4月に日本で初開催されたFIFA Diploma in Club Managementで同時通訳してきました(写真奥のブース、右側が筆者)。「FIFAの公式通訳者ってどんな仕事してるの?」とたびたび質問されるので、今回は一般のファンがアクセスできない案件、いわゆる”裏方案件”を中心に紹介します。試合のヒーローインタビューなどファンが通訳を聞ける案件については、またの機会にということで。
FIFAといえばワールドカップを想起する人が多いと思いますが、そのワールドカップにも各年齢カテゴリーの大会があって、たとえばつい最近でいえば5月20日から6月11日まで開催されたFIFA U-20 男子ワールドカップ・アルゼンチン2023が一例です。私は日本担当で、準決勝まで勝ち残ったら記者会見などを通訳する予定だったのですが(アンダーカテゴリーは予算が潤沢ではない)、日本代表はあえなく予選ラウンドで敗退。残念。けれど裏では大会に先立つロジ周りの会議とか、宿泊先で必要になる施設や設備、備品の手配確認の会議など、いろいろあるのです。
そして近年、FIFAがとても力を入れているのがサッカー(競技)以外の事業で、FIFA Diploma in Club Management (以下、Diploma会議)もその一つ。Diploma会議はこれまで各国で開催されている健全なクラブ経営に関する国際会議なのですが、3日間の本会議に加えて、国内のクラブチーム&スタジアムの視察もありました。Jリーグの野々村チェアマンはJリーグの今と成長戦略を語り、鹿島アントラーズは地方クラブの挑戦と成功モデル、横浜F・マリノスはシティグループの戦略、普段はなかなか聞けないセルヴェットFCの経営改革の歴史など、とても充実した内容でした。最近のFIFAは女子サッカーを盛り上げるための活動に積極的で、その意味ではWEリーグ理事の小林美由紀さんの発表がとても印象に残っています。
クラブ経営の国際会議なのだから、マーケティング関連の内容も出てくるだろうなと思って『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロナのマーケティング実践講座』も読んでおいたのですが、ここで得た知識は本会議よりクラブ訪問で役に立ちました。特にスタジアム関連の広告やマーケティング手法、チケット販売戦略、VIPルーム関連の戦略など、昔のスペインで当たり前だったことが今は日本でも標準になってきています。ちなみにガンバ大阪のスタジアム(パナソニックスタジアム吹田)がエスパニョールのスタジアムをモデルにしているのは、この仕事をするまで知らなかった!そしてここパナソニックスタジアム吹田では、訪問時にフィールドの端で子供向けのサッカースクールが開催中で、元スイス代表のセンデロスさんと元オーストラリア代表のケーヒルさんが試合に乱入して子供たちに直接指導していました(写真)。遊びたかっただけかもだけど。みんな心からサッカーが大好きなので!
準決勝後の記者会見にはコルダノ・ラッセル選手(USA)とシェイ・サンディフォード選手(CAN)が参加すると案内された時点で、各選手の順位を確認。このあたりの文脈は質問を予想する上でとても大事。8位のラッセル選手は決勝進出確定なので、おそらく今日のパフォーマンスと印象と決勝に向けての抱負を聞かれるだろうし、サンディフォード選手は18位で敗退決定なので、おそらく本大会に参加した意味とか、大会の今後をどう考える?系の質問だろうと予測できます。大穴としては、サンディフォード選手は今大会に出店しているアパレルブランド Wind and Sea と契約しているので、その絡みで今後の日本での活動などを聞かれるのかな、と想定していました。業界では「通訳は準備が8割」と言われますが、ある程度質問を予想できていれば本番は結構スムーズに進みます。もう脳内でシミュレーションが済んでいますから。
このミックスゾーンでの記者会見ですが、The Japan Timesの記事が私の訳をそのまま使ってくれました!堀米選手の発言を同通した以下の部分です。
"I think competitions are very easy to understand. A lot of people were attending and they came to see the top pros in the world, and it's great to see that," said Horigome, who won the men's competition with a dramatic final run. "But I don't think the competition side tells the entire story. I want to do more to really bring out the street culture and get everyone to understand what the culture is all about and how fun skateboarding is."