Upcoming Events

2011年5月31日

「翻訳・通訳とフリー」投票タイム!

軽いノリから始まった「翻訳・通訳とフリー」コンペですが、すべてのエントリー作品が揃いました!

さて、ここからが(ある意味)本番です。読者のみなさんが「これ、いいね!」と思った案にチェックして(複数可)、投票をお願いしたいのです。投票期限は6月3日の夜まで。みなさんの意見は励みになりますので、ぜひご協力をお願いいたします。忌憚無きご意見を!

投票は終了しました。ご協力ありがとうございました。

2011年5月30日

翻訳教育とフリー

「翻訳・通訳とフリー」コンペのエントリー⑥

■概要
フリーミアムモデル。翻訳講座の動画の視聴はすべて無料。ただ、学習効果を高める様々なサービスやツールは有料。

■無料なもの
講座の動画すべての視聴

■有料なもの
1)教科書
2)質問する権利
3)ユーザーフォーラムへのアクセス
4)ニュースレター(各種情報)
5)メンバー限定イベントへの参加
6)メンバー限定動画やライブ(生放送)講座の視聴
7)動画の広告非表示

■説明
講座動画の視聴は無料なので、どこの誰でも学習できますが、より深く理解するためのサービスやツールは有料です。既存の通信講座はあまりインタラクティブではないため、この種のサービスが始まれば、業界にちょっとした革命が起こるのではないかと思います。

都内に住む人は通学コースを選べますが、このサービスがターゲットとする地方在住の学習者は、そもそも通学というオプションがない。そのため通信講座で学ぶわけですが、既存の通信講座は双方向性、つまり教える側と「つながっている」感が希薄なので、どうしても孤独感が増幅してしまう。そこで、有料サービスでは主に1)教える側と他の受講者とのつながりを強化し、2)無料動画だけでは決して得ることができない学習体験を提供します。

過去には似たようなアイデアを考えていた人もいるかと思いますが、ソーシャルサービス全盛期の今だからこそ「つながり」感を強く意識した講座、つまり脱落者が少なく、体験の共有から生まれるリッチな学習効果を実現できると思います。

2011年5月29日

WorldOtaku.com

「翻訳・通訳とフリー」コンペのエントリー⑤

■概要
ハイブリッド型フリーミアムモデル。「オタクなもの」に特化した24時間放送のウェブテレビ。全世界の言語に対応。ユーザーはお金を支払うことで任意の動画コンテンツを翻訳してもらうことができる。そしてそれ以降、他のユーザーがその翻訳付きコンテンツを購入・視聴するたびに一定割合のロイヤリティーを受け取る。これは翻訳者も同様。

■無料なもの
オリジナル言語のコンテンツすべての視聴

■有料なもの
1)「動画パトロン権」(翻訳付きコンテンツの一部権利)
2)翻訳付きコンテンツの視聴
3)HD版視聴
4)広告の非表示

■説明
基本的にはニコニコ動画のようなサービスと考えてもらって構いません。つまり、動画視聴は基本的に無料ですが、翻訳(字幕)付きのコンテンツは有料です。ニコニコ動画は、少なくとも現時点では日本ユーザに特化したサービスですが、WorldOtakuではUIをローカライズして、まずはアメリカ、イギリス、フランス、台湾を中心に展開します。

ニコニコ動画の例。コンテンツの購入ができる。

ニコニコ動画ではアニメなどの一部のコンテンツが有料ですが、WorldOtakuでは翻訳付き動画のみが有料です。そして普通のフリーミアムと違うのが、購入した動画から利益を得られることです。


例えばフランスに住む美少女(アメリカに住むライフルオタクのおじさんでもOK)が、自分が好きなアニメについて熱く語る動画をアップしたとしましょう。彼女がアップしたオリジナル動画、つまりフランス語の動画は無料で視聴できます。しかし多くの日本人には何を言っているのか理解できない。そこでユーザーはサービス提供者にお金を支払って翻訳してもらいます。以降、この字幕付きコンテンツは有料で一般ユーザに提供され(オリジナル動画はずっと無料)、収益は1)サービス提供者、2)コンテンツ提供者、3)翻訳者、4)翻訳購入者の4者で分配されます。

