2024年1月6日

2024年はリアル回帰。対面ワークショップ祭りです。

一般社団法人 日本会議通訳者協会は2024年、株式会社KYTをスポンサーに迎えて、日本各地で逐次通訳ワークショップを開催します。各ワークショップの詳細は下記リンクから。

【国内ツアー】逐次通訳ワークショップ

JACIはコロナ禍を除いて、設立初年度からなんらかの対面ワークショップを毎年開催してきました。初回は某理事の「箱根で温泉に入ろう!ついでにワークショップも付ける感じで」という8割方ノリで開催されたのですが(でも内容は大真面目でした)、以降JACIの名物飲み会、もとい企画として多くの参加者に学びとつながりの機会を提供してきました。今回も某理事の「子供の頃からドームツアーがしたかった!なのでドームがある都市でワークショップツアーをしよう!」というバカ丸出しの発想からスタートしています。でもいつの間にか「どうせこの規模でやるんだったら日本の全地方をまわろう」「ベテラン講師を送りこんで圧倒的なクオリティを実現しよう」「それも手頃なお値段で」と、どんどん話が大きくなり、ついには半ば騙されてスポンサーになった?株式会社KYTさんの協力も得ることになりました。

JACIにとってこの規模のツアーを実施するのは初の試みですが、コロナ禍で開催された日本通訳翻訳フォーラムのように、誰もやらないことにチャレンジするのがJACIのDNAだと私は勝手に思ってます。

普段はあまり通訳イベントが組まれない仙台や広島、高松もツアー会場に含まれていますので、興味がある方はぜひこの機会に参加していただければ。そして講師の方々も、仕事が終わったらたっぷり飲んで遊んでください!

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ここまで話したワークショップは対面イベントですが、遠隔イベントもたっぷり用意しています。まずは……

LinkedInビジネス活用セミナー(1月27日開催)

日本翻訳者協会(JAT)さんとのコラボ企画。JAT会長の狩野ハイディさんとの雑談から生まれました。「翻訳(通訳)技術だけを磨いても今の時代はダメだよね」という共通認識がお互いあるので、構想から実現まで比較的スムーズに進みました。LinkedInを活用しきれていない翻訳者・通訳者はとても多いと思うので(私も含めて!!!)、この機会にぜひ。特に海外のクライアントはLinkedInで通訳者を探すところも多いので、いろいろ学べるはずです。

「Web3業界」に入るなら今がチャンス!通訳者のためのWeb3セミナー【基礎知識編】(2月16日開催)

仮想通貨やメタバースがという言葉が社会に普及してからずいぶん経ちますが、通訳者は本当に仮想通貨を支える技術やメタバースの本質がわかっているのでしょうか?Web3って何?NFTはアメリカのメジャースポーツリーグではないですし、OpenSeaは広い海ではありません。わかってるようで実際は全然わかってない最新のテクノロジーを基礎から一緒に学びましょう!全3回のシリーズです。

スポーツ現場での通訳を語ろう(2月23日開催)

年末にスポーツマネジメント通訳協会の担当者と意気投合して決まったイベントです。おまけに無料。私も司会として参加します。もっとスポーツ分野の通訳を盛り上げたい!

これらに加えて、夏のフォーラムはもちろん、秋以降のイベントも複数検討中です。2024年も走り続けるJACIを宜しくお願い致します。

2023年12月31日

2023年は貴重な宣材写真をゲッツ!笑

2023年は個人的には本格的なコロナ明けで、1月はスイス出張に始まり、韓国やシンガポール、マレーシアなどのアジア諸国に加えて、秋には米国出張もありました。国内出張もたぶん15~20回くらいでしょうか。遠隔の仕事がコロナでかなり増えたのですが、対面を好む私は基本的には対面を優先しています。 

 11月下旬にクライアントから指名で首相案件が入り、ラッキーなことに現場の公式写真が入手できました。政治分野ではもう20年近く活動していますし、小泉首相から始まって、第二次安倍内閣と菅内閣以外ではすべての首相となんらかの形で仕事をしたことがあるのですが、首相の隣で仕事をしている写真がここまで綺麗に撮れているのは実は初めてです。そもそも重要な首相案件は外務省の職員が担当するのが普通ですし、民間の通訳者が担当したとしても、要人と一緒に公式写真に収まることはあまりありません(自分はどちらかというと、自ら横に外すタイプ)。加えて、現場では大抵誰かが写真を撮ってはいるのですが、通訳者の立場で「私にも写真をいただけますか?」と聞くのも失礼と思っているし(もちろん自撮りはできない)、首相や大臣級の仕事をしていることを写真できちんと証明できずにいました。別に誰も求めてないかもだけど。いずれにせよ、官邸HPでも公開されていたので、貴重な宣材写真として使用させて頂きます! 

