農林水産センター   Miyakojima Agriculture,Forestry and Fisheries Center
  石垣農林水産センター   Ishigaki Agriculture,Forestry and Fisheries Center
  土地改良総合事務所   Land Improvement General Office
  伊江農業水利事業所   Ie National Irrigation Project Office 
  宮古伊良部農業水利事業所   Miyakoirabu National Irrigation Project Office

 

経済産業部   Economy, Trade and Industry Department
  政策課   Policy Division
  企画振興課   Development Planning and Promotion Division
  地域経済課   Economic Policy Division
  商務通商課   Commerce and Distribution Division
  中小企業課   Small and Medium Enterprises Division
  環境資源課   Environmental Protection and Natural Resources Division
  エネルギー対策課   Energy Policy Division
  石油・ガス課  Petroleum and Gas Division
 
開発建設部   Development Construction Department
  管理課   Administration Division
  用地課   Land Acquisitions Division
  防災課   Disaster Prevention and Relief Division
  技術管理課   Engineering Management Division
  港湾計画課   Port Planning Division
  港湾建設課   Port Construction Division
  空港整備課    Airport Construction Division
  港湾空港防災・危機管理課 Port and Airport Disaster Prevention, Security and Emergency Division
  建設行政課   Construction Administration Division
  建設産業・地方整備課   Construction Industry and Regional development Division
  河川課   River Division
  流域調整課   Basin Coordination Division
  道路建設課   Road Construction Division
  道路管理課   Road Management Division
  建設工務室  Construction Engineering Works Office
  営繕課   Government Buildings Division
  営繕監督保全室   Government Buildings Construction Supervision and FacilityManagement Planning Office


 企画調整官   Senior Officer, for Planning and Coordination
  総務調整官   Senior Officer for Administrative Coordination
  営繕調査官   Senior Officer, for Government Buildings
  技術管理官   Senior Officer, for Engineering Management
  港湾空港指導官   Senior Officer for Port and Airport Policy Planning
  公園・まちづくり調整官   Senior Officer for Park and Urban Policy Management
  港湾空港情報管理官   Senior Officer for Port and Airport  Information Management
  低潮線保全官    Senior Officer for Low-water Line Conservation
  収用認定調整官   Senior Coordinator for Expropriation Authorization
  景観環境事業調整官   Landscape for Environment Project Coordination
  官庁施設保全指導官   Director of Government Facility Management and Maintenance Planning
  監査官   Director for inspection
  総括検査・技術指導官   Senior Officer for Inspection and Engineering of the Construction
  災害査定官   Disaster Assessment Officer
  港湾空港技術対策官   Senior Officer, for port and Airport Engineering
  用地官   Senior Officer, for Land Acquisitions
 
  営繕技術専門官   Government Buildings Engineering and Planning Officer
  営繕監督官   Government Buildings Construction Supervisor
  北部ダム事務所   North Dam Construction Office
  北部ダム統合管理事務所   North Dam Integrated Control Office 
  南部国道事務所   South National Highways Office
  北部国道事務所   North National Highways Office
  那覇港湾・空港整備事務所   Naha Ports and Airport Office 
  平良港湾事務所   Hirara Port Office
  石垣港湾事務所   Ishigaki Port Office
  国営沖縄記念公園事務所   Okinawa Commemorative National Government Park Office 

運輸部   Transport Department
  企画室   Planning Office
  総務運航課   General Affairs and Maritime Transport Division
  船舶船員課   Ship Administration and Seafarers Division
  監査指導課   Business Inspection Division
  陸上交通課   Road Transport Division
  車両安全課   Vehicle Safety Division
  海事振興調整官    Senior Coordinator for Maritime Policy 
  国際観光調整官   Senior Coordinator for International Tourism
  海事保安・事故対策調整官   Senior Coordinator for Maritime Security and Accidents  
 
  (首席)運航労務監理官   (Principal)Safety Management and Seafarers Labor Inspectior
  (首席)海事技術専門官   (Principal)Maritime Technical Officer
  (首席)海技試験官   (Principal)Ship Officers Examiner
  (首席)外国船舶監督官   (Principal)Port State Control Officer
  陸運事務所   Land Transport Office
  宮古運輸事務所   Miyako Transport Office
  八重山運輸事務所   Yaeyama Transport Office

