2020年3月15日

遠隔イベントやってます。

COVID-19問題で通訳業界は大打撃。2月末からはキャンセルに次ぐキャンセル、新規オファーはほぼゼロ。多くのフリーランス通訳者が将来の見通しが不透明な中、不安を感じています。

日本会議通訳者協会としては、せめてこれを学び・仕込みの時期と捉えて、会員向けに多数の通訳・翻訳イベントを用意しました。会員は無料で参加できます(割引コードは会員限定グループで共有)。一般の方も有料で参加できますが、どう考えても入会した方がお得なので、この機会にぜひ!

日本会議通訳者協会 入会案内

JACI 遠隔セミナー

2020年2月26日

『通訳というおしごと』発売です。

昨年の繁忙期に死にそうな思いをして(自業自得)書き下ろした『通訳というおしごと』が本日発売です。といっても世間はコロナ問題一色なので新刊イベントは当面なし。実に静かな滑り出しです。

ドラフトの段階ではちょっと偏った主張や、トゲのある表現をしていた部分があったのですが、そういうのってやはり心と体が弱っているときに書いているんですよね。闇落ち寸前というか。それでも繁忙期が無事に終わったあとに原稿を再チェックして、かなりの修正を加えて、なんとか発売予定日に間に合わせることができました。

内容については読んでもらうのが一番早いのですが(サクッと読めるテンポで書いたつもりです)、要は僕が若手の頃に誰も教えてくれなかった「仕事としての通訳」にフォーカスしています。通訳学校・教育機関の選び方と使い方、エージェント登録と試験対策、差別化のヒント、レート交渉、仕事ポートフォリオの組み方、などなど。僕自身、通訳者になろうと決めたときにこういう本があったら回り道をしないで済んだのになあと思ったのがそもそもの執筆動機というか。もっと書きたいこともあるけれど、300ページの約束を派手に破って340ページにしてしまったので、編集者にネット土下座しつつ、書けなかったことはどこか別の場所で発表したいと思います。

年末年始返上で苦しみながら取り組んで、もう絶対に描き下ろしなんかやらんと思っていたのに、いざ発売されて自分の手を離れると、もう一回やってもいいかなと思ってしまうのが不思議。典型的な喉元過ぎれば熱さを忘れるじゃん。

皆さん、『通訳というおしごと』を宜しくお願い致します!

2020年2月4日

また放置してたら年が明けた。

ダーッと集中して書いたと思ったら、数か月というか1年近くの放置プレイがお約束になりつつある本ブログですが、明けましておめでとうございます。近況をいくつか。

1.新著がでます。アルク社のはたらくx英語シリーズ最新刊、『通訳というおしごと』です。『同時通訳者のここだけの話』が出版されてから、執筆後記を細々と書いていたのですが、5月19日を最後に更新が途絶えていたのは新刊を執筆していたからです。執筆後記、今月からぼちぼち再開しますよ(1年後だけど)。

この新著、本来であれば夏くらいに仕上げて12月に発売、みたいな流れを想定していたのだけど、私が調子に乗って怠けていたら作業が大幅に遅れました。その結果、担当編集者に静かに怒らたので(一番怖いパターン)、心を入れ替えて、年末年始を返上して頑張りましたよ。書き下ろしって難しいですね~。

本書は若干の技術的要素があるものの技術本ではなく、どちらかといえば通訳を仕事として成立させ、これで生きていくためには何を考えてどう行動すべきかを書いた一冊です。本当はもっと具体的に書きたい部分もあったのだけど、具体的すぎるとニッチな作品になってしまうので、書けなかった部分はイベントで、またはウェブコンテンツとして発表しようかなと。いずれにしても、通訳者を目指す人が必ず手に取ってくれるような本に仕上げたつもりです。

2.今年から禁酒してます。もともとあまり飲まなかったのだけど、年齢を重ねるとともに体がアルコールを分解するスピードがかなり遅くなり、飲んだ翌日の生産性が激落ちしていたのと、個人的には瀧本哲史が亡くなったのが結構大きな影響です。生前の瀧本は思考を常にクリアに維持するためにアルコールを一滴も飲まないとインタビューで語っていました。私も今後はそうしていきたいと思います。そもそも酒を「美味しい」と感じたことは一度もないですしね。

3.いろんな人に「オンラインで教えないんですか?」と聞かれていますが、現時点では優先すべきことがあるので考えていません。というか、教えるのって簡単じゃないのよね。きちんとした授業をしようと思ったら相当な準備をしなきゃならない。でもまあ、2~3年後には本格的にやるかもです。10台~20代に通訳を教えたいという考えは以前からあるので。

4.日本会議通訳者協会の活動も順調です。会員数は250近く、認定会員も30名になりました。昨年の英国に続き、今年(というか今月末)は米国で認定試験を実施します。本当の意味でグローバルな団体になりつつあります。ちなみに今年の日本通訳フォーラムは8月22日(土)に決定しました。オリンピックとパラリンピックのあいだの週末というチャレンジ企画的な日程です!29日に変更&確定しました!