右は筆者、左はJACI認定会員の平井美樹

この写真を見ながら改めて思ったのは、特にJACIを立ち上げてからは自分のキャリアというか業界的な立ち位置が大きく変化したいうこと。たとえば2023年は国内のいわゆる大手エージェントから受けた案件の数はわずか3件で、トータルの案件数も過去10年でもっとも少なかったのに、売上は過去最大を記録したこと。10年以上取り組んできたブランディングが近年はとても効いているようで、最近は特に営業せずとも口コミで弁護士や通訳者仲間から直接依頼が来ることが多くなりました。上記の首相案件も実はエージェント経由ではなく、直取引です。これを言うと驚かれることが多いのですが。 

日本最大の通訳団体、そして日本語通訳者に限れば世界最大の団体で理事職をしているのも大きいと思います。単純に知名度が上がります。ただクライアントの期待値も上がっているので、自分も常にレベルアップしなくては、という自覚と緊張感が常にあります。秋には顎ヒゲに1円玉サイズの円形ハゲが見つかり、①これ以上ハゲてどないすんねん、と思った一方、②自分に自覚はないけれど、結構なストレスを抱えているんだなと思いました。 

あ、ちなみに私はエージェントを全部捨てたわけではなく、今は信頼関係ができている中小エージェントで、基本的に私の条件で取引してくれるところだけとお付き合いしています。面白い案件をもっているエージェントもありますし、エージェント経由の仕事でないと新しい通訳者との出会いがありませんからね…… 
 
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あまり写真を撮らない私ですが、手持ちの写真で2023年をざっくり振り返ります。 


1月はサッカー日本代表選手、浅野琢磨選手の案件でスイスへ。物価が高すぎて、基本的にはスーパーの炭酸水、チーズ、ブドウで一週間過ごしました。単にケチなのかもしれませんが。スポーツは大好きなので、もっとスポーツ関係の仕事を増やしたいですね。 


ガチガチの法務案件にテイラー・スイフトがいきなり出てきた時は不意を突かれました。"Love's a game / wanna play?" を訳さなければならなかったのですが、1秒ちょいで「恋は駆け引き/あなたもどう?」と訳せたのは我ながらよくやったなと思いました。チェッカーからも異議はなかったです。 


7月はロンドンで通訳ワークショップ。右から2番目はJACI欧州担当理事の渡辺有紀さんです。今後は欧州でも活動を増やしていきたいですね。ちなみに日本ではChill Outという大麻から抽出されるヘンプシードを配合したドリンクがあるのですが(飲むとリラックスして眠れるっぽい)、欧州にはTRIPという、同じような商品でもかなり攻めたというかヤバいネーミングの商品がありました(笑)。 


夏は3週間ほどフランスでのんびりしました。写真はモンパルナスにあるジャン=ポール・サルトルの墓。実は若い頃、サルトルと実存主義にどっぷり浸かっていた時期があったので(その後は現象主義にハマって色々とめんどくさい奴になる)、その意味では感慨深かったです。 


8月の終わりには長井鞠子さんの特別トークイベントも。どさくさに紛れて私も本にサインしてもらいました。イベントはやはり遠隔より対面の方がいいなあ。

あ、年末にはJACI代表として内閣官房のチームとフリーランス新法について話したり、スポーツマネジメント通訳協会の幹部と意見交換もしました。JACI会長としての対外活動も増えています。

2023年12月3日

「翻訳の日」連動企画に出演しました。

日本翻訳連盟(JTF)さんの「翻訳の日」企画にJACI会長として参加してきました。JTF、日本翻訳者協会(JAT)、(アジア太平洋機械翻訳協会)AAMT、JACIの4団体が集まったパネルディスカッションです。コロナ渦は会長として対外的な仕事がほぼゼロだったので、これが3年ぶりになります。まあ、コロナ前もそんなに出てはいなかったのですが。

この記事、10月上旬に出そうと思っていたのに、やはり秋の繁忙期は甘くないです。忙しくしていたら12月になってしまいました……が、このブログの読者であればもはや安定のスローな更新ペースです。