有料動画から得た収益の分配例

もちろん素人の投稿だけでは成長は期待できないので、独立系クリエイターやアニメーターにも作品を投稿してもらうように展開します。今までメジャーに発掘されなかった才能もWorldOtakuを通して比較的容易にグローバル展開することが可能です。新人クリエイターの登竜門的な位置付けですね。

翻訳者は、動画の基本翻訳料に加えてロイヤリティーを得るチャンスもあるので、収入を増やすために多くのコンテンツを訳すモチベーションがあります。

ユーザーとしても、自分がファンであるユーザの動画は翻訳したいであろうし、「パトロン」になることで、他の言語域でのファンを増やす貢献もしたい。ザックリ表現すれば、「自分が認めたキャバ嬢をナンバーワンにしたい」という心理と同じです。加えて、自分が翻訳を購入した動画は、他のユーザーが視聴することで収入を生むのであるから、これはいわゆるオンライン上の資産と位置付けられる。面白いコンテンツをいち早く発掘して、一種の投資として翻訳を購入する考え方もあるかもしれない。

サービス提供者としても、ユーザーの翻訳購入を待つことなく、有望なコンテンツを独自で翻訳して24時間配信する。ちなみに、ウェブサイトのサイドバーで商品販売もするので(例えばハム速のように)、運営側の収入源は多様化できます。

2011年5月28日

医療通訳とフリー

「翻訳・通訳とフリー」コンペのエントリー④

■概要
三者間市場モデル。医療通訳者をリアル広告塔、または事実上の広告塔にすることで、患者に医療通訳サービスを無料で提供する。

■無料なもの
医療通訳サービス全般

■有料なもの
患者は一切お金を払わない。通訳料を負担するのは製薬会社・医療機器メーカーや病院。

■説明
日本では医療通訳者が不足していますが、その理由の一つに通訳者の報酬の問題があります。多くの患者はプロの通訳者を雇う金銭的な余裕がなく、病院も費用を負担するのに積極的ではありません。つまり現在、現場で活動している医療通訳者は、高度な技術を提供しているにもかかわらず、「プロらしい」報酬を得ていないのです。

基本的な考えとして、病気で困っている患者に対して、貧しいからサービス提供を拒否することは倫理的問題がありますので、ここはフリーにするのが重要です。では誰が通訳者の報酬を払うのか。

一つのアイデアとしては、通訳者が着るシャツやズボンに企業の広告を入れ、これを制服にすることです。製薬会社や医療機器メーカー、地域の有力企業の広告を掲載するわけです。リアル広告塔ですね。この広告料が通訳報酬に充てられます。

全身広告の例(アイスホッケー)

さすがにここまで広告だらけにすると通訳者にとっては恥辱プレイかもしれないので(笑)、実際にはシャツの前面に小さなロゴ、後方に少し大きめの広告などはどうでしょうか。「広告なんてけしからん!通訳者の品位を損なう」という意見もあるかもしれません。実は私も同意見ですし、プロとしての品位と沽券は大事だと思いますが、この案では患者の利益を優先して考えています。プライドのために救われるべき人が救われないのは馬鹿らしいので。

さて、それでもやはり品位は大事だと考える人のために、通訳者が広告を纏わない選択肢も考えてみたいと思います。私が提案するのは、通訳者の報酬を複数の製薬会社・医療機器メーカーが協力して設立するNPO法人が支払うモデルです(批判を避けるためと、円滑な運用のために病院もスキームに組み込めたら理想的です)。


まあ簡単に説明すると、医療通訳を企業のフィランソロピー(社会的貢献活動)として位置付けるということです。The Chronicle of Philanthropyの2002年の調査によると、米企業がフィランソロピーに投じる総額の約34%は医薬品開発会社によるものであり、慈善事業寄付額のトップ4社は医薬品開発会社でした。これは米国に限る話ではなく、日本のメーカーもお金はあるのです。地域に根ざした医療通訳サービスを複数の医療関係企業が協力して提供することを提案することで、患者は無料で通訳サービスを受け、通訳者は適正な報酬が保証され、企業はこの活動をアピールすることでイメージが向上します。加えて言えば、薬品の開発費と比較すれば、この種の通訳サービスに必要なコストは微々たるものです。費用対効果は大きいのではないでしょうか。

2011年5月27日

どうがほんやく!