今年も走り続けます。宜しくお願い致します!

関根マイク

2019年5月19日

【執筆後記11】嫌だけど主役になる

このエピソードで紹介している「時間を稼いでほしい」という依頼はそんなにあるわけではありません。でも私のように企業買収や法務などを主にやっていると、どのみち丁寧に訳さなければならないので、必然的にゆっくりとしたペースになることが多いです。その中でも私はどちらかというと「スピード」と「体力」で売っている通訳者なので、できるだけ訳出スピードとテンポを上げていきたい。そしてそのペースをできるだけ長く維持したい(でも1日の終わり頃にはかなり疲れてくるのですがね……)。

ちなみに最近、某スポーツ選手の記者会見動画を観ていたのですが、通訳者さんの訳出がとても遅くてイライラしてしまいました。訳自体は正確なのですが、とにかく遅いし長い。原文1に対して訳文は1.7~1.8くらいはあったでしょうか。通訳業界ではスピードが過小評価されているような印象を私は持っているのですが、これは話者や聞き手との信頼関係を築く上でとても重要だと思います。然るべきペースでメリハリのきいた訳出を心がけたいものですね。

重い一言を訳すときは直前に少しタメをおくことが多いです。落語から学びました。そもそも①自分で訳を少し考える時間が必要ですし、さらに②タメをつくることで聞き手に対して「次のこの部分はとっても重要だからちゃんと聞きなさいよ」と心の準備を促すことができます。なんでもかんでも喋り倒せば良いというものではないのです。

まあでも、タメをつくるとどうしても通訳者に注目が集まってしまう場合が多いのですが…… 特に逐次は。主役になりたくはないけど、訳の効果を重視するとしかたがないですね。


2019年5月12日

【執筆後記10】それだけでは訳せない!

肩書きはまだ許せる範囲としても、やはり登場人物の性別は間違えたくないですね。たとえばウィリアムスさんという人がいて、性別がわからないので I know Williams などと呼びすてにすると、人によっては「なんかこいつ上から目線だな、エラそうだな」という印象をもってしまいます。

通訳者に会議の参加者リストをくれない会社はまだ多いので(悪気はなく、単に通訳という仕事を知らないだけだと思いますが)、私は休憩中に机に置いてある名刺を見ながら別紙に書き写しています。会議に出てくる重要人物の名前を知らないって、結構恥ずかしいことですから。情報がなければしかたない部分はあるのですが、やはり恥はかきたくない!

ちなみにこれを書きながら思い出しましたが、まだ法務分野で経験が浅い頃、ある特許訴訟に関する現場で、"did you speak with an attorney?" という質問に対して、「あなたは弁護士または弁理士と話をしましたか?」と訳していた通訳者さんがいて関心しました。確かにこれを特許訴訟だし、弁理士は patent attorney だから含めないとアカンなあ、と。attorney = 弁護士と決めつけがちですが、例外もあるのです。現場でしか学べないことは山ほどありますよ……


2019年5月8日

【執筆後記9】通訳者の危機管理

この回は実は業界的には結構難しいトピックです。通訳者は建前としては「原文に忠実に、正確に」を前提としてしっかり訳さなければならないのですが、やはりそこは人間、集中力が途切れたり、雑音が入って(会議の参加者が肝心な部分で大きなくしゃみをしたり!)聞き取れない時もあります。でも通訳者が頻繁に「もう一度お願いできますか?」などと聞き返していたらクライアントの信頼を失ってしまうので、そこは網を広げて無難に訳したり、前後の文脈から予測して安全な(誤爆を回避する)訳を出すわけです。通訳者であれば例外なく誰でもやっていることです。もちろん上手い人ほど回数は少ないですが。

経験を積むと、訳出のテンポやスピードは正確性と同じくらい重要だということに気づきます。実際、選ばれ続ける通訳者は本当に重要な部分でしか質問しません。経験から話の流れを止めるべきではないと知っているからです。長年の現場経験から文脈の予測精度が高くなっているというのもありますが。

通訳者の危機管理については『通訳翻訳ジャーナル』で連載したこともありますが、使い方には本当に注意してほしいですね。


2019年5月7日

【執筆後記8】意訳と直訳

10連休中に執筆後記を書き溜めておこう!と思っていたら、あっという間に終わっていました。個人的にはあるあるです。

「意訳と直訳」のエピソードを書きながら考えていたことは2点。1つは、通訳学校で教える先生は本当に大変だなあということ。場合によっては直訳寄り、はたまた意訳寄りと、言語化しにくい直感というか、現場の空気を読むスキルを肌感覚でわかるように教えなければならないのですが、これは本当に難しい。私自身もたまに学校で教えますが、このあたりのさじ加減を説明するのにいつも苦労しています。