もう動画は公開されていませんが、とりあえず、まとめ記事がアップされています。



このイベントに先立ち、JACIの9年間を振り返る機会があったのですが、2015年にJACIを始めた頃は「どこの馬の骨やねん」的な反応が多かった気がします。ただ、団体を自分の利益のために使わず、コンテンツやイベント活動などでしっかりと結果を残し続ければいずれ多くの人に認められるだろうと頑張ってきて、それが今の支持につながっているのだと思います。

来年は10周年イヤーを記念して全国各地で逐次通訳ワークショップを開催します。JACIのトップ通訳者が各地で大暴れするので、宜しくお願い致します!

2023年9月25日

【資料用】世界の主要ゲームイベント

The Game Awards (TGA)

Golden Joystick Awards

D.I.C.E. Awards

Game Develpers Conference (GDC)

BitSummit

Gamescom

Tokyo Game Show (TGS)

E3

GameFest

Paris Game Week

Taipei Game Show

Thai Game Show

Ani-Com and Games (ACG) Hong Kong

Summer Game Fest

2023年7月23日

【通訳の仕事 No. 4 】新ネットスーパー「Green Beans by Aeon」

コロナで通訳案件の性質が大きく変わった通訳者が結構いると各方面で耳にしていますが、私もその一人かもしれません。私の事務所に直接依頼してくるのは法律事務所が多いので、以前は小売り関係のクライアントはゼロだったのですが、コロナ初年度の春(5月くらいだったかな?)に英国のOcadoグループの日本代表者が突然連絡してきたのです。社内通訳者の採用を手伝ってほしいと依頼されたのですが、コロナが猛威を振るうなかで採用が上手く進むはずもなく(結構な頻度でイオンの本社がある海浜幕張まで通うのが条件)、では見つかるまでは私がスポットで代打しますよ、通訳者の採用もお手伝いしますよ、というのが仕事の始まりでした。

あれから3年。今では海外からOacdoの幹部が来日した時に限って呼ばれるくらいになり、つい先日、7月10日に誉田CFCのオープニングセレモニーでCEOの通訳をしてきました。写真のようにボットが倉庫内の商品を自動的にピックするこの施設は、日本では初だそうです。

フリーランスとして活動していると、同じプロジェクトに年単位で関わることはほぼないので、ある意味とても貴重な経験でした。小売り業について復習する機会になり、そして当たり前のことですが、自分が毎日使っているスーパーの裏側には緻密に計算された大きなオペレーションがあるんだなあと改めて実感しました。Ocadoのテクノロジーが最先端なものゆえに、3年前は日本側はもちろん通訳者も基本的な用語についていけないという状況がありましたが(笑)、そんな苦難も乗り越えて無事にサービスインです。あとは私が住む世田谷区にも早くサービスを拡大してほしいですね。

グリーンビーンズ

※ちなみにこの日のNewsPicksの取材を通訳したのですが、おそらくそれを基にした動画がアップされていました!

2023年7月19日

【通訳の仕事 No. 3 】FIFAの仕事~裏方編

4月に日本で初開催されたFIFA Diploma in Club Managementで同時通訳してきました(写真奥のブース、右側が筆者)。「FIFAの公式通訳者ってどんな仕事してるの?」とたびたび質問されるので、今回は一般のファンがアクセスできない案件、いわゆる”裏方案件”を中心に紹介します。試合のヒーローインタビューなどファンが通訳を聞ける案件については、またの機会にということで。

FIFAといえばワールドカップを想起する人が多いと思いますが、そのワールドカップにも各年齢カテゴリーの大会があって、たとえばつい最近でいえば5月20日から6月11日まで開催されたFIFA U-20 男子ワールドカップ・アルゼンチン2023が一例です。私は日本担当で、準決勝まで勝ち残ったら記者会見などを通訳する予定だったのですが(アンダーカテゴリーは予算が潤沢ではない)、日本代表はあえなく予選ラウンドで敗退。残念。けれど裏では大会に先立つロジ周りの会議とか、宿泊先で必要になる施設や設備、備品の手配確認の会議など、いろいろあるのです。

