2011年7月4日

通訳と非言語コミュニケーション

下記の記事がアメリカの通訳仲間のあいだで話題になっています(読み易さを考慮して改行を加えています)。政治的な事はおいておくとして、政府は手話通訳の使い方、具体的には手話通訳を利用する人間の立場を考えていないという話。

余録:どちらに逃げればいいのか…
毎日新聞 2011年6月6日 東京朝刊

どちらに逃げればいいのかわからない。手を引かれて高台にたどりつき初めて津波を知った人もいるという。避難所でも情報が届かず孤立しがちだ。そうした聴覚障害者にとって「3・13」は記念すべき日になった▲

首相官邸での官房長官会見に手話通訳が登場したのだ。弱者に優しい民主党の面目躍如である。ところが、この手話通訳付き会見、さぞや好評かと思ったらそうでもないらしい。「まったく理解できなかった」「少しだけ理解できた」という聴覚障害者が7割近くに上ったというアンケート結果がある▲

さまざまな理由の中で気になったのが「距離」と「表情」だ。通訳者が官房長官から離れて立っているのでテレビ画面には小さくしか映らない。そのため表情がよく見えないというのだ。手話の種類によって表情は文法と深い関係があり、手の動きを見ているだけでは意味が伝わらないという▲

話し言葉でも表情や声の調子は重要な役割を果たしている。どこにアクセントを置くかで「辞めない」は否定にも疑問にもなる。声や表情だけでなく相手との関係性によってもニュアンスは異なる。本当の意味を伝えあうためには、言葉の土台にある感情や信頼が重要なのだ▲

税と社会保障改革で野党に協議を呼びかけてもうまくいかず、電話で自民党総裁に入閣を要請し怒りを買う。不信任決議案をめぐる騒動もそうだ。野党時代は論客で鳴らしたはずなのに菅直人首相のコミュニケーション不全は深刻だ▲

首相並びに官房長官は「距離」や「表情」を考えてみてはどうか。手話に熟練した人は通訳の指よりも表情を見ながら意味を読むという。

話者の表情や身振り手振り、姿勢等の非言語コミュニケーションは通訳者にとって非常に大事なものです。サミットで首脳の顔を映すカメラがあるのは有名な話ですね。実は話者の表情が読めないだけでも、通訳の質に影響がでます。というのは、状況によっては話者が真面目なのか、単に冗談を言ってるのか、または冗談の含みがあるけれど主張自体は大真面目なのか、この辺の細かいニュアンスの理解は非言語コミュニケーションに頼る部分が大きいので、話者の真意が読み取れないと通訳者は踏み込んだ訳ができない。比較的無機質な、無難な訳に落ち着いてしまうわけです。

テーブル中央の物体は実はカメラ

手話通訳がどんなものか知りたい方は、とりあえずNHKの手話ニュースがお薦めです。こちらから放送時間をご確認ください。

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