審議会等    
  沖縄位置境界明確化審議会   Okinawa Council for Clear Boundary Definitions 
  国有財産沖縄地方審議会   Okinawa Regional Council on National Property 
  沖縄地方鉱業協議会   Council for Okinawa Mining Region
  沖縄地方交通審議会   Okinawa Council for Regional Transport

2012年10月24日

もっとポッドキャスト。おまけにiTunes Uとか。

 
前に書いたポッドキャスト記事が意外に好評だったので、もう少し追加で紹介します。お好みで試していただければ。

ちなみにこれだけ紹介すると「お前、ホントに全部聴いてるのか?」とツッコミが飛んできそうですが、当然聴いてません。内容によっては適当にスキップしてますし、軽めの番組は部屋を片付けながら流しているだけということも。あまり気張らずにいきましょう。


NPR: Planet Money Podcast

基本的にはお金(経済)に関するニュースやトピックについて一般市民でも分かるように解説するのですが、時には遊び心満載の企画で楽しませてくれたりもします。たとえば米大統領選でロムニー候補のオフショア口座が話題になった時、「そもそもオフショア口座ってなによ?」という問いから始まり、「分からないけど、とりあえず自分たちで口座を開設しちゃう?」という完全なノリで本当にやってしまいました。というか、この企画はまだ進行中。他にも、経済学者に政治を任せたらどうなるかという思考実験もやったり(もちろんカオスな展開に)。お金を見る目が変わりますよ。


ProPublica: Podcast

プロパブリカは日本ではまだあまり知られていないようですが、2010年、2011年とピュリツァー賞を連続受賞したオンライン調査報道機関です。ポッドキャストも硬派で、ロムニー候補のベイン・キャピタル時代の実態を暴いたり、麻薬戦争や環境汚染問題についても容赦なく切り込んでいます。ツイッターやフェイスブックに代表されるSNSの台頭で情報の伝達速度が大幅にアップした中、大手の紙メディアが生き残るにはプロパブリカのように調査報道(スローフードならぬ「スロー報道」)に力を入れるべきだと思うのですけどね・・・


A Way with Words

言語としての英語を深く語る番組。話題の言葉や表現を雑談を交えながら解説し、ホットな造語も紹介。リスナーのニッチな質問にも逃げずにしっかり答えるところがすごい。だって想像上のキャラクターであるCyclopsの複数形はなに?とか、まともな単語らしいけどなぜか辞書に載ってない単語の意味を調べてくれとか、日本の英語教師なら全速力で走って逃げそうな難問ばかり。似たような構成で、言葉としての日本語を深く掘り下げる番組があってもいいと思うなあ。


ラジオの街で逢いましょう

前回紹介した『ラジオ版 学問ノススメ』の似たような感じではあるのですが、こちらはMCが複数人いて交替で担当しているのと、トークも少し緩めで全体的にソフトな感じです。扱うトピックはかなり多彩で、尊厳死から地方自治、ノマドから猫語の効用までなんでもあり。もう昭和のプロレス的な印象さえ漂います(笑)。


文化系トークラジオLife

文化系というだけあって、理系的知識は一切必要ない。パーソナリティが社会学者であり、ゲストも社会学系の方が多い。といってもガチな学問としての社会学を勉強する番組ではなく、リスナーの意見を交えながらテーマについてフリートークする形式。私は4年くらい前から聴いているのですが、2009年の「現代の現代思想」はネ申回だったと思います。はい。あと澁谷知美さんが東方神起をアツく語る回とかも。


で、前回お約束したiTunes Uのお薦めも。私は講演系のaudioが多いのですが、iTunes Uは動画視聴が大前提となっているコンテンツが多いので、適当に自分が好きなコースを検索してみるといいです。以下、説明は省きますのでリンク先を読んでみてください。

Arming the Donkeys

America's Founding

Game Theory (audio) OR (video)

Law and the Constitution

Law School Lectures

Major Speakers

What Great Bosses Know

Election 2012 (Video)

ネットワーク産業論2012(Video)

パターンランゲージ2011(Video)

2012年10月23日

中井智恵美さんの訳書が出ました。


4年ほど前にほ~んの少し通訳と翻訳を教えていた中井智恵美さんの訳書が出ました。タイトルは『お母さんと赤ちゃんが楽しむベビーヨーガ』です。ご丁寧に英語の原著と日本語の訳書を献本いただいので、空気を読んで明日から誤訳チェックします(ウソ)。