「翻訳・通訳とフリー」コンペのエントリー③

■概要
フリーミアムモデル。著作権さえ問題なければ(例えばテレビ番組などは当然不可)、5分以内の動画をすべて無料で翻訳。

無料版サンプル。有料版は広告非表示&HD対応

■無料なもの
5分以内の動画の翻訳

■有料なもの
1)5分を超える動画の翻訳
2)広告の非表示
3)動画のHD版
4)完全著作権(無料版だと共同著作権)
5)吹き替え
6)動画制作

■説明
5分以内の動画であれば全て無料で翻訳するサービス。ただし無料版は動画に1)サービス提供者(どうがほんやく!)と、2)動画のコンテンツにマッチした企業の広告が表示される上、クライアントはコンテンツの著作権をサービス提供者と共同で保有することに同意しなければならない。サービス提供者は共同著作権を持つことにより、コンテンツを使って幅広い広報活動を展開できる。

5分を超える動画の翻訳は有料ですが、料金設定についても、このアイデアは5~6名程度の映像翻訳者がLLCを設立することを前提として想定しているので、通常の翻訳エージェントよりはかなりお手頃な料金設定になります(必ずしもオフィスを持つ必要がないので、運営コストは圧倒的に有利)。おそらく翻訳エージェント価格の60%~70%程度まで落とせると想定されます。

有料版の動画はHDで広告が無く、クライアントが著作権を100%持ちます(いわゆる字幕の買い取り)。つまり有料版の動画はクライアントの許可なしでは、サービス提供者のウェブサイトに公開されません(無料動画は全部公開)。さらに有料オプションとして吹き替えサービス、そして動画をゼロから制作するサービスも提供します。サービスの知名度と評判が上がると、この動画制作部門で大きな利益が期待できます。

サービス開始直後は企業のPR動画やインディペンデント系の映画監督・製作者のショートフィルムをターゲットにしての展開が考えられます。

2011年5月26日

通訳ひあなう

「翻訳・通訳とフリー」コンペのエントリー②

■概要
三者間市場モデル。リアルタイムで任意のエリアに居る通訳者(または翻訳者)の情報を獲得し、連絡を取り合うことができる。緊急で通訳者が必要な時などに便利。

有料版ではピンに触れると詳細なプロフィールが表示される

■無料なもの

一部の登録通訳者(ランクが低い通訳者)の位置情報

■有料なもの
1)登録通訳者全員の位置情報と詳細プロフィール
2)高度な絞り込み検索機能
3)専用フォームでの直接のやりとり(一回1,000円程度、有料版では無料)
4)広告の非表示

■説明
急に通訳者(または翻訳者)が必要になった場合のサービス。多くの通訳案件は事前の準備段階があり、この準備段階があるからこそ通訳者が力を発揮できるわけだが、現実にはいきなり、つまり今すぐ通訳者が必要になるケースもある。そのような緊急時、自分がいるエリアの通訳者とその場で契約できたらどんなに助かるだろうか。

通訳者は予めサービスに自分の連絡先、経験年数、専門分野等を登録しておいて(無料)、1)自身の携帯電話のGPS情報を開示すること、2)ランク別の通訳料金規定に合意する。後は連絡を待つだけ。

クライアントはサービスにアクセスすると、初期の無料版では一部登録者の位置情報とランクしか分からない(例えばDとEランクに限定されるとする)。このランクでよければ、通訳者のピンに触れて、専用フォームからメールを送信し、通訳者と直接やり取りする。

サービス提供者はこのやり取りをすべて監視している。クライアントと通訳者が場所・時間等の諸条件に合意した後、サービス提供者はクライアントに料金の通知をする(実際はウェブサイトに表示されているので、事前に分かっている)。後はクライアントに請求し、通訳者に料金を支払うだけ。当然だが、サービス提供者は一定のマージンを取る。

有料版(年間8,000円程度ならお手頃なのではと思う)にアップグレードすれば、1)登録通訳者全員の位置情報と詳細プロフィールが表示され、2)高度な絞込み検索ができるので、自分のニーズに合った通訳者を容易に探すことができるようになる。3)無料版では一回につき1,000円だった連絡手数料も無料に。さらに4)無料版で表示される広告も非表示になるのでスッキリ。