もう1つは、私は米原万理的にいえば「不実な美女」寄りの通訳者であり、それが求められている現場は心から楽しめるということです。私の主戦場が法務と知っている方がこれを読んだら驚くかもしれません。法務の現場はガチガチの直訳が求められ、創造性あふれる意訳には価値はないのですから。

法務が嫌いというわけではありません。むしろ好きです。でも、スポーツやエンタメ関係の現場がもっと好きなのです。現場自体が自由でのびのびとしていて、言葉の「感情」を伝えることに重きが置かれることが多いからです。ただ、スポーツやエンタメだけで生活していくのはとても難しい。やりがいは問題ないのですが……

2019年4月20日

【執筆後記7】しくじり通訳人生

しくじりネタを数えはじめたら永遠に終わりそうにありませんが、この回を読み返していて思い出したことがあります。主催企業(A社としましょう……アップルではないですが)の製品以外は基本的に持ち込み禁止、ただし業務に必要な場合はブランドロゴをテープなどで隠して持ち込むように、とのお達しがあった中国でのIT系国際会議では、私はたまたま昔からA社の製品を愛用していたので問題なかったのですが、一緒に来た通訳者数名のノートPCはかなりガチガチに厳しく取り締まられて、もうロゴだけでなく端末全体にテープを貼られていました。ちょっとやりすぎじゃないかと思った私は、ささやかな抗議として、A社製品である私自身のノートPCのロゴもテープで覆いました(笑)。いまこうして考えてみると実にアホらしい抗議だなと思いますが、当時は結構ムカついていたような記憶があります。ブースの中で通訳者がどこの製品を使っているかなんて、誰も見ないし、興味もないでしょう……と。

バスの中での通訳ですが、実はもう何年もやっていません。理由はシンプルで、運転中のバス(というか、たぶん車全般)の中で集中して通訳をすると酔いやすい体質だということに気付いたからです。私だけではないかもしれませんがね。それに揺れるのでまともなノートも取れない。通訳者にとってはかなり厳しい業務環境です。



◆ちなみに昨日、友人の通訳会社からの突然の依頼で資料・情報なしで某現場に投げ込まれたのですが、担当者がなんと新著の読者だったという。最近はどこに行っても厳しく評価されているような気がするのですが、気のせいでしょうか(笑)。どこかに「関根は実はたいしたことなかった」と書かれていないことを切に願う!

2019年4月4日

【執筆後記6】白人の解釈、黒人の解釈

このエピソードですが、実は米国で仕事をしたとき、黒人講演者が「ニガー(nigger)」と冗談で口にしたことがあったのですね。白人が言ったら即座に人種差別者とレッテルを貼られて社会的にも抹殺されるでしょうが、黒人だと問題になることはありません。黒人を差別する意味合いで使う黒人はいませんから。ですが通訳者としてはとてもビミョーな立場になります。雰囲気を損なわずに冗談を伝えるにはニガーと言わなければならないし(それで笑ってもらえるかは別問題ですが)、でも黒人ではない自分としてはそれを口にするのは違和感がある。難しいところですね。

「新しい訳は現場で試す」の部分ですが、別に現場を壊すような突飛な訳を試しているわけではありません。一般的には、たとえば英語の新しい概念に対して日本語訳を付けて、聞き手の反応を見てその後の対応を考える、ということです。ここ4~5年でいえばenablerが代表的かもしれません。今でこそそのまま「イネーブラー」と出して通じますが、5年前は「〇〇を実現する重要事項」とか「成功要因」など補足を加えて訳していた気がします。今考えると笑えますが、sexual harassment という言葉が出てくるたびに「性的嫌がらせ」と訳していた時代もあったのですよ!


2019年4月1日

【執筆後記5】わかるまで、つなぐ

「わかるまで、つなぐ」のは通訳者であれば程度の差はあれど、誰でもやっていることです。どこか誤魔化しているような印象があるので胸を張って認める人はあまりいませんが。通訳者だって人間なので、未来を読めるわけはありません。きちんと資料を読み込んで、事前に打ち合わせをしても、ひとたび講演者が思いっきり脱線して10年前のルワンダ奥地での個人的出来事を話し始めたら、ピタリと並走するのは至難の業。ときには考える(または必要な情報を待つ)時間を稼ぐことだってあります。経験を積むほど、このつなぎ方が絶妙になってくるので、聞き手は通訳者が考える時間を稼いでいることにする気付かないこともあるでしょう。

CliffNotesのエピソードですが、これは私が東京に引っ越したあと、一時期頻繁に組んでいた女性通訳者の話です。とても上手くて、「東京の通訳者がこんな人ばかりだったら私はとてもやっていけないなあ……」と思ったものです。某コンサル会社の難しい案件のときも、足を組んで余裕で訳していました。些細なことかもしれませんが、同通で足を組みながら訳すって、よほど余裕がないとできないことなんですよ。いまは結婚されてほぼ引退されているようですが。もったいない!