2012年7月28日

MIISのフェイスブックページ。

カフェテリア
Monterey Institute of International Studies(MIIS)で翻訳を教えているラッセル秀子さんからMIISの公開フェイスブックページができたと連絡があった。通訳翻訳過程の日本語学科に特化されたページらしいので、他のページもあるのかな。

実は前からページはあったのだが、在学生と卒業生だけがアクセスを許されていたらしい。6月に通訳の国際会議でモントレーを訪れたときにラッセルさんと食事をしたのだが、そのときに何度も公開ページの必要性をアツく語っていたのので、大学の先生にしては珍しくSNSの効果を理解している方だなと思っていた(上から目線でバカにしているように読めるかもしれないがそうではなくて、一般的にはSNSに無関心な先生が多い印象なので素直に驚いた)。それにラッセルさんはMIIS愛がありますからね、ホントに。

国際会議に一緒に参加した通訳仲間の宮原美佳子さんも記事を書いているが、モントレーは学費が比較的高い。でもカリキュラムはしっかりしているし、そこで実力をつけた卒業生は基本的にどこへ行ってもやっていけると聞いています。というか、これは個人的な経験に基づく意見ですが、私は現場で通訳がヘタなMIIS卒業生に会ったことがない。日本の通訳学校を出た方の中には(残念なことに)あまり上手くない人もいるわけですが、MIIS卒業生は本当に反応も良いし、柔軟に意訳できるし、なにより度胸がある。メンタルが強いのです。MIISで徹底的に叩かれている証拠でしょう。

一時は日本人留学生が多数だったのに近年は少数派になっていて、むしろアメリカ人学生が増えているのだとか。そういえば今時の日本人は留学をしなくなっていると話題になっていますよね。まあ個人の勝手といえばそうですが、確実に翻訳・通訳の実力をつけたいのであればMIISで学んで損はないと思います。カリキュラムはもちろんですが、学習環境も素晴らしい。志が高い仲間との出会いもありますしね。ああ、あと10年若ければ私も行きたかったです。

Monterey Institute of International Studies T&I Japanese

あと、在学生による日本語ブログもあります。授業でやってるエクセサイズとか具体的なことも書いてくれるのかな。というか期待。

図書館にはレアな文献もあったり。

2012年7月25日

ゴーン専属の通訳者、舞台裏を激白



日産社長カルロス・ゴーン専属の通訳を努めて12年目となる森本由紀さんが特集されました。こちらに文字おこしも。

社内通訳一筋12年。その素顔は

実はこの「その人(話者)と同じ身振り手振りで通訳することで、その人の『想い』がよりうまく伝わるような気がします」には私もかなり共感しています。というのは、同通ブース内でも気分が乗って快調に通訳していると身振り手振りが多くなってくるのですね。体全体で表現したいというか(笑)。逆にクライアントからの資料が不十分で通訳しながら内容を学ばなければならない場合は、どうしてもストレスが溜まってペンを折ったりします。私だけでしょうか・・・

2012年7月22日

法廷にど素人が現れて大混乱の巻

英国の法廷通訳事件のアップデートです。ここ数日、司法通訳関係者のなかでもっとも話題になっているトピックです。

Court interpreter farce halts murder trial
Mr Lone was forced to admit, in the absence of the jury, that it was in fact his wife who had been contracted by Applied Language Solutions (ALS) but that she had other commitments so he had taken her place. He told the judge he had taken the interpreter test set by ALS but had not received his results and was not accredited.

まあ一言でいうと、妻に通訳の依頼がきたけど忙しいから夫が代行したと。バレないとでも思ったのかな。当然まったく役に立たなくてギブアップ、おまけに緊急手配したもう一人の通訳者も実力不足というドタバタ劇。

In another case a man charged with perverting the course of justice was told he was "a pervert", while a volunteer had to be pulled from the public gallery to translate for a Slovak defendant.

傍聴席からボランティアを募るって、もうなんでもありな感じですね!