実はこの案を考えた時は、主に民間企業の利用を想定していたのですが、改めて考えてみると、警察等の捜査機関にとって有益なシステムではないかと思います。お世辞にも英語が堪能な警察官は多いといえない中、外国人犯罪は年々増加しているので、警察とサービス提供者が契約し、必要な時にだけ近辺の通訳者に応援を頼むというシステムです。このサービスをそのまま運用するには無理があるかもしれませんが、警察も語学ができる人材が乏しい状況にあるので、工夫して何らかの形で応用できるのかなと思います。

2011年5月25日

同時通訳とフリー

「翻訳・通訳とフリー」コンペのエントリー①

■概要
直接的内部相互補助モデル。ブースがない会場で同時通訳付きのイベントを開催する場合、通常は通訳者に加えて音声機器、ブース設置、サウンド・エンジニアなどの手配が必要になるが、当然のことながらこれには料金が発生する。予算的に余裕がないクライアントの場合、設備は外せないので、ワンランク下の通訳者を手配するケースがある。そこで、通訳者の料金が一定額を超えた場合、設備・機材をタダにする。

■無料なもの
音声機器と同時通訳ブース設置料金。サウンド・エンジニアの料金も。

■有料なもの
通常であれば予算の関係上、ワンランク低い通訳者で我慢するかもしれないが、ブースや機器等の料金を無料にすることで、ワンランク上の通訳者を手配できる。

■説明
まずはシンプル(平凡?)なアイデアからです(笑)。同時通訳付きのイベントを開催する場合、設備・機材は当然外せないので、本来ならAランクの通訳者を2名雇いたいが、Cランク2名で我慢するというケースがあると考える。それでは、例えばAランク2名の料金を超えたら設備費等はタダにしてはどうかというもの。例えば通訳料が180,000円/日を超えると設備・機材がタダになるとしましょう。

Cランク(50,000円)x2名=100,000円
設備・機器費(200,000円)
合計300,000円

Aランク(100,000円)X2名=200,000円
設備・機器費(0円)
合計200,000円

クライアントとしてはお手頃な料金でレベルが高い通訳者を雇えるので、通訳サービスがより身近になります。サービス提供者側から見ると、上の数字だけを見ると10万円も損しているように見えますが、価格を落とすことで依頼は増加するでしょうし、ランクが高い通訳者を使ってもらえれば高い顧客満足度が期待できるので、リピート率・口コミ率も上がると予測できます。それに機材等は所有していればそもそもコストはかかりません。そして、通訳者は全く損をしないスキームです。

実現条件は「通訳サービス提供者が設備・機器等を所有していること」だけです。所有していれば、維持費や修理費等のリスクを長期スパンで考えても、利益は十分に確保できると考えます。具体的に設備等がフリーになる価格をどのレベルに設定するかは各サービス提供者の状況等により異なります。

2011年5月24日

「翻訳・通訳とフリー」コンペ

昨年のJTF翻訳祭で西野竜太郎さんが「翻訳者だからできる!世界に向けたアプリの開発と販売」と題した発表をされたのですが、そこで翻訳の新しいビジネスモデルとして「フリーミアムを絡める」こと、つまり極端な話、翻訳をタダにしてはどうか?という提案がありました。ただ、あまりにも斬新すぎる主張ゆえに聴衆はポカーン状態で、西野さん自身もその場で分かりやすい具体例を提示しなかったので(そもそも発表の主旨ではなかった)、特に深い議論には発展しませんでした。

実はこの発表の数ヶ月前にクリス・アンダーソンの『フリー』を読んでいた私も、「翻訳をフリーにできないのかな」とぼんやり考えていました。西野さんに話したところ、この不完全燃焼感を払拭すべく、翻訳・通訳とフリーを絡めた具体的なビジネスモデルを考えてみようということになりました。それもコンペ形式で(笑)。ツイッターの翻訳クラスタから平井和也さん、宮原美佳子さん、清水憲二さんも参戦します。

投票は月末からスタートしますが、私はアイデアを複数用意しているので、明日から一つずつ発表していきます。ご意見などありましたら、ツイッターかコメント欄(オープンにしました)にどうぞ。

フリーの各モデルについてはクリス・アンダーソンの本を読むのが一番なのですが、とりあえず以下に簡単にまとめます。

1.直接的内部相互補助


無料なもの: 消費者の気を引いて、他のものも買ってみようと思わせる商品ならなんでも
無料対象者: 結局はみんなが、なんらかの方法で喜んで金を払う
具体例: 「DVDを一枚買えば、二枚目はタダ」、「1,500円以上の注文で送料無料」


