2012年7月4日

満元証、海を渡る。

7月2日に満元証(みつもと あかし)が海を渡ってオーストラリアに通訳修行に行ったらしい。誰やねん、と早くもツッコミが飛んできそうだが、彼は通訳者志望の若者である。沖縄出身。7年前に彼が通っていた高校を通じてインターンシップの依頼があり、県内の某翻訳会社と一緒に引き受けたのが付き合いの始まりだ。とりあえず恥ずかしい写真を先に晒しておこう。

BEFORE: 2005年7月4日、ちょうど7年前の写真。
キザで照れ屋で少し挙動不審だった記憶が。
AFTER: 今の写真。彼女を絶賛募集中らしい。
この写真じゃ無理な気がしないでもないけど。
まあ写真だけ見たらチャラ男だが、実は真面目な好青年である。たぶん。うん、たぶん。

彼は昔から通訳者志望で、たびたび相談に乗っていた。大学を卒業して就職するときも、「本気で通訳者になりたいのなら就職せずに通訳学校へ行って、一年で現場に出るくらいの勢いで勉強しろ」と、今考えたら明らかに無謀なアドバイスをしていたのだが(私ならやるが、社会常識的にはちょっと無理があったかな)、親に心配をかけたくない優しい彼は私のアホなアドバイスをきちんと無視し、会社勤めをしながら通訳学校に通っていたようだ。良識ある息子を持つと親も安心だね。

でも一度就職したし、3年も働いたら通訳は諦めるんじゃないかなと読んでいたら、2011年2月頃だったろうか、まだ通訳者になる夢は捨てていないと言ってきた。松岡修造も真っ青のアツい展開。はい!そこ!諦めたらそこで終了だよ!の世界観をまざまざと見せつけられて彼の本気度を試してみたくなった私は、彼にある課題を与えた。年内に書籍80冊読破(漫画はダメ)。そして読書感想文をブログで公開。要は日本語力の底上げと、批評的思考の習得、インプットとアウトプットの習慣作りが目的の課題です。一番大変なのは継続すること。これを試してみたかった。本を読まない通訳者(翻訳者)はキャリアが始まる前に詰んでますから。

それに対する満元君のやってやりますよ宣言。喧嘩上等的な。

今だから言えることだけど、とても達成できるとは思っていなかった。というのは、年間80冊を読むプロは結構いるけど(読んでない「プロ」もいて、そういう人に限ってあまり食えてないわけだが)、内容がしっかりした感想をブログに書くのは結構な時間と労力を要するので、会社勤めしながら達成するにはかなりのコミットメントが必要だと知っていたからだ。実際、達成するには3ヶ月の期間延長が必要だった。「年内」だから、まあ会計年度という解釈でもいいかな、という軽いノリでOKしちゃった私。

で、見事に2月末に80冊をクリアした満元君。有言実行は男前だね。たまに意味不明なことも書いてあったけど。木陰に身を潜めて全部読んでたよ、一応。

さらに後から知ったのだが、彼は課題をクリアするために会社を辞めたということ。ある意味、彼の人生を狂わせてしまったようで親御さんに申し訳ない気持ちが少しあるのだが、でも彼はそれだけ本気だったということ。満元君、私は参りましたよ。あなたの本気度はガチです。もう疑いません。オーストラリアで修行して立派なウィングバックになり、ラグビー日本代表を救ってください。

最後に真面目な話。私は似たような課題を何人かに与えたことがあるのですが、達成できたのは彼だけです。満元君、よくやった!感動した!でもね、当初は130~150冊を考えていたんだよ、今だから言えるけど。

2012年7月3日

横田謙さんがガンで死去

日本を代表する会議通訳者・外交通訳者である横田謙さんがガンとの闘病の末、7月1日の早朝に亡くなられました。

私は彼と一緒に仕事をする幸運に恵まれることは一度もなかったのですが、彼の仕事ぶりを実際に見る(聴く)機会は何度かありまして、要所は細部にこだわる丁寧な訳、そうでない箇所は時には遊びが入った大胆な意訳をしたりすることもあり、百戦錬磨はやはり違うなあと感心した記憶があります。彼と親しかった通訳仲間によると、横田さんは飾り気のない人で、実直でフレンドリーな方だったとのこと。惜しい人を亡くしました。ご冥福をお祈りいたします。

※ちなみに写真はこちらのインタビュー記事から拝借いたしました。

2012年6月28日

【通訳者インタビュー】 玉城宏彦

2011年3月24日に那覇市内で沖縄の第一世代通訳者である玉城宏彦(たまき ひろひこ)さんにインタビューしました。沖縄が地位協定に基づいて初めて米軍人を裁いたベンジャミン事件(殺人)の法廷通訳を務めた方です。

インタビューには玉城さんと同じく第一世代通訳者である平良正代(たいら まさよ)さんも同席しています。通訳というよりは戦後の沖縄について色々と話していただきました。これはこれで個人的には面白かったです。



玉城さんの御厚意により、当事の新聞記事をスキャンさせていただきました。貴重な史料です!