中井さんとは私が県民向けに主催した通訳ワークショップで出会ったのですが、初めて会ったときからとにかく学びに対する執着心というか、なんでも吸収したいという気迫が強く感じられました。もともと翻訳者・通訳者としてのベースがある程度できていたこともあり、別に私がいなくても勝手に成長してデビューしていたでしょう。今後の活動にも期待しています。

そういえば今年は普及活動を全然していない。来年はもうちょっと頑張ります、はい。

2012年10月19日

TEDxKyotoで通訳。アンド裏話。


9月16日に京都大学で開催されたTEDxKyotoで通訳してきました(動画が公開されるのを待ってたら一ヶ月もかかってしまいました・・・)。

実は年に何度か、社会的意義があると私が認めるイベントなどでボランティア翻訳・通訳をしています。2年前は関西の環境団体で通訳、昨年は震災被害者支援団体で翻訳、今年はTEDxというわけです。NHKで『スーパープレゼンテーション』が始まって以来、日本でもTEDがドーンと盛り上がってきていますね。通訳はもちろんですが、TEDxの裏方に興味があったので行ってきました。

TEDxKyoto動画はこちらから。
 


私が担当したのでは3人で、一発目は京都大学の松本紘総長。通訳担当を決めるときに、「松本さんは宇宙電波工学が専門か。これはパスやな・・・」と、チキン思考になっていたのは私だけではないはずです。誰も希望しなかったし(笑)。その状況を見かねたのか、実行委員が私に直接依頼してきたのでした。プロとして期待されてるのかなあと、勝手にやる気になって承諾。でもやっぱり宇宙電波工学かあと後でちょっぴり後悔。

松本さんは多忙な方で、リハーサルにも代理人が出席。しかたないので手持ちの資料を読み込んで準備したら当日の朝になって資料はほぼ別モノになっていて、原稿は当然無し、おまけに日本語で話すはずだったのが英語で発表することに。私の通訳キャリアの中でも、発表30分前に言語をかえた人は初めてです。ただし、発表は真面目な内容ですが、打ち合わせでは彼のアシスタントも含めてボケとツッコミの応酬で笑いっぱなし。ああ、この人と居酒屋で飲んだら面白いだろうなあと思いました。って、そっちかよ。

改めて動画を観てみると、後半の東洋思想の部分が結構深イイ。感覚で通訳したから訳は覚えてないけど、うまくできたかな。ちなみに私はvelocityをスピードと訳していて、「velocityは方向があるから速度だよね」というもっともなツッコミをツイッターで発見したが、それは私も知ってますよ。一応、元物理学専攻なので。打ち合わせのときに総長とアシスタントがスピードスピード言うから、つられてスピードにしてしまいましたよ。ごめんなさい!



ソーシャルメディアコンサルタントの熊坂仁美さん。ソーシャルメディアは私の得意分野なので彼女を第一希望にしたのですが、蓋を開けてみたらソーシャルメディアとはまったく関係なく、熊坂さんがいかにどん底から這い上がってきたかの話。ラフ原稿を読んですぐに「うわ、これは女性が担当するべきだよな・・・」と思いましたが時すでに遅し。私は発表者が男性なら通訳者は男性、女性なら通訳者も女性であるのが理想的だと思います。年齢もだいたい合わせられたら最高ですね。

実際、私の通訳は内容的にはかなり精度が高かったと思うのですが、私の低い声では感情的等価が得られない。つまり、一言でいえば女性的なけなげな訴えに欠けていて、聴く側の心が揺さぶられない。その意味では、完全な失敗だったかもしれません。ボランティアとはいえ、反省を強いられる一件でした。

あと、例えば3:09あたりの「清水の舞台から飛び降りるように・・・」のくだりでは、緊張のせいか、または当時の記憶と感情がこみ上げてきているのか、熊坂さんの声がかすかに震えています。普通の同時通訳でしたら気にもしませんが、前日リハーサルをやって原稿も頂いていたので、このような細かな表現も捉えてあげたかった気がします。だって動画を観た私の心が揺さぶられるもの。