そして近年、FIFAがとても力を入れているのがサッカー(競技)以外の事業で、FIFA Diploma in Club Management (以下、Diploma会議)もその一つ。Diploma会議はこれまで各国で開催されている健全なクラブ経営に関する国際会議なのですが、3日間の本会議に加えて、国内のクラブチーム&スタジアムの視察もありました。Jリーグの野々村チェアマンはJリーグの今と成長戦略を語り、鹿島アントラーズは地方クラブの挑戦と成功モデル、横浜F・マリノスはシティグループの戦略、普段はなかなか聞けないセルヴェットFCの経営改革の歴史など、とても充実した内容でした。最近のFIFAは女子サッカーを盛り上げるための活動に積極的で、その意味ではWEリーグ理事の小林美由紀さんの発表がとても印象に残っています。

案件に先立つ準備ですが、私はそもそも専門知識がある通訳者としてFIFAと契約しているので相当ニッチな内容でない限り上手く捌く自信はあります。ただそれでも、最近のクラブ経営について改めて学習しておこうかなと、以下の本を読みました。『海外のサッカーはなぜ巨大化したのか』では特にドイツ・ブンデスリーガのクラブ経営システムについて特に勉強になりました。ブンデスリーガは多くの発展途上のリーグがモデルにしている安定的な成長を志向するリーグで、スタジアムがチームの勝敗に関係なくほぼ毎試合満員になるという経営者としての一つの理想を実現しています。実際、Diploma会議でもブンデスリーガのチームとスポンサーとの関係や、ファンコミュニティとの関係の重要性についても話がありました。

『MLSから学ぶスポーツマネジメント』は、最近リオネル・メッシのマイアミ移籍で話題になっている北米のリーグ、MLSに関する一冊です。競技レベル的にはまだ欧州と対等とは決して言えないけれど、ビジネス的には近年目覚ましい躍進を遂げています。かつてサッカー不毛の地と呼ばれ、実際いくつものプロリーグが北米で立ち上がっては潰れていった過去がある中、その失敗から学んだMLSの戦略と実践がかなり詳細に語られていて、個人的には一番面白かったです。

クラブ経営の国際会議なのだから、マーケティング関連の内容も出てくるだろうなと思って『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロナのマーケティング実践講座』も読んでおいたのですが、ここで得た知識は本会議よりクラブ訪問で役に立ちました。特にスタジアム関連の広告やマーケティング手法、チケット販売戦略、VIPルーム関連の戦略など、昔のスペインで当たり前だったことが今は日本でも標準になってきています。ちなみにガンバ大阪のスタジアム(パナソニックスタジアム吹田)がエスパニョールのスタジアムをモデルにしているのは、この仕事をするまで知らなかった!そしてここパナソニックスタジアム吹田では、訪問時にフィールドの端で子供向けのサッカースクールが開催中で、元スイス代表のセンデロスさんと元オーストラリア代表のケーヒルさんが試合に乱入して子供たちに直接指導していました(写真)。遊びたかっただけかもだけど。みんな心からサッカーが大好きなので!

サッカーが大好きといえば、元日本代表監督のジーコさんも本会議で登壇。私も許可を頂いて写真を1枚撮らせていただきました。Diploma会議の参加者は基本的に各クラブの幹部や幹部候補生ばかりで、その意味では元選手を含め長年サッカーにどっぷり浸かっている人ばかりなのですが、それでもジーコさんの講演のあとはサインと写真を求めて長蛇の列が。レジェンドはレジェンドですね、ホントに。

さて、Diploma会議とは別ですが、6月6日にFCバルセロナが来日した際、バルサの胸スポンサーであるSpotifyとの記念イベントも担当しました。こちらは後日各メディアで報道されたので裏方仕事ではないかもしれませんが、スペインサッカーのファンとしてはとても充実した仕事でした。ちなみにスポーツ通訳者の中には「ファンは通訳をするべきではない」と言う人もいて、その気持ちというか発言の趣旨は分からないでもないのですが、要は通訳者としての役割をわきまえて行動すれば良いだけの話だと個人的には思っています。わきまえて行動できれば、あとはファンの方が知識が豊富で熱量もあるでしょうから、むしろ高品質な訳になる可能性は高い。私もプロですので現場ではおとなしくしていましたが、本当は「レヴィのサインほしい!」と思ってましたよ。そりゃファンですもの。


上の写真ではJO1の河野純喜さんとフジファブリックの山内総一郎さんの耳にウィスパー同通。バルサの公式インスタグラムのリールに掲載されたようです。下の写真は別アングルから。

さて、明日からFIFA 女子ワールドカップが開幕します。私は一応、日本担当でブッキングされています。優勝したら激アツな通訳をするので、日本代表には頑張ってほしい。個人的には猶本光選手と熊谷紗希選手が推しです!