そろそろALSのアホみたいな契約を全面的に見直してほしいものですが。

2012年7月7日

翻訳フォーラムイベントのアーカイブ映像が公開に。

6月15日に開催された翻訳フォーラムイベントのアーカイブ映像が公開されました。

・基調講演「翻訳とは何か」(高橋さきの氏) 
翻訳は単なる言葉の置き換えとどう違うのか。翻訳者にはどのような能力が必要なのか。原文から訳文に至る思考プロセスはいかにあるべきか。ベテラン翻訳者が今こそ語る、これだけは言っておきたいこと。

・「翻訳メモリの功罪」(高橋聡氏) 
原文と訳文を文単位で組み合わせて保存し、訳文を再利用することで効率化を図る。しかしこのやり方では、文脈を無視して訳文を当てはめてしまう罠に陥らないだろうか。翻訳力の向上を妨げる危険性を、翻訳メモリの使い手が喝破。

・「ツールに使われないためのツールの使い方」(井口耕二氏) 
電子辞書、インターネット、秀丸マクロ、SimplyTerms…さまざまなツールを駆使する講師が、ツールを生かした翻訳方法を伝授。一連の翻訳作業を画像で示しつつ、なぜここで辞書を引くのか、Googleの検索結果をどのように読むのか、置換する語と置換しない語をどのように分けるのかなどを解説。


Video streaming by Ustream
残りの映像はこちらから(公式Ustチャンネル)。

資料はこちら。

翻訳フォーラムのツイッターアカウントはこちら。

2012年7月5日

つーほんニュース 7/5

■通訳者の醍醐味

元ヤクルトの青木宣親(ブルワーズ)がサヨナラHRを打った後のインタビュー。騒動の後でも通訳者が冷静で笑える。当事者と一緒にこういう経験ができるのが通訳の楽しいところなんです。



文科省が日本文学翻訳事業を廃止

 1億4800万円は大きいな。民間に任せるのは分かるけど、逆にこの予算を使って民間の取り組みを盛り上げることはできなかったのだろうか。完全に任せるほどシーンが盛り上がっていないのだけど。

The Translation Industry Interprets 'Recession-Proof'
 
成長率が12.17%と報告されているが、この実態はおそらくロングテールで、これまでは価格がネックで手も足もでなかった企業が、ポストエディットなどで安価になった「翻訳」を注文し始めているからではないだろうか(つまり翻訳者の収入は上がっていないと私は推測する)。ちなみにこちらのThe Top 100 Language Service Providersで日本の翻訳センターは12位、CRESTECは23位、ALAYAは42位、十印は44位である。

AT&T, interpreting firm Language Line Services team 

飛ぶ鳥も落とす勢いのLanguage LineがAT&Tと組んで通訳サービスを始めたのだが、毎月10ドルの会費はいいとして、毎分3ドルってのはどうなんだろう。状況説明だけで10分(約2400円)くらいかかりそうですけど。

Tuzynski: Translators put 'on hold' by money crunch

Court interpreters unsung but growing in importance

写真はIJET-23でもお話いただいた鬼頭さんです。

米の壁に挑む出版界 すぐ英訳/“現地化”を推進

短編の英訳に特化しているのが興味深い。でも確かに村上春樹以外はほぼ無名も同然だから、まずは日本人作家を知ってもらうところから、つまり試食をしてもらうところから始めなきゃダメなんでしょうね。

三木谷社長「もう社員に通訳必要ない」――楽天が“英語公用語化”本格スタート

英語が「社内公用語」になっただけで、日本人の実務の9割以上は日本語で行われていると思います。会議用の資料英訳は担当社員がいるのだろうし(または外注)。でも外国人が就職しやすくなったのは確かですよね。

経験に裏打ちされた経営ビジョンにより創業わずかで五指に入る翻訳専業会社へ アラヤ社長 中嶌重富

17言語通訳の携帯アプリ…しかも5人で話せる

通訳と十分な打ち合わせを TCA駐日代表・吉村章

いい通訳とは長く付き合う TCA駐日代表・吉村章

通訳をうまく使う決め手 TCA駐日代表・吉村章

Namibia: Accused Wants 'Competent Interpreter'

サッカーにおける監督通訳の重要性 「誤訳」の恐ろしさ 

これを読んで、トルシエ監督の記者会見通訳を担当した臼井さんは大変だったろうなあと思った。トルシエはマインドゲームが好きで、たびたびメディアを通じて挑発を繰り返してきたからだ。文脈理解にさぞ苦しんだことだろう・・・

洋画ジョーク翻訳の奥ゆかしさ

誰かにいきなり「私を笑わせてください」って言われたら、できますか?難しいですよね。でも洋画ジョークの翻訳って、それと似たようなものなんです。もちろん原文はあるけど、直訳しても全然面白くない。だから韻を上手く使ったり、別のものに置き換えたりして、それでも話の筋から脱線しないような形でオリジナルなジョークを形成したりすることが多い。ネタ作りに悩む芸人の気持ちがわかります。