ミネソタ大学のデイビッド・アーンスト(David Ernst)博士。彼については何も知らず、「へえ、面白そうな発表タイトルだなあ」というノリで希望しました。発表が上手い方で、短時間でまとまった内容に仕上げています。

私はカナダの大学を卒業したのですが、教科書代の工面はいつも大きな問題でした。 学内の書店では新品の教科書と一緒に中古本も売られていたのですが、毎年すぐに売り切れ。でも新品は高すぎて手が出ないものもある。ルームメートと一緒に買ってシェアしたり、図書館を利用したりと、貧乏学生は本当に辛かったです。ビール代は十分に確保してたけど。

さて、TEDxKyotoで採用されたTED動画は以下の通り。一部は時間の関係で流れませんでしたが、まあ参考までに。

















ちなみ最後まで読んでくれたあなたに朗報・・・ではないけど、告知です。10月28日にTEDxKids@Chiyodaでまた通訳します。よろしく!

2012年10月18日

11/28 JTF翻訳祭

お隣の日本翻訳連盟さんが今年も派手な祭りを開催します。11月28日(水)にいつものアルカディア市ヶ谷で。

第22回 JTF翻訳祭

正直な話、5~6年前までは残念なプレゼンが多かった印象なのですが、マルチトラックになった年から一気に盛り上がってきて、私もまた参加するようになりました。最近のJTFは機関紙の内容を強化して、おまけに非会員でも読めるように無償配布を始めたり、時代の流れを読んで積極的に攻めているようです。実に素晴らしい!

今年はどうやら映像化の計画はないようですが、年を追うごとにソーシャルメディアでの実況がパワーアップしてきているので、参加しなくてもそれなりに楽しめそう・・・じゃなくてぜひ参加してください。私も行くので。たぶん勝手に非公式前夜祭も企画します。 (キリッ

2012年10月17日

第9回JAT新人翻訳者コンテスト

今年も日本翻訳者協会のコンテストが開催されます、というかもう募集中です。

第9回JAT新人翻訳者コンテスト

理事時代にコンテスト担当だったことがあるのですが、まず質が良い課題文を探すのが難しかったことを覚えています。①著作権の問題をクリアした素材というのが大前提であり、②簡単すぎては面白くないからダメ、でも難しすぎると応募者が激減するのでこれもダメなのです。検索に何時間費やしたことか。その点、今年の課題文、特に英日は面白そうですね。

各部門の最優秀賞受賞者は翌年のIJETに招待されるのですが、来年はなんとハワイです。みなさん、ぜひチャレンジしてみてください。応募者数は50名が上限で、英日は残り少しです。

2012年9月6日

Facebookグループの紹介。


ここで宣伝タイム。

業界関係者との交流促進と情報交換を目的として、いくつかのFacebookグループを運営しています。興味がある方はぜひご参加を。アカウントを持っていれば他にはなにも必要ありません。

Interpreters (Japanese)
日本語+他の言語で通訳している人向けのグループ。単に関心があるだけでも参加できますよ。

ゲーム翻訳者
@Garyou_Tenseiさん、@utakobutaさんと一緒に運営している文字通りゲーム翻訳者向けのグループ。といっても現時点では基本的にプロでなくても参加OK。将来的にはゲーム会社の中の人を呼んでイベントでもしようかと企み中。

日本法廷通訳人協会(仮)
名前はドーンとしてますが、法廷通訳人同士の情報交換を目的としたまったりグループです。今の所は現役で活動している方しか参加できません。参加希望の方は私に登録言語と登録裁判所をメッセージで送ってください。

2012年8月31日

9/1 JAT通訳グループ(JIG)のキックオフイベント

日本翻訳者協会(JAT)に通訳グループが立ち上がりました。私も後方支援しています。で、突然ですが明日、渋谷でキックオフイベントを開催します(亀告知ですみません)。第一線で活躍している通訳者をズラリと並べましたので、楽しいイベントになるはずですよ!