2023年5月29日

【通訳の仕事 No. 2 】Up Rising Tokyo

5月25日の前日記者会見から28日の決勝まで、スケートボードの新しい国際大会であるUp Rising Tokyoで同時通訳を担当してきました。ここ数年、特に力を入れているのがスポーツ分野です。もちろんスケートボードも守備範囲内です。学生の頃から深夜のESPNでX-Gamesを観てました!今回は通訳者としてどのような準備をしたかを書こうかなと。スポーツイベントで通訳者がどう動くべきか、一つのヒントになれば良いと思います。

■5月25日(前日記者会見)

大きなスポーツイベントになると、有力選手(チームスポーツの場合は監督などのケースもある)が前日記者会見に応じることが度々あります。競技前なので細かい技術的な話はなく、どちらかといえば大会に向けての意気込みとか、海外から参加している選手に対しては「日本の第一印象はどうですか?」というような典型的な質問が多め。Up Rising Tokyoは新しい大会なので、他の大会と比較してどう思いますか?というような質問も容易に想像できます(実際に、全部でてきた)。

このあたりは一定の経験がある通訳者であれば余裕だと思いますが、問題は歴史系の質問です。ここでいう歴史とは、①大会の歴史、②競技・スポーツの歴史、③選手自身や他の選手との関係性の歴史などがあります。

①Up Rising Tokyoは新しい大会なので大きな心配はなかったのですが、②は範囲が広いので難しい。触ってはおきたいけれどあまり多くの時間は割けないので、このようなスケボーの歴史ページをいくつか読み、世界各地のメジャーな大会の名称などを確認。③はとても大事。関係性を事前に理解していないと、同時通訳では脳内処理が一瞬遅れるだけで話者からかなり遅れてしまいます。前日記者会見にイショッド・ウェア選手と堀米雄斗選手が参加すると案内されてから、私はすぐにウェア選手と堀米選手の直近の成績と、両選手が一緒にエントリーした大会について検索しました。ちなみに大型スポーツイベントでは写真のような選手情報がメディアに配布されるのですが、超便利なので初日に一部もらっておくべきです。報道取材要領もある場合は入手するべき。大会の注目点、注目選手、レギュレーションなどが記載されているからです。

スポーツ案件は事前資料がないのが普通なので、自力で色々調べなければなりません。ヤマをはって外れることも多いですが、今回は当たり!大会アドバイザーのライアン・クレメンツ氏が「80年代~90年代の競技シーンはアメリカ勢が支配的、2000年代はブラジル勢が台頭し、2010年代、特にここ4~5年は日本勢の活躍が目覚ましい」と発言していたのですが、事前にどこかの記事で同じ内容を読んでいた私は同通ブースの中で心のガッツポーズです。早口の方だったので、事前に読んでいなければとても苦労したことでしょう。

こちらのコース説明のページにも感謝です。この日はコースに立って特徴を説明する逐次通訳も発生したのですが、会場内の音楽が予想以上に大音量で聞き取りが困難に。事前に予習していなければ何度も聞き返す事態になっていたことでしょう。

■5月26日(準々決勝)

準々決勝、準決勝、決勝と3日もあるのだから、のんびり観戦しているだろうと思う読者もいるかもですが、実際はそんなに楽しむ余裕はありません。競技の早い段階で各選手の技を確認する必要があります。私がスケボーを楽しんでいたのは90年代前半で、当然その頃とは比べ物にならないくらい技は進化していますので……

一応、イベントに先立つトリックの予習としては、nollieskateboarding.com の動画を視聴、用語集にも目を通し、あとはYouTubeのSLS動画など競技動画を観まくりです。特に大会一週間前くらいからは他の仕事の電車移動中もずっと観ていた気がします。文字通り、詰め込み教育。


■5月27日(準決勝)