 ベンジャミン事件の新聞報道

2012年6月27日

カリフォルニア州 法廷通訳ワークショップ

カリフォルニア州モントレーで開催されたInterpretAmericaの第三回大会に参加してきました。本大会が始まる前日に一般公開の法廷通訳ワークショップがあったので、ここに資料と音声を公開します。外部スピーカーで音声出力をアップしないと聴き辛い部分もあるかもですが。



Common Oral Interpreting Exam Performance Deficiencies

Knowledge, Skills and Abilities Essential for Court Interpretation

Court Interpreter Exam Program FAQ (California)

2012年5月26日

機械翻訳で自爆。今度は奈良。

東北観光博HPの誤訳問題について先日報告したばかりなのだが、今度は奈良で自爆事件。
奈良観光、誤訳だらけ…外国語HP一時閉鎖
自動翻訳システム、確認怠り   

東大寺の大仏はミスター・オサラギ?――。奈良市観光協会が今春更新した外国語版のホームページ(HP)に、多くの誤訳があるとの指摘を受け、協会がHPを一時閉鎖していたことがわかった。経費を抑えようと自動翻訳システムを使ったためで、「国際観光都市として恥ずかしい限り」と担当者は平謝り。HPの再開のめどは立っていない。

寺社や伝統工芸などを紹介するHPは3月に模様替え。従来の英語、韓国語、中国語、フランス語のページに、スペイン語、ポルトガル語、ドイツ語、イタリア語のページを追加した。  

この際、1言語で150万円だった翻訳の外部委託をやめて、全部で35万円のインターネットを利用した自動翻訳システムに変え、固有名詞の読み方もあらかじめ登録していなかったことからミスが続出。確認作業も怠っていたという。  

例えば英語では、東大寺の大仏を、姓の「大仏(おさらぎ)」と認識して「Mr.Osaragi」と翻訳。「仏(ほとけ)の慈悲」は「仏」を略語と解釈して「French mercy(フランスの慈悲)」とした。「平城京へ都が遷(うつ)された」との部分は、訳せなかった「遷」の字が英文に混じっていた。  

こうした誤訳は「数え切れないほど」あり、観光ガイドらから「とても外国人に見せられない」との苦情を数十件受けた協会は23日にHPを閉鎖。現在、更新前のHPを公開中だが、担当者は「自動翻訳で内容を更新するには、単語登録しなければならない言葉が多過ぎる」と頭を抱えている。

(2012年5月26日 読売新聞)
機械翻訳のニーズと重要性は私も十分認識していますが、きちんとしたメッセージを発信するにはまだまだ使えません。消費者のみなさん、いい加減に学習しませんか?恥をかいてからでは遅いですよ。

2012年5月22日

タニグチ vs. KPS 最高裁「通訳と翻訳は別物」

このブログで何度か報告しているTaniguchi vs. KPSの事案ですが、ついに判決が出ました。

米最高裁判決文 Taniguchi vs. KPS
The costs that may be awarded to prevailing parties in lawsuits brought in federal court are set forth in 28 U. S. C. §1920. The Court Interpreters Act amendedthat statute to include “compensation of interpreters.”§1920(6); see also §7, 92 Stat. 2044. The question pre- sented in this case is whether “compensation of interpreters” covers the cost of translating documents. Because the ordinary meaning of the word “interpreter” is a person who translates orally from one language to another, we hold that “compensation of interpreters” is limited to the cost of oral translation and does not include the cost of document translation.
実はKPS側もなかなか面白い点を指摘していたのですね。例えば…
Respondent also observes that some translation tasks are not entirely oral or entirely written. Id., at 20–24. One task, called “‘sight translation,’” involves the oral translation of a document.
サイト・トランスレーションは通訳に近い行為なのにtranslation(翻訳)と呼ばれている。だからinterpreter/translatorの厳密な区別は難しいと主張していたのです。確かにこれは一理あって、今となってはなぜsight interpretingと最初から呼ばなかったかが悔やまれるところです。

