会議通訳者の篠田顕子さんが1月11日にご帰天された。日英通訳業界ではとても有名な勉強家で、技術も高く、歳を重ねた先輩通訳者にありがちなマウンティングもなく、むしろ新参者や後輩にも配慮する優しい方でした。私が一緒に仕事をしたのは一度だけ、15年以上前に韓国で開催された案件だったのですが、とても落ち着いて安定した訳出ぶりで、多くのことを学びました。仕事のあとはホテル近くの焼肉屋でほぼ肉を注文せずに、もう一人の通訳者である白江さんとくだらない話をしながら笑って過ごした記憶があります(もっといろいろ聞いておけばよかった)。
篠田さんは著書『愛の両がわ』で自身の波乱万丈な人生はもちろん、通訳者になったきっかけとその後の展開についても綴っています。特に女性通訳者にお薦めです。時間がなくても第9章~第12章の仕事に関する部分は読んでおいて損はありません。特に仕事の後に自分のパフォーマンスを徹底的に反省して復習する過程は、私も若手時代に同じようなことをしていて、技術の向上につながった感覚があります。もっとも私の場合はすぐに忙しくなって途中で辞めてしまったのですが、ちゃんと続けていたらもっと上手くなったかもしれない。
実は2015年にJACIを立ち上げたとき、その夏に初開催する日本通訳フォーラムで篠田さんに基調講演を依頼していました。けれど、もうタイミングを逸してしまったというか、篠田さんはもう仕事を減らすフェーズに入っていて、夏は地方でゆっくり畑仕事を楽しみたい、ということで叶いませんでした。実際、その後は表舞台に姿を現すことはあまりなくなっています。いま思うのは、フォーラムでの講演は難しかったかもしれないけど、何か理由をつくってもっと話をしておけばよかった、ということ。通訳業界はただでさえ先輩たちの記録が乏しいので……。
あの日、初対面なのに未熟な私を優しくサポートして、時には励ましてくれた大先輩・篠田顕子さん。いつか私もあなたのように他の通訳者を引き上げる存在になりたいです。
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