準決勝後の記者会見にはコルダノ・ラッセル選手(USA)とシェイ・サンディフォード選手(CAN)が参加すると案内された時点で、各選手の順位を確認。このあたりの文脈は質問を予想する上でとても大事。8位のラッセル選手は決勝進出確定なので、おそらく今日のパフォーマンスと印象と決勝に向けての抱負を聞かれるだろうし、サンディフォード選手は18位で敗退決定なので、おそらく本大会に参加した意味とか、大会の今後をどう考える?系の質問だろうと予測できます。大穴としては、サンディフォード選手は今大会に出店しているアパレルブランド Wind and Sea と契約しているので、その絡みで今後の日本での活動などを聞かれるのかな、と想定していました。業界では「通訳は準備が8割」と言われますが、ある程度質問を予想できていれば本番は結構スムーズに進みます。もう脳内でシミュレーションが済んでいますから。

ただ、現場にサプライズはつきもの。選手リストではラッセル選手は米国の選手と書いてあったので、それを鵜呑みにしていたら、会見では「僕は米国とカナダと二重国籍で、シェイとは同じカナダ代表のメンバーなんだ」と発言。え??自分の聞き間違いかな?と一瞬戸惑ったのですが、両選手が笑顔でハイファイブする姿を見て、すぐに発言通りに訳しました。

■5月28日(決勝)

決勝はYouTubeのRed Bull Skateboardingチャンネルで生配信されていたので、私は会場にいたけれど基本的にバックヤードで配信の解説を聞いていました。コースだと音楽やPAシステムがうるさ過ぎるというのもあるのですが、配信は複数角度のリプレイと一緒にきちんと技の解説をしてくれるので、とても助かります。誰が優勝しても勝利を決定づけたトリックについては100%聞かれるので……


最後の最後で大技をメイクして優勝した堀米選手。私は今回、同時通訳の契約だったのですが、実は諸事情により優勝後の堀米選手の逐次通訳も担当しました。写真では堀米選手の奥にいます(ぼやけているけど)。


このミックスゾーンでの記者会見ですが、The Japan Timesの記事が私の訳をそのまま使ってくれました!堀米選手の発言を同通した以下の部分です。

"I think competitions are very easy to understand. A lot of people were attending and they came to see the top pros in the world, and it's great to see that," said Horigome, who won the men's competition with a dramatic final run. "But I don't think the competition side tells the entire story. I want to do more to really bring out the street culture and get everyone to understand what the culture is all about and how fun skateboarding is."

普通は読みやすさのために編集を加えるのですが、そのまま使えるクオリティと判断されたのはとても嬉しい!

P.S. 以前からYouTubeで視聴していたLuis Moraさんも会場で発見。動画も公開されていました。ホントに奥さんと仲が良いのが微笑ましい。

2023年5月5日

【通訳の仕事 No. 1 】Apex Legends

 


ゲームに強い通訳者として売り出し始めてから15年(?)近くになりますが、これまでは関わってきたゲームについてほとんど書いてきませんでした。発売/リリース前の情報は別として、一度世に出たゲームについては語れることが結構あるし、ゲーム自体のPRにもなるので本来はもっと書くべきなのですが、なぜかこれまでは放置してきました。本業が忙しくてこのブログも年に数回更新の残念な感じになってしまっているので、再起をかけて今年からはぼちぼち発表していこうと思います。

まずはApex Legends、大人気のマルチプレイヤー、バトルロワイヤル系のゲームです。記憶が正しければシーズン9(Legacy: 英雄の軌跡)からほぼ全部の日本向け公式配信イベントを担当しているのですが、実は私はバトロワ系が大の苦手で(主にソロ中心ゲーマー)、この仕事を始めるまではほぼ遊んだことがなかった。ほぼ、というのは、試しに遊び始めてもキャラの扱い方を学ぶ前に徹底的にボコられるので、長く続けるモチベがなかったのです。反射神経がモノをいうゲームで、おじさんは若者には勝てません。

そんなわけで、他のゲームの場合は実際にゲームを遊ぶことが予習の一部になっているのですが、Apexの場合はYouTubeの配信動画がメインになっています。ゲームには固有の専門用語が存在しますが、それを知っていると通訳もスムーズに進むし、「こいつはわかってる」感が確実に出ます。たとえば「漁夫る(third partying)」が良い例。

新シーズンの内容を発表する生配信イベントはだいたい日本時間の早朝が多いです。おそらくリーク防止の観点から情報も直前にしか出ず、それも必要最低限なので、日本語の公式訳を知らないまま同通することが多い。S16の「大狂宴(REVELRY)」は、辞書で確認したら「どんちゃん騒ぎ、陽気な酒盛り、お祭り騒ぎ」などが並んでおり、シーズン名としてはどれもダサすぎるなと思ったのでそのままRevelryと訳出した記憶がある。なんにしても、通訳者は与えられた情報と環境でベストを尽くしているので、このあたりはできれば大目に・・・