開催概要は以下の通り。

■日時: 2012年9月1日 (土)14:00-17:00

■場所:渋谷道玄坂 FORUM 8 1104会議室

■講演タイトル/講演者

A day in the life of a liaison interpreter / Lionel Dersot
監査通訳 / Derek Wessman
Medical Interpreting: Problem Prescription and Prognosis/ Cate Swift
どうするレートアップ-失敗はつきもの? / 宮原美佳子
Running an interpreting company—a new model / Dan Tanno

■交流会: 17:15- 場所: The Aldgate British Pub

■参加費: JAT会員 無料 / 非会員  1,000円 (交流会参加費は別途)


この通訳グループは今後も年に数回のペースで活動を続けていく予定なので、応援よろしくお願いします。実務通訳者の情報交換とネットワーキングを主目的とした団体/組織はこれまであまりなかったと思うのですが、今後はぜひ面白いことができたらいいなと思っています。

2012年7月28日

MIISのフェイスブックページ。

カフェテリア
Monterey Institute of International Studies(MIIS)で翻訳を教えているラッセル秀子さんからMIISの公開フェイスブックページができたと連絡があった。通訳翻訳過程の日本語学科に特化されたページらしいので、他のページもあるのかな。

実は前からページはあったのだが、在学生と卒業生だけがアクセスを許されていたらしい。6月に通訳の国際会議でモントレーを訪れたときにラッセルさんと食事をしたのだが、そのときに何度も公開ページの必要性をアツく語っていたのので、大学の先生にしては珍しくSNSの効果を理解している方だなと思っていた(上から目線でバカにしているように読めるかもしれないがそうではなくて、一般的にはSNSに無関心な先生が多い印象なので素直に驚いた)。それにラッセルさんはMIIS愛がありますからね、ホントに。

国際会議に一緒に参加した通訳仲間の宮原美佳子さんも記事を書いているが、モントレーは学費が比較的高い。でもカリキュラムはしっかりしているし、そこで実力をつけた卒業生は基本的にどこへ行ってもやっていけると聞いています。というか、これは個人的な経験に基づく意見ですが、私は現場で通訳がヘタなMIIS卒業生に会ったことがない。日本の通訳学校を出た方の中には(残念なことに)あまり上手くない人もいるわけですが、MIIS卒業生は本当に反応も良いし、柔軟に意訳できるし、なにより度胸がある。メンタルが強いのです。MIISで徹底的に叩かれている証拠でしょう。

一時は日本人留学生が多数だったのに近年は少数派になっていて、むしろアメリカ人学生が増えているのだとか。そういえば今時の日本人は留学をしなくなっていると話題になっていますよね。まあ個人の勝手といえばそうですが、確実に翻訳・通訳の実力をつけたいのであればMIISで学んで損はないと思います。カリキュラムはもちろんですが、学習環境も素晴らしい。志が高い仲間との出会いもありますしね。ああ、あと10年若ければ私も行きたかったです。

Monterey Institute of International Studies T&I Japanese

あと、在学生による日本語ブログもあります。授業でやってるエクセサイズとか具体的なことも書いてくれるのかな。というか期待。

図書館にはレアな文献もあったり。

2012年7月25日

ゴーン専属の通訳者、舞台裏を激白



日産社長カルロス・ゴーン専属の通訳を努めて12年目となる森本由紀さんが特集されました。こちらに文字おこしも。

社内通訳一筋12年。その素顔は

実はこの「その人(話者)と同じ身振り手振りで通訳することで、その人の『想い』がよりうまく伝わるような気がします」には私もかなり共感しています。というのは、同通ブース内でも気分が乗って快調に通訳していると身振り手振りが多くなってくるのですね。体全体で表現したいというか(笑)。逆にクライアントからの資料が不十分で通訳しながら内容を学ばなければならない場合は、どうしてもストレスが溜まってペンを折ったりします。私だけでしょうか・・・

2012年7月22日

法廷にど素人が現れて大混乱の巻

英国の法廷通訳事件のアップデートです。ここ数日、司法通訳関係者のなかでもっとも話題になっているトピックです。

Court interpreter farce halts murder trial
Mr Lone was forced to admit, in the absence of the jury, that it was in fact his wife who had been contracted by Applied Language Solutions (ALS) but that she had other commitments so he had taken her place. He told the judge he had taken the interpreter test set by ALS but had not received his results and was not accredited.

まあ一言でいうと、妻に通訳の依頼がきたけど忙しいから夫が代行したと。バレないとでも思ったのかな。当然まったく役に立たなくてギブアップ、おまけに緊急手配したもう一人の通訳者も実力不足というドタバタ劇。

In another case a man charged with perverting the course of justice was told he was "a pervert", while a volunteer had to be pulled from the public gallery to translate for a Slovak defendant.