2.三者間市場


無料なもの: コンテンツ、サービス、ソフトウェアなど
無料対象者: 誰でも
具体例: 「PDF文書の閲覧は無料、作成ソフトは有料」(Adobe)、「女性は入場無料、男性は有料」(バーなど)


3.フリーミアム


無料なもの: 有料のプレミアム版に対する基本版
無料対象者: 基本版のユーザー
具体例: 「画像共有サービスは無料、追加の保存容量は無料」(Flickr)、「PC同士の通話は無料、PCと電話の通話は無料」(Skype)


4.非貨幣市場


無料なもの: 対価を期待せずに、人々があげるものすべて
無料対象者: 誰でも
具体例: ウィキペディア、ヤフー知恵袋


さすがに4)非貨幣市場はお金の移動がないので、私の想像力では有効なモデルを考えることはできませんでしたが(対価を期待しなかったら、どうやって食べていくの?という話ですし)、1~3については色々考えてみました。個人的にはすぐにも実現可能なアイデアばかりだと思うのですが…

2011年5月22日

検索アルゴリズムが翻訳者を操作する?

現代の翻訳者の仕事にインターネット検索は欠かせません。基本的情報の検索、不明確な情報の裏取り、作業に必要なツールの価格比較、出張時の路線検索やホテル探しなど、もはや検索なしでは仕事が成り立ちません。しかし、もし私たちが日常的に利用している検索エンジンが、利用するユーザーの趣味や嗜好に合わせて検索結果を修正していたら?ユーザーが好まないと思われる情報を勝手にフィルターにかけて選別していたら?まずはこちらの動画をどうぞ。



グーグルやフェースブック(というか、最近のウェブサービス全般)がユーザーの検索クエリや検索結果からのクリック情報等を記録して、検索アルゴリズムの向上に利用されているのは私も知っていましたが、ナイーブな私は、グーグルに限っては、アルゴリズムが生む検索結果は一つしかないと今までは考えていました。より具体的に言うと、検索結果の横に表示される広告はパーソナライズされているが、検索結果そのものは誰でも同じだと思っていました。つまり、全世界のユーザーの検索情報を利用してアルゴリズムは進化しますが、同じ日の同じ時間に同じクエリで検索すれば、検索者が誰でも、どこに居ても、どの端末からアクセスしても、検索結果は同じだと考えていたのです(これをAモデルを呼びます)。しかし、動画にもあるように、最近の検索アルゴリズムはユーザーのオンライン活動傾向を読み取り、そのユーザーにとって何が重要な情報なのか、どの情報の価値が低いのか、勝手に選別した上で結果を表示しているというのです(Bモデルとします)。グーグル一つをとっても、ユーザーの位置、端末情報、ブラウザ情報等、57の要素が常に監視・記録されていると動画では語られています。

これは大きな問題です。Aモデルの場合は、全世界のユーザーの活動トレンドが反映されているわけですから、私の検索結果に「ノイズ」、つまり自分の嗜好・関心との関連性が低い情報も表示される可能性が高い。ただ、新聞を読む人やツイッターをしている人なら分かると思いますが、適度なノイズは新しい発見を生むことが多々あります。自分が今まで関心を持たなかったことでも、偶然の発見により関心を持つチャンスが生まれるわけです(そして、それが新たな成長を促す)。私自身、ツイッターを始めてからサブカルチャーの世界に強い関心を持つようになりました。

ではBモデルの何が問題なのか。簡単に言えば、「アルゴリズムによる人間の家畜化」です。

どういうことか具体的に説明するために、批評家の東浩紀氏が2001年に著した『動物化するポストモダン』で展開した主張を考える必要があります。濱野智史氏が『アーキテクチャの生態系』で同書の本質部分を簡潔にまとめているので引用します。

「ポストモダン」と呼ばれる現代社会において、もはや人々は、共通の「価値観」や「目標」を信じることはできなくなっている(「大きな物語の崩壊」)。そのため、もはや小説や映画やアニメやゲームといった個々の「物語コンテンツ」は、社会全体で共有可能な「リアル」を表現する<器>としての役割をはたしておらず、ただ消費者の感情や感覚―それはオタク系の「萌え」であろうと、ケータイ小説系の「感動」(涙腺)でもいいのですが―を的確に刺激する「小さな物語」として、個別にばらばらに消費されている。東氏はこうした事態を、「動物化」と呼んでいます。