他の人気ゲームもそうだが、開発陣は各レジェンド(キャラクター)の設定を高度につくりこんでいる。S17の新レジェンド、バリスティックが参戦する経緯も興味深い。個人的には、設定がしっかりしているから感情移入がしやすくなるのだろうなと思います。



ちなみに公式による生配信イベントの同通以外にも、各メディアとのインタビューも逐次通訳しています。たとえばこちらのファミ通さんの記事で、開発との質疑の部分は記事用に編集されてはいますが、私が通訳した内容がベースになっています。

2023年1月30日

English Journal休刊&今年について

過去にいろいろお世話になったEnglish Journalですが、月刊誌は休刊し、今後はEnglish Journal Onlineとして活動していくようです。残念。最終号の「どうなる?英語の未来」特集では、同時通訳の未来について執筆させていただきました(通訳業界の代表みたいな感じになって申し訳ないのですが)。 ChatGPIやAI通訳の台頭で「人間の通訳者、もう必要ないんじゃない?」と言われているようですが、ちゃんと①勉強して技術を維持・向上していて、②適切な活動分野で稼働していれば大丈夫じゃないかな、というのが私の印象です。

アルクさんからは本を2冊も出版させてもらったので感謝、感謝です。

ENGLISH JOURNAL (イングリッシュジャーナル) 2023年1月号

ちなみに2023年はスイスのCAS(スポーツ仲裁裁判所、下の写真)でスタートしました。私のスポーツ知識x法務経験をとても評価してくれているエージェントと法律事務所があり、とてもお世話になっています。好きなスポーツだから仕事も楽しい。いろんな人に言ってますが、私はキャリア的にもう仕事を選ぶフェーズに入ってきているので、好きなスポーツやゲーム、得意な法務などを中心に活動して、やる気が出ない分野の仕事は他の通訳者に譲っていきます。

今年はすでにシンガポール、タイ、ドイツ、アメリカが決定していて、コロナ前の状態とはいかないけれど、海外出張も徐々に正常化しつつあるような感じです。夏にはJACIで欧州ワークショップツアーをやるか!みたいな案(あくまで案)もあるので、期待せずに待っていてください。

『現場視点の通訳教本』(仮題)ですが、一応のろのろ進んでます。いやー、本業をこなしながらの書下ろしは辛い。時間がない。あっても仕事しすぎて眠い(笑)。でも僕が通訳者を志したときに読みたかったけど存在しなかった、建前なしのガチ現場視点で語る本にしたいので、妥協はできません。いま市場に出ているどの通訳教本よりも具体的でわかりやすい内容にしたいなあと思っています。っていうか、本当にできるんだろうか・・・

あと、今年こそはブログをきちんと更新していきたいなあと。こんな全然更新してないブログでも、期待している読者がいるようなので。

【2月3日追記】EJの記事、もうネットで一般公開されてた。仕事が早いね!ちなみにこれを書いてから減量どころか若干増量したよ!

2022年6月15日

甲子園優勝監督になりました。ある意味。

2021年の振り返りと新年の抱負について1月に書こうと思っていたのだけど、安定の放置で6月になってしまいました。で、なぜいま書いているかというと、
2021年の冬(1月~3月)に主宰した英語通訳塾の受講生からついに同時通訳グランプリ優勝者が出たからです。日本が誇るバンタム級王者が井上尚弥なのであれば、アトム級王者は間違いなく上妻つぐみでしょう。「次はメイウェザーじゃ!」って言ってたし。言ってないか。

英語通訳塾はコロナ禍での実験的試みで、単純に①一定の英語力があって、②通訳を専門的に学びたいけれど、③カネがない若手を短期間で集中的に教えたらどこまで伸びるか僕自身が検証したかったのが大きな理由です。僕自身暇だったので……と言いたいところだけど、予想に反して結構仕事が戻ってきたので、途中からかなりハードなスケジュールになりすぎて死にそうでした。帯状疱疹にもなったよ、今だから言えるけど。ははは。