傍聴席からボランティアを募るって、もうなんでもありな感じですね!

そろそろALSのアホみたいな契約を全面的に見直してほしいものですが。

2012年7月7日

翻訳フォーラムイベントのアーカイブ映像が公開に。

6月15日に開催された翻訳フォーラムイベントのアーカイブ映像が公開されました。

・基調講演「翻訳とは何か」(高橋さきの氏) 
翻訳は単なる言葉の置き換えとどう違うのか。翻訳者にはどのような能力が必要なのか。原文から訳文に至る思考プロセスはいかにあるべきか。ベテラン翻訳者が今こそ語る、これだけは言っておきたいこと。

・「翻訳メモリの功罪」(高橋聡氏) 
原文と訳文を文単位で組み合わせて保存し、訳文を再利用することで効率化を図る。しかしこのやり方では、文脈を無視して訳文を当てはめてしまう罠に陥らないだろうか。翻訳力の向上を妨げる危険性を、翻訳メモリの使い手が喝破。

・「ツールに使われないためのツールの使い方」(井口耕二氏) 
電子辞書、インターネット、秀丸マクロ、SimplyTerms…さまざまなツールを駆使する講師が、ツールを生かした翻訳方法を伝授。一連の翻訳作業を画像で示しつつ、なぜここで辞書を引くのか、Googleの検索結果をどのように読むのか、置換する語と置換しない語をどのように分けるのかなどを解説。


Video streaming by Ustream
残りの映像はこちらから(公式Ustチャンネル)。

資料はこちら。

翻訳フォーラムのツイッターアカウントはこちら。

2012年7月5日

つーほんニュース 7/5

■通訳者の醍醐味

元ヤクルトの青木宣親(ブルワーズ)がサヨナラHRを打った後のインタビュー。騒動の後でも通訳者が冷静で笑える。当事者と一緒にこういう経験ができるのが通訳の楽しいところなんです。



文科省が日本文学翻訳事業を廃止

 1億4800万円は大きいな。民間に任せるのは分かるけど、逆にこの予算を使って民間の取り組みを盛り上げることはできなかったのだろうか。完全に任せるほどシーンが盛り上がっていないのだけど。

The Translation Industry Interprets 'Recession-Proof'
 
成長率が12.17%と報告されているが、この実態はおそらくロングテールで、これまでは価格がネックで手も足もでなかった企業が、ポストエディットなどで安価になった「翻訳」を注文し始めているからではないだろうか(つまり翻訳者の収入は上がっていないと私は推測する)。ちなみにこちらのThe Top 100 Language Service Providersで日本の翻訳センターは12位、CRESTECは23位、ALAYAは42位、十印は44位である。

AT&T, interpreting firm Language Line Services team 

飛ぶ鳥も落とす勢いのLanguage LineがAT&Tと組んで通訳サービスを始めたのだが、毎月10ドルの会費はいいとして、毎分3ドルってのはどうなんだろう。状況説明だけで10分(約2400円)くらいかかりそうですけど。

Tuzynski: Translators put 'on hold' by money crunch

Court interpreters unsung but growing in importance

写真はIJET-23でもお話いただいた鬼頭さんです。

米の壁に挑む出版界 すぐ英訳/“現地化”を推進

短編の英訳に特化しているのが興味深い。でも確かに村上春樹以外はほぼ無名も同然だから、まずは日本人作家を知ってもらうところから、つまり試食をしてもらうところから始めなきゃダメなんでしょうね。

三木谷社長「もう社員に通訳必要ない」――楽天が“英語公用語化”本格スタート

英語が「社内公用語」になっただけで、日本人の実務の9割以上は日本語で行われていると思います。会議用の資料英訳は担当社員がいるのだろうし(または外注)。でも外国人が就職しやすくなったのは確かですよね。

経験に裏打ちされた経営ビジョンにより創業わずかで五指に入る翻訳専業会社へ アラヤ社長 中嶌重富

17言語通訳の携帯アプリ…しかも5人で話せる

通訳と十分な打ち合わせを TCA駐日代表・吉村章

いい通訳とは長く付き合う TCA駐日代表・吉村章

通訳をうまく使う決め手 TCA駐日代表・吉村章

Namibia: Accused Wants 'Competent Interpreter'