これを情報に当てはめて言えば、かつては新聞が社会全体のリアルを表現する<器>でした。それがネットの登場とグーグルの台頭等により、情報は「与えられるもの」から「選ぶもの」に劇的に変わりました。東氏の『動ポモ』での主張を当てはめて強引にまとめると、「人々は自分が好きな情報を好きな方法でしか消費しなくなった」ということです。新聞であれば所々目に付くような「ノイズ」が、ポストモダンの消費傾向では、ほぼ(選択的に)消失してしまったのです。

さて、ここからが本題です。現代社会に生きる私たちは、程度の差はありますが、動物化していることは間違いありません。ただ、それはあくまでも自己選択的な動物化であって、決して他者に強いられた結果ではない。私たちは、自分の意思でネットの海を探索し、欲しい情報を探し当てているはずです。しかし、考えてみてください。今まで自分が使っていた検索アルゴリズムが、実は一種の主観性を持ち、あなたの情報生活を「操作」していたとしたら?過去の活動傾向から勝手に「あなたが好みそうな情報」ばかりを選別して検索結果に表示していたとしたら?それはもはや、自己選択的な動物化どころか、アーキテクチャレベルでのアルゴリズムによる人間の家畜化です。私たちは全く気付かないで、アルゴリズムという名の牢獄で毎日の糧を頂いて幸せに暮らしているのです。選択していたと思っていたら、(選択肢を操作されることで)選択を誘導されていたのです。つまり、Bモデルの行き着く場所は、情報のパノプティコン化に他なりません。

Bモデルが発展すると翻訳者の仕事にどのような影響があるのか。まず、同一の翻訳者(同一の知識・技術・経験を有する人間)でも、PC環境や場所が異なれば検索結果も異なるので、必要な情報の入手が困難になるケースが考えられます。次に、検索結果はユーザーの趣味・嗜好を反映するので、訳文も今まで以上に(時には過剰に)その影響を受けやすくなる。さらに、動画で発表者が「リベラル系のリンクばかりをクリックしていたら保守系の情報が消えていった」と話していたように、特定の思想に(無意識に)偏ってしまう可能性が大きい。翻訳者にとって柔軟な思考は非常に重要ですから、特定の思想に固定観念を持ってしまう(持つように訓練されてしまう)のは致命的です。文脈を読む能力が損なわれてしまいます。

では、どうしたら良いのか?発表者は、ユーザーが不快に感じるかもしれない結果や、関連性が低いと推測される結果についても、アルゴリズムが表示する必要(またはそのオプションを設ける必要)があると主張します。コードに「公共性」や「倫理」を組み込むべきだと。しかし、これはアーキテクチャの設計者側の問題であって、私たち個人がどうにかできることではありません。私たちにできることは、今まで以上に注意して、自分が快く思わない、または関心がないタイプの情報にも寛容になることです。常に関心を持ち、理解しようとする姿勢を持つこと、それが見えないアーキテクチャと共存・共栄する方法だと私は考えます。

※追記(5/25)

結局はこの動画の主張のように、異なる意見を持つ人に自分から積極的にアプローチし、誠実に語り合うことが求められて行くのかもしれません。

2011年5月21日

通訳業界が悲鳴 国際会議中止相次ぎ、活躍の場なく

東日本大震災は多くの人々の生活を奪い、産業に打撃を与えていますが、通訳業界も例外ではありません。震災後は東京を中心に国際会議が軒並み中止・延期となり、今も回復の兆しは見えていません。今回は地震と津波だけで終わらず、放射能問題にまで発展しており、海外の報道などを見る限り、この問題は福島に限定ではなくて日本全土の問題になっているという印象を受けます。

通訳業界が悲鳴 国際会議中止相次ぎ、活躍の場なく
産経ニュース(2011.5.2)

 東日本大震災の影響で国際会議の中止・延期が相次ぎ、活躍の場をなくした通訳業界が悲鳴を上げている。「仕事が9割減」(業界大手)という4月の状況からは回復したが、余震が減っても原発事故の影響で外国人が来日をひかえる状況に変わりはない。節電で大規模会議の開催を避ける傾向もあり、苦しい状況が続きそうだ。