実は上妻さんは入塾した時点から自然と声の使い方が印象的でした。最初は逐次も同時も情報の取りこぼしが多すぎて全然できなかったけれど、かぎかっこ話法を教えたあたりから「自分の声」を発見したのか、とても表現力に磨きがかかり、プログラム後半は少し余裕もでてきて、短時間であれば同時通訳のスピードにもついていけるようになっていました。思えばこの塾では声を有効に活用することで「訳を立体的に」しようと何かにつけて教えていた気がしますが、上妻さんはそれを一番よくできていたと思います。

まあでも正直、僕が教えなくても彼女は遅かれ早かれ通訳者としての自分のスタイルを発見していたと思います。なのでグランプリ優勝後、NHKが取材にきたら「上妻はオレが育てた」と豪語するつもりでしたが、それもできません。残念。

通訳塾では普通のスクールでは絶対にやらないような、「どうせ最初は同通スピードについていけないだろうけど、とりあえず荒波に揉まれて泳ぎ方を覚えよう、生きるために」的な教授法というかノープランな感じで、3週目くらいから全員同通ブースに入って頑張ってました。個人的にはスカーがムファサを崖から蹴落とすイメージがあって、「ライオンキング教授法」と呼んでます。みんな本当によく頑張りました。

去年のファイナリストである西原念さんや、今年のファイナリストになった村山咲希さんも最初は全然ダメだったのですが、やはり若さゆえ吸収が早いし、教えたことを素直に実践していたので、すぐに結果が出なかったとしても、何度もブース内でボコボコにされればそのうち何かのきっかけで開花するだろうと思っていました。またしてもノープランな放置プレイです。でも場慣れって大事なんですよね。初めて自転車に乗る時のように、経験を通して直観的に覚えることが多いのですよ、通訳って。特に村山さんは極度の緊張しぃだったので、とにかく経験を重ねることが彼女にとっては重要でした。小さな成功体験を積み上げていかないと緊張がとけることはないので。また来年、ラストイヤーですが再挑戦してほしいです。というか出場資格があるなら全員出ようよ。ホントに。

グランプリ決勝の翌日に祝勝会を開催。残念ながらファイナリストにはなれなかったけれど、参加したメンバーについて簡単に紹介します。

写真でピースをしているのは大島さん。塾を通して不器用な自分に向き合えたようで、確実に成長しました。プログラム後半の同通セッションでは、「これホントに大島さん??」と思うようなゾーンに入った瞬間があって、セッションMVPを獲得。今後もそのひらめき?と努力を大事にしてほしいものです。上妻さんと村山さんに花を買ってくる優しい&配慮できる人です。

写真の一番左にいるのは栗原さん。マイペースな性格ゆえに同通のスピードには最後まで対応に苦労していたようですが、内容をしっかり理解したときはとても正確で流麗な訳出をしていました(僕自身、その訳にうっとりしたのを覚えています)。最近、職場で1時間の逐次をしっかりやりとげたとか。爆速成長というわけではないけれど、経験を積んでいけば、間違いなくもっと上手くなります。今後に期待。長く聞いていられる素敵な声だし。

西原さん(去年書いた)、村山さんをパスして一番右にいるのが満元さん。僕が沖縄に住んでいた高校時代から知っているので、本当に夢をあきらめずに通訳者になったんだ……と思うと感慨深いです。あまりイケメン男子が増えると僕の肩身が狭くなるので困るのですが、いずれは彼のような有能な通訳者が現場の主役になっていくのでしょう。まだ粗削りな部分はありますが、最初は誰でもそんなもの。粗い部分はきちんと認識した上で、自己改善を繰り返す努力が求められます。今でも結構上手いですが、もっと上手くなりますよ。今の満元さんの想像を超える上手さに。

他の受講生についても語りたいけれど、ちゃんと会ってからにしておきます。12人全員、家族のようなものだから、何かあったらいつでも連絡してください。土地の権利書以外は支援できると思います。

ちなみにフランスから来日した王者・上妻さんに「エスプリに溢れる土産をよろしく」とお願いしたらお茶をもらった。友達に聞いたらすごいお茶らしい。でも僕自身にエスプリがないのでその凄さがよくわからない。美味しいけど。美味しいからいいか。


で、最後に。グランプリ王者を輩出してしまったからにはまた通訳塾を再開しなきゃならないのかな。たぶん来年1月~3月あたりにまたやろうかと。検討します。いま日英通訳の教科書(現場仕込みの技術論)を執筆するべく準備中なので、最終的にはそっちを優先するかもしれませんが。