サッカーにおける監督通訳の重要性 「誤訳」の恐ろしさ 

これを読んで、トルシエ監督の記者会見通訳を担当した臼井さんは大変だったろうなあと思った。トルシエはマインドゲームが好きで、たびたびメディアを通じて挑発を繰り返してきたからだ。文脈理解にさぞ苦しんだことだろう・・・

洋画ジョーク翻訳の奥ゆかしさ

誰かにいきなり「私を笑わせてください」って言われたら、できますか?難しいですよね。でも洋画ジョークの翻訳って、それと似たようなものなんです。もちろん原文はあるけど、直訳しても全然面白くない。だから韻を上手く使ったり、別のものに置き換えたりして、それでも話の筋から脱線しないような形でオリジナルなジョークを形成したりすることが多い。ネタ作りに悩む芸人の気持ちがわかります。

2012年7月4日

満元証、海を渡る。

7月2日に満元証(みつもと あかし)が海を渡ってオーストラリアに通訳修行に行ったらしい。誰やねん、と早くもツッコミが飛んできそうだが、彼は通訳者志望の若者である。沖縄出身。7年前に彼が通っていた高校を通じてインターンシップの依頼があり、県内の某翻訳会社と一緒に引き受けたのが付き合いの始まりだ。とりあえず恥ずかしい写真を先に晒しておこう。

BEFORE: 2005年7月4日、ちょうど7年前の写真。
キザで照れ屋で少し挙動不審だった記憶が。
AFTER: 今の写真。彼女を絶賛募集中らしい。
この写真じゃ無理な気がしないでもないけど。
まあ写真だけ見たらチャラ男だが、実は真面目な好青年である。たぶん。うん、たぶん。

彼は昔から通訳者志望で、たびたび相談に乗っていた。大学を卒業して就職するときも、「本気で通訳者になりたいのなら就職せずに通訳学校へ行って、一年で現場に出るくらいの勢いで勉強しろ」と、今考えたら明らかに無謀なアドバイスをしていたのだが(私ならやるが、社会常識的にはちょっと無理があったかな)、親に心配をかけたくない優しい彼は私のアホなアドバイスをきちんと無視し、会社勤めをしながら通訳学校に通っていたようだ。良識ある息子を持つと親も安心だね。

でも一度就職したし、3年も働いたら通訳は諦めるんじゃないかなと読んでいたら、2011年2月頃だったろうか、まだ通訳者になる夢は捨てていないと言ってきた。松岡修造も真っ青のアツい展開。はい!そこ!諦めたらそこで終了だよ!の世界観をまざまざと見せつけられて彼の本気度を試してみたくなった私は、彼にある課題を与えた。年内に書籍80冊読破(漫画はダメ)。そして読書感想文をブログで公開。要は日本語力の底上げと、批評的思考の習得、インプットとアウトプットの習慣作りが目的の課題です。一番大変なのは継続すること。これを試してみたかった。本を読まない通訳者(翻訳者)はキャリアが始まる前に詰んでますから。

それに対する満元君のやってやりますよ宣言。喧嘩上等的な。

今だから言えることだけど、とても達成できるとは思っていなかった。というのは、年間80冊を読むプロは結構いるけど(読んでない「プロ」もいて、そういう人に限ってあまり食えてないわけだが)、内容がしっかりした感想をブログに書くのは結構な時間と労力を要するので、会社勤めしながら達成するにはかなりのコミットメントが必要だと知っていたからだ。実際、達成するには3ヶ月の期間延長が必要だった。「年内」だから、まあ会計年度という解釈でもいいかな、という軽いノリでOKしちゃった私。

で、見事に2月末に80冊をクリアした満元君。有言実行は男前だね。たまに意味不明なことも書いてあったけど。木陰に身を潜めて全部読んでたよ、一応。

さらに後から知ったのだが、彼は課題をクリアするために会社を辞めたということ。ある意味、彼の人生を狂わせてしまったようで親御さんに申し訳ない気持ちが少しあるのだが、でも彼はそれだけ本気だったということ。満元君、私は参りましたよ。あなたの本気度はガチです。もう疑いません。オーストラリアで修行して立派なウィングバックになり、ラグビー日本代表を救ってください。

