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日本通訳フォーラム2019 8月24日(土)

2018年6月11日

第1回 同時通訳グランプリについて


ほぼ1年前から始まった(おそらく)日本初の試みが、6月9日(土)に無事終了しました。こちらが結果です。というか、前例があったら困るのでこれまでは「(おそらく)」と注意書き的な文言を入れてリスクヘッジしていたのですが、誰も文句を言ってこないので、これからは堂々と日本初と言ってもいいのかもしれません(笑)。

イベントの完成度という点ではもっとやれた部分があったのかもしれませんが、運営はみんな現役の通訳者なので、当たり前ですが本業優先です。理事一人ひとりが空いた時間を使って、できる範囲で貢献して、限られたリソースでなんとかグランプリ当日までこぎつけました。ただその中でも実行委員長の千葉絵里理事の貢献は突出していました。表舞台に出るのがあまり好きではない彼女なのであまり目立ちませんが(日本通訳フォーラムでの講演だって最初はやんわりと断られたけど、業界のためなら、そして桂田さんと一緒ならということで最終的になんとか受けてもらった)、彼女のプロジェクト管理能力と馬力がなければグランプリは普通に破綻していたでしょう。千葉さんのような方がJACI理事であることは本当に心強いです。これで通訳も上手いのだから世の中はフェアじゃない。

グランプリ自体はとてもハイレベルな戦いでした。去年の今頃は、「グランプリを通して有能な若手を特定し、芽が出る前に徹底的に潰そう!」とネタにして笑っていたのですが、パフォーマンスを聞くかぎり、みなさん本当に上手くて私たちの仕事がなくなりそうです(震え声)。まあでも、彼らがいれば通訳業界の未来はまだまだ明るいのかもしれません。私もコンテスタントの訳を聴きながら、「自分も頑張らなくちゃなあ」と思いました。

講演者、審査員、協力会社、スポンサー、その他の関係者のみなさんにはとても感謝しています。ありがとうございました!

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さて、ここからは気付いた点や裏話を。

イベント後に受賞者の名前でググってみたのですが、学生部門優勝の奥山祐太さんは昨年の全国外大連合事業「第11回学生通訳コンテスト」(逐次通訳コンテスト)でも優勝していたのですね。どうりで落ち着いて安定していたはずだ。通訳ペアはくじ引きで決めたのですが、たまたま同じ大学の永瀬さんと一緒になって、いつも一緒に練習しているのかはわからないけど通訳者交代のタイミングがとてもスムーズでした。国際基督教大学のワンツーフィニッシュで、会場にいらしていた田村智子客員教授にとっても特別な1日になったのではないでしょうか。

他のファイナリストである虻川さんと遠藤さんもかなり上手かったのですが、競技である以上、最終的には勝者を決めなければなりません。勝負はときに残酷なものです。というか私が虻川さんや遠藤さんの年齢だった頃は、彼らの半分もできなかったので(ホントに)、あまり失望せずに今後もぜひ頑張ってほしいです。人間の成長は直線的ではないので、ある日ドーンと伸びるときがくると思いますよ。

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社会人部門ですが、優勝の石井悠太さんはROM専のJACI会員だったりします。結果発表直後に「さすがMAJIT!」と世界各地から祝福の声が集まっているようです。訳を聴いていると、やはりきちんとしたバックボーンをもっているなという印象を受けます。うらやましい。

キャサリン・スイフトさんは同時通訳をするという夢を諦めきれずに応募したらしいですが、人生経験が豊富な人の訳は柔軟だなあと私は思いました。日本人は基本的に外国人の日本語に厳しい傾向があるので(私の印象ですが)、その点で苦労した部分があったかもしれません。ただ最後までしっかり戦いぬいた姿は私を含め多くの関係者の印象に強く残ったと思います。

志村理恵子さんはJACIが昨年主催した箱根合宿に参加していて、その時に開催されたミニコンテストでも入賞しています。落ち着きがあって、心が和む声とペース。最初に「グランプリ出たら?」と勧めたときは、そんな恐れ多い、自分は力不足です、みたいなトーンでしたが、予選では高得点をたたき出して決勝進出。おそらく今回のファイナリストの中でも伸びしろが大きい方だと思います。

藤井里咲さんにはグランプリの企画段階からお世話になりました。というのは、運営側に学生はいないので、学生にとって都合のよい開催時期はいつなのか、学生の期待は何なのか、そもそも知るすべがなかった。藤井さんは当時卒業したばかりで、通訳者としての実力もあったので(第8回学生通訳グランプリ優勝)、相談する相手としてはピッタリでしたし、実際に本グランプリには彼女の意見を参考にした部分がかなりあります。感謝、感謝です。決勝は残念な結果になりましたが、持ち時間がもっと長ければ彼女の持ち味である安定性をもっと発揮できたはずです。まだまだ伸びると思います!