 観光庁は、震災後キャンセルとなった国際会議の数を「数十件」としており、大きいものでは4千人の参加が見込まれた「世界疼痛(とうつう)学会」(来年開催)の会場が、横浜市から他国に変更された。こうした動きは、国際会議の通訳業務を担う業界を直撃。大手の担当者は「震災後2週間で200件近くがキャンセル。4月は仕事の9割が中止か延期に追い込まれた」と明かし、別の社の担当者も「5月は例年の7~8割で、長期化すれば倒産する社も出る」と危機感を強める。

 年間1万件近い通訳サービスを提供する「サイマル・インターナショナル」の藤井ゆき子ジェネラルマネジャーは「直近の仕事はあきらめたという通訳もいるが、チャンスを提供できるよう(仕事の)掘り起こしを進めている」と話す。

 「通訳で生計が成り立たなくなり、就職活動を始めた人もいる」と窮状を語るのは、国際会議の企画運営を行う「コングレ」の武内紀子専務。「日本政府は来日の安全性をもっと発信していくべきだ」と訴える。

 観光庁は国際会議の日本離れが表面化した3月末、安全性をアピールする長官名レターを主催者に送付するなど不安払拭に動いた。民間でも、コングレ設立のシンクタンク「MICE総研」が今月10日、放射線量の正確な数字を案内する英語サイトを開くなど、風評被害の防止に努めている。

 しかし、APECなどの首脳会議で同時通訳を担った「日本コンベンションサービス」の阿部学通訳部長は、外国人の放射能への恐怖が根強いことを指摘。「節電志向もあり、今の原発の状態では回復時期を見通せない」と話している。(三宅陽子)

私の通訳仲間も「今年は耐えるしかないね」との意見が大半です。放射能のような見えない脅威を払拭するには、政府の安全宣言とアピールも大事なのでしょうが、やはり一に時間、二に時間、という気がします。

日本が「安全」というブランドを失った今後、短期的には多くの国際会議が中国や韓国に流れていくのは避けられないかもしれません。通訳者としても、今後は戦略の修正を求められてくると思います。

2011年5月19日

2011年度 沖縄キリスト教学院大学 同時通訳集中講座

この夏(8月2日~9日)に沖縄キリスト教学院大学が主催する同時通訳集中講座で数コマ教えることになりました。この講座は毎年開催されているのですが、県外からも多数の通訳志望者(現役の通訳者もたまに混じっているらしい)が受講することで有名です。授業の内容はもちろんですが、2週間で3万~5万円というコストパフォーマンスも魅力的ですね。沖縄ですから遊びにも困らないというものありますし(笑)。

一昨年からは著名人を招待して講演会を開催し、受講生が同時通訳するという、この上ない最終試験的な企画も組み込まれており、かなり実践を重視したカリキュラムになっているようです。例えば一昨年は稲嶺恵一前沖縄県知事、昨年は「もし世界が100人の村だったら」の日本語版著者のダグラス・ラミス氏。そして、今年は、私の先輩でもある金城初美さんです。沖縄が日本に復帰した当時から活動されている大先輩です。

私といえば、具体的に何を教えるかはまだ決定していないのですが、通訳学校では通常教えない実践的な内容を準備中です。興味がある方は下のリンクに詳細があります。

2011年度 沖縄キリスト教学院大学 同時通訳集中講座

2011年5月4日

Universal Subtitlesが面白い。



日本で映像翻訳を仕事にするには株式会社カンバスが発売しているSST(字幕制作ソフト)を持っていないと話になりませんが(これがまた高額なのです…)、ウェブ素材の簡易字幕制作においてはここ数年で技術がかなり発展し、誰でも簡単に利用できる無料サービスが増えてきています。その一つがUniversal Subtitlesなのですが、無料とは思えないほど高機能です。

字幕制作に慣れている人はハコ書き→スポッティング→翻訳という流れが身についているので、Universal Subtitlesの逆の流れ、つまり一度全部翻訳→スポッティングにはかなり違和感を覚えるかもしれません。デザイナーが直感的操作を意識した結果なのでしょう。まあでも細かいフレーム等を気にしないであれば(そこまで細かい設定はできない)、単に使えるどころか、これまで制作会社に発注されていた企業PR動画等がすべてこちらに流れてしまう可能性は十分に考えられます。今後、有料版(リリース予定は不明)で細かい設定ができるようになれば、業界に新たな流れを作る原動力になるのでは。

Universal Subtitles オンライン字幕制作