2022年6月15日

甲子園優勝監督になりました。ある意味。

2021年の振り返りと新年の抱負について1月に書こうと思っていたのだけど、安定の放置で6月になってしまいました。で、なぜいま書いているかというと、
2021年の冬(1月~3月)に主宰した英語通訳塾の受講生からついに同時通訳グランプリ優勝者が出たからです。日本が誇るバンタム級王者が井上尚弥なのであれば、アトム級王者は間違いなく上妻つぐみでしょう。「次はメイウェザーじゃ!」って言ってたし。言ってないか。

英語通訳塾はコロナ禍での実験的試みで、単純に①一定の英語力があって、②通訳を専門的に学びたいけれど、③カネがない若手を短期間で集中的に教えたらどこまで伸びるか僕自身が検証したかったのが大きな理由です。僕自身暇だったので……と言いたいところだけど、予想に反して結構仕事が戻ってきたので、途中からかなりハードなスケジュールになりすぎて死にそうでした。帯状疱疹にもなったよ、今だから言えるけど。ははは。

実は上妻さんは入塾した時点から自然と声の使い方が印象的でした。最初は逐次も同時も情報の取りこぼしが多すぎて全然できなかったけれど、かぎかっこ話法を教えたあたりから「自分の声」を発見したのか、とても表現力に磨きがかかり、プログラム後半は少し余裕もでてきて、短時間であれば同時通訳のスピードにもついていけるようになっていました。思えばこの塾では声を有効に活用することで「訳を立体的に」しようと何かにつけて教えていた気がしますが、上妻さんはそれを一番よくできていたと思います。

まあでも正直、僕が教えなくても彼女は遅かれ早かれ通訳者としての自分のスタイルを発見していたと思います。なのでグランプリ優勝後、NHKが取材にきたら「上妻はオレが育てた」と豪語するつもりでしたが、それもできません。残念。

通訳塾では普通のスクールでは絶対にやらないような、「どうせ最初は同通スピードについていけないだろうけど、とりあえず荒波に揉まれて泳ぎ方を覚えよう、生きるために」的な教授法というかノープランな感じで、3週目くらいから全員同通ブースに入って頑張ってました。個人的にはスカーがムファサを崖から蹴落とすイメージがあって、「ライオンキング教授法」と呼んでます。みんな本当によく頑張りました。

去年のファイナリストである西原念さんや、今年のファイナリストになった村山咲希さんも最初は全然ダメだったのですが、やはり若さゆえ吸収が早いし、教えたことを素直に実践していたので、すぐに結果が出なかったとしても、何度もブース内でボコボコにされればそのうち何かのきっかけで開花するだろうと思っていました。またしてもノープランな放置プレイです。でも場慣れって大事なんですよね。初めて自転車に乗る時のように、経験を通して直観的に覚えることが多いのですよ、通訳って。特に村山さんは極度の緊張しぃだったので、とにかく経験を重ねることが彼女にとっては重要でした。小さな成功体験を積み上げていかないと緊張がとけることはないので。また来年、ラストイヤーですが再挑戦してほしいです。というか出場資格があるなら全員出ようよ。ホントに。

グランプリ決勝の翌日に祝勝会を開催。残念ながらファイナリストにはなれなかったけれど、参加したメンバーについて簡単に紹介します。

写真でピースをしているのは大島さん。塾を通して不器用な自分に向き合えたようで、確実に成長しました。プログラム後半の同通セッションでは、「これホントに大島さん??」と思うようなゾーンに入った瞬間があって、セッションMVPを獲得。今後もそのひらめき?と努力を大事にしてほしいものです。上妻さんと村山さんに花を買ってくる優しい&配慮できる人です。

写真の一番左にいるのは栗原さん。マイペースな性格ゆえに同通のスピードには最後まで対応に苦労していたようですが、内容をしっかり理解したときはとても正確で流麗な訳出をしていました(僕自身、その訳にうっとりしたのを覚えています)。最近、職場で1時間の逐次をしっかりやりとげたとか。爆速成長というわけではないけれど、経験を積んでいけば、間違いなくもっと上手くなります。今後に期待。長く聞いていられる素敵な声だし。

西原さん(去年書いた)、村山さんをパスして一番右にいるのが満元さん。僕が沖縄に住んでいた高校時代から知っているので、本当に夢をあきらめずに通訳者になったんだ……と思うと感慨深いです。あまりイケメン男子が増えると僕の肩身が狭くなるので困るのですが、いずれは彼のような有能な通訳者が現場の主役になっていくのでしょう。まだ粗削りな部分はありますが、最初は誰でもそんなもの。粗い部分はきちんと認識した上で、自己改善を繰り返す努力が求められます。今でも結構上手いですが、もっと上手くなりますよ。今の満元さんの想像を超える上手さに。

他の受講生についても語りたいけれど、ちゃんと会ってからにしておきます。12人全員、家族のようなものだから、何かあったらいつでも連絡してください。土地の権利書以外は支援できると思います。

ちなみにフランスから来日した王者・上妻さんに「エスプリに溢れる土産をよろしく」とお願いしたらお茶をもらった。友達に聞いたらすごいお茶らしい。でも僕自身にエスプリがないのでその凄さがよくわからない。美味しいけど。美味しいからいいか。


で、最後に。グランプリ王者を輩出してしまったからにはまた通訳塾を再開しなきゃならないのかな。たぶん来年1月~3月あたりにまたやろうかと。検討します。いま日英通訳の教科書(現場仕込みの技術論)を執筆するべく準備中なので、最終的にはそっちを優先するかもしれませんが。