2012年7月4日

満元証、海を渡る。

7月2日に満元証(みつもと あかし)が海を渡ってオーストラリアに通訳修行に行ったらしい。誰やねん、と早くもツッコミが飛んできそうだが、彼は通訳者志望の若者である。沖縄出身。7年前に彼が通っていた高校を通じてインターンシップの依頼があり、県内の某翻訳会社と一緒に引き受けたのが付き合いの始まりだ。とりあえず恥ずかしい写真を先に晒しておこう。

BEFORE: 2005年7月4日、ちょうど7年前の写真。
キザで照れ屋で少し挙動不審だった記憶が。
AFTER: 今の写真。彼女を絶賛募集中らしい。
この写真じゃ無理な気がしないでもないけど。
まあ写真だけ見たらチャラ男だが、実は真面目な好青年である。たぶん。うん、たぶん。

彼は昔から通訳者志望で、たびたび相談に乗っていた。大学を卒業して就職するときも、「本気で通訳者になりたいのなら就職せずに通訳学校へ行って、一年で現場に出るくらいの勢いで勉強しろ」と、今考えたら明らかに無謀なアドバイスをしていたのだが(私ならやるが、社会常識的にはちょっと無理があったかな)、親に心配をかけたくない優しい彼は私のアホなアドバイスをきちんと無視し、会社勤めをしながら通訳学校に通っていたようだ。良識ある息子を持つと親も安心だね。

でも一度就職したし、3年も働いたら通訳は諦めるんじゃないかなと読んでいたら、2011年2月頃だったろうか、まだ通訳者になる夢は捨てていないと言ってきた。松岡修造も真っ青のアツい展開。はい!そこ!諦めたらそこで終了だよ!の世界観をまざまざと見せつけられて彼の本気度を試してみたくなった私は、彼にある課題を与えた。年内に書籍80冊読破(漫画はダメ)。そして読書感想文をブログで公開。要は日本語力の底上げと、批評的思考の習得、インプットとアウトプットの習慣作りが目的の課題です。一番大変なのは継続すること。これを試してみたかった。本を読まない通訳者(翻訳者)はキャリアが始まる前に詰んでますから。

それに対する満元君のやってやりますよ宣言。喧嘩上等的な。

今だから言えることだけど、とても達成できるとは思っていなかった。というのは、年間80冊を読むプロは結構いるけど(読んでない「プロ」もいて、そういう人に限ってあまり食えてないわけだが)、内容がしっかりした感想をブログに書くのは結構な時間と労力を要するので、会社勤めしながら達成するにはかなりのコミットメントが必要だと知っていたからだ。実際、達成するには3ヶ月の期間延長が必要だった。「年内」だから、まあ会計年度という解釈でもいいかな、という軽いノリでOKしちゃった私。

で、見事に2月末に80冊をクリアした満元君。有言実行は男前だね。たまに意味不明なことも書いてあったけど。木陰に身を潜めて全部読んでたよ、一応。

さらに後から知ったのだが、彼は課題をクリアするために会社を辞めたということ。ある意味、彼の人生を狂わせてしまったようで親御さんに申し訳ない気持ちが少しあるのだが、でも彼はそれだけ本気だったということ。満元君、私は参りましたよ。あなたの本気度はガチです。もう疑いません。オーストラリアで修行して立派なウィングバックになり、ラグビー日本代表を救ってください。

最後に真面目な話。私は似たような課題を何人かに与えたことがあるのですが、達成できたのは彼だけです。満元君、よくやった!感動した!でもね、当初は130~150冊を考えていたんだよ、今だから言えるけど。

2012年7月3日

横田謙さんがガンで死去

日本を代表する会議通訳者・外交通訳者である横田謙さんがガンとの闘病の末、7月1日の早朝に亡くなられました。

私は彼と一緒に仕事をする幸運に恵まれることは一度もなかったのですが、彼の仕事ぶりを実際に見る(聴く)機会は何度かありまして、要所は細部にこだわる丁寧な訳、そうでない箇所は時には遊びが入った大胆な意訳をしたりすることもあり、百戦錬磨はやはり違うなあと感心した記憶があります。彼と親しかった通訳仲間によると、横田さんは飾り気のない人で、実直でフレンドリーな方だったとのこと。惜しい人を亡くしました。ご冥福をお祈りいたします。

※ちなみに写真はこちらのインタビュー記事から拝借いたしました。