神田さんとカークブライドさんについてはあまり知らないので(笑)、何も書けないのですが、今後のJACIの活動を通してお知り合いになっていけたらな、と。

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学生や新人同時通訳者が輝ける場所を提供できたらいいなと、最初はあまり深く考えずに「やればできるんじゃない?」で始まったプロジェクトですが、準備の過程で、そしてグランプリ当日も、多くの関係者から応援をいただきました。運営側も学ぶことがとても多かったです。

次回のグランプリですが、リソース(人、カネ、時間)の問題がありますのでまだ断言はできませんが、個人的にはこのような社会的意義が大きいイベントはなんとか継続していきたいと考えています。今の通訳業界でこのようなイベントができる団体はJACIくらいしかありませんし、それをやってこそJACIが公器としての役割を果たせるのだと思いますしね。

さて、6月は大阪ワークショップが2つ、7月は福岡1つ、大阪2つに加えて2日間の夏期講習、そして8月は史上最大規模の日本通訳フォーラムが予定されています。今後もJACIは通訳者のために走り続けますので宜しくお願い致します。

2018年3月25日

二流の悲しさを知っているか?

1週間前にアルクの編集者と食事をした際に、囲碁の話になった。15年ほど前、私はなにかのきっかけで(そのきっかけ自体を忘れてしまったのだが)囲碁を始めてのめり込んでしまったのだが、始めてから気づいたのは、囲碁は集中力の強化・維持にとても役立つことだった。

いや、正確には囲碁が……ということではなく、将棋でもチェスでもなんでも良いのだと思う。辛抱強く、長く深く考えることを求められることであれば。今思うと、囲碁にハマっていた時期が純粋な集中力という意味では私のピークだった。

アルクというと英語教育やTOEIC等の試験対策書籍のイメージが一般的に強いし、私も実際そう思っていたので、囲碁関連の書籍もあるのだと聞かされて驚いた。そして曺薫鉉(チョフンヒョン、日本語読みは「そうくんげん」)の本だと聞いてもっと驚いた。英語教育と絡めてマイケル・レドモンドあたりかと思えばそうではなく、史上初の国内七冠達成で日本囲碁界を沸かせた井山裕太でもない。玄人好みの曺薫鉉、年季が入った囲碁ファンでないとおそらく知らない曺薫鉉である。

世界最強の囲碁棋士、曺薫鉉(チョフンヒョン)の考え方

私は木谷實と呉清源に憧れて長野の山奥にある地獄谷の温泉宿に一人で泊まりに行ったくらいなので、当然曺薫鉉についても知っていたが、彼の師匠である瀬越憲作との関係については本書を読むまで知らなかった。なかでも、師匠が弟子の曺薫鉉にかけたこの言葉が心に突き刺さる。

「二流は悲しい。くんげん、この道をいくなら一流になれ。そうでなければ人生はあまりにも哀れだ」

今になってやっと一流のタマゴになりかけてきた私だが、昔は間違いなく二流だった。私は二流であることの惨めさ、恥ずかしさ、悲しさを知っている。だから駆け出しの頃は文字通り睡眠時間を削って勉強したし、誰も手をつけない面倒な仕事を積極的に受けて腕を磨いてきた。二流である自分への怒りもモチベーションとしてあったと思う。この惨めな状況から這い上がってやる、という気持ちが常にあったから今の自分があると思う。

私がかつて教えた翻訳者・通訳者には、この「二流の悲しさ」をよく理解していなかった人が少なからずいた。一流になるための努力を怠っている人もいた。だからいつまでたっても凡ミスが絶えない者には「こんなバカなミスいつまでも繰り返してるんだったら、やめちゃえば?」と真顔で厳しく言ったこともある。だいたいこれがきっかけで関係が終わるというか疎遠になってしまうのだが、私はそれでいいと思っている。向いていないのであればさっさと見切りをつけてもっと自分に合った何かを見つけるべきであるし、私を見返したいと思って努力をするきっかけになればそれでもよい。

二流であり続けることを良しとするのが一番悲しいのだ。