最後に真面目な話。私は似たような課題を何人かに与えたことがあるのですが、達成できたのは彼だけです。満元君、よくやった!感動した!でもね、当初は130~150冊を考えていたんだよ、今だから言えるけど。

2012年7月3日

横田謙さんがガンで死去

日本を代表する会議通訳者・外交通訳者である横田謙さんがガンとの闘病の末、7月1日の早朝に亡くなられました。

私は彼と一緒に仕事をする幸運に恵まれることは一度もなかったのですが、彼の仕事ぶりを実際に見る(聴く)機会は何度かありまして、要所は細部にこだわる丁寧な訳、そうでない箇所は時には遊びが入った大胆な意訳をしたりすることもあり、百戦錬磨はやはり違うなあと感心した記憶があります。彼と親しかった通訳仲間によると、横田さんは飾り気のない人で、実直でフレンドリーな方だったとのこと。惜しい人を亡くしました。ご冥福をお祈りいたします。

※ちなみに写真はこちらのインタビュー記事から拝借いたしました。

2012年6月28日

【通訳者インタビュー】 玉城宏彦

2011年3月24日に那覇市内で沖縄の第一世代通訳者である玉城宏彦(たまき ひろひこ)さんにインタビューしました。沖縄が地位協定に基づいて初めて米軍人を裁いたベンジャミン事件(殺人)の法廷通訳を務めた方です。

インタビューには玉城さんと同じく第一世代通訳者である平良正代(たいら まさよ)さんも同席しています。通訳というよりは戦後の沖縄について色々と話していただきました。これはこれで個人的には面白かったです。



玉城さんの御厚意により、当事の新聞記事をスキャンさせていただきました。貴重な史料です!

 ベンジャミン事件の新聞報道

2012年6月27日

カリフォルニア州 法廷通訳ワークショップ

カリフォルニア州モントレーで開催されたInterpretAmericaの第三回大会に参加してきました。本大会が始まる前日に一般公開の法廷通訳ワークショップがあったので、ここに資料と音声を公開します。外部スピーカーで音声出力をアップしないと聴き辛い部分もあるかもですが。



Common Oral Interpreting Exam Performance Deficiencies

Knowledge, Skills and Abilities Essential for Court Interpretation

Court Interpreter Exam Program FAQ (California)

2012年5月26日

機械翻訳で自爆。今度は奈良。

東北観光博HPの誤訳問題について先日報告したばかりなのだが、今度は奈良で自爆事件。
奈良観光、誤訳だらけ…外国語HP一時閉鎖
自動翻訳システム、確認怠り   

東大寺の大仏はミスター・オサラギ?――。奈良市観光協会が今春更新した外国語版のホームページ(HP)に、多くの誤訳があるとの指摘を受け、協会がHPを一時閉鎖していたことがわかった。経費を抑えようと自動翻訳システムを使ったためで、「国際観光都市として恥ずかしい限り」と担当者は平謝り。HPの再開のめどは立っていない。

寺社や伝統工芸などを紹介するHPは3月に模様替え。従来の英語、韓国語、中国語、フランス語のページに、スペイン語、ポルトガル語、ドイツ語、イタリア語のページを追加した。  

この際、1言語で150万円だった翻訳の外部委託をやめて、全部で35万円のインターネットを利用した自動翻訳システムに変え、固有名詞の読み方もあらかじめ登録していなかったことからミスが続出。確認作業も怠っていたという。  

例えば英語では、東大寺の大仏を、姓の「大仏(おさらぎ)」と認識して「Mr.Osaragi」と翻訳。「仏(ほとけ)の慈悲」は「仏」を略語と解釈して「French mercy(フランスの慈悲)」とした。「平城京へ都が遷(うつ)された」との部分は、訳せなかった「遷」の字が英文に混じっていた。  

こうした誤訳は「数え切れないほど」あり、観光ガイドらから「とても外国人に見せられない」との苦情を数十件受けた協会は23日にHPを閉鎖。現在、更新前のHPを公開中だが、担当者は「自動翻訳で内容を更新するには、単語登録しなければならない言葉が多過ぎる」と頭を抱えている。

(2012年5月26日 読売新聞)
機械翻訳のニーズと重要性は私も十分認識していますが、きちんとしたメッセージを発信するにはまだまだ使えません。消費者のみなさん、いい加減に学習しませんか?恥をかいてからでは遅いですよ。