この判決がどのような影響を与えるのか。NAJITは「通訳と翻訳は別物。きちんと区別しろ」という趣旨の意見書を提出したくらいなので勝利気分なのですが、一部の会員は「いままでtranslationとして貰ってた報酬がなくなっちゃうかもよ・・・」と不安を隠せないようです。どうなるのかはまだ誰にも分かりません。

2012年5月21日

中国系翻訳会社の営業メールが醜い件。

近年は安い労働力(翻訳者)を求めて中国やインドに翻訳をアウトソースする企業が多いのですが、なにせありえない極安レートなので価格だけで勝負すると日本在住の翻訳者には勝ち目がありません。では何で勝負するのなると、やはり訳とカスタマーサービスの質ですよね。私は比較的少数のクライアントと長い付き合いを目指しているのですが、付き合いが長いと私ができること、できないことについて相手に明確な理解があるので話が早いですし、私のクライアントは「翻訳者の顔が見えること」を結構大事にしているようです。

で、中国系翻訳会社の話。毎週のように「うちに外注しませんか」と営業メールがガンガン送られてくるわけですが、検討する以前に営業メールの日本語がひどすぎて笑える。もはやネタとしか思えない。どうせ使うつもりはないけど。いくつか披露しよう。

また、当社ではトライヤルも行っております。 若し宜しければ、何か小さなケースやお手紙でも構いませんので、 トライアルさせて頂きたく存じます。

台湾の会社。 用語統一くらいしとけよ、と。            

弊社は2007年から○×省○×局に登録していた専門の翻訳会社でございます。何年間の経営経験があり、中国国内では沢山の会社と取引があり、翻訳の質を確保しております。中日両国には消費レベルの面で色々な原因による大きな差異を存在しております。つまり比較して言うと、翻訳の値段に於いて中国のほうはより安く決められます。もし御社と言語翻訳について取引の協力関係を結べれば非常に見込のある、また御社にとっても、わが社にとっても大変に有利なものであると存じております。

例えば、御社から中国語に訳す原稿をいただき、当社は翻訳致しておりますが、その値段がとても安いから、御社にとって相変わらず以前からの利益空間をご所有になると同時に中国文翻訳者を常備する費用を無くされることもできると存じております。ご検討いただく価値は十分にあると存じます。経済のグローバル化に伴って双方の協力は更に洋々たる見通しを持つものと確信致しております。

何年間なのかよ(笑) 。それにしても利益空間とは意外に魅力的な言葉だね・・・

弊社としては、お客様の案件により、翻訳はすべて現地のプロフェッショナル翻訳家と提携して行っています、ネイティブならではの自然な文体に仕上げております。 弊社翻訳した事例“中日翻訳の例”を別紙添付にて、ご参考になってください。 お忙しいところお手数をおかけしますが、ご返信のほど宜しくお願いします。

そして送られてきたサンプル翻訳がこれ。まあ安ければこんな感じだよね、という。

昨年○×大学日本語学部で勉強していた時、貴社にメールを送信したことがあります。そのメールの中でただ起業計画を述べたので、貴社の重視をもらわなかったかもしれないと思っております。今年7月に卒業して、○× 有限公司を創立し、日中間のビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)業務に力を注いでおります。本日再び貴社に連絡をいたし、貴社との貴重な提携チャンスを実現させるよう努力したいと思っております。

そもそもそんなメール受信してないし、学生の起業計画なんて読んでどうするのという。VCと勘違いしてるのかね。

中国からのお問い合わせですが、弊社「○×有限公司」は日中・中日の翻訳をメイン業務の一つとして行っている会社であり、IT、農工商ビジネス、新聞記事、特許、契約、雑誌、漫画などいろんな分野に対応しております。仕事のチャンス、業務提携などお願い申し上げます。必ず品質価格ともにご満足いただけるものを差し上げます。 ご連絡いつもお待ちしております。

「仕事のチャンス」って、早くも崖っぷち感があっていいね!

弊社は○×管理局に登録していた専門の翻訳会社でございます。成立したばかりですが、お客様にご満足いただけるサービスを提供できるように全力を尽くして行きたいと思っております。品質は翻訳会社の命ということをしみじみと感じています、こちらは10年以上の経験と専門性を持つプロの翻訳者が対応します、高品質な翻訳サービスの提供を実現しています。

しみじみですか。過去に大失敗して色々と学んだのでしょうねぇ・・・

朝のほととぎすの声に夢を破られ、初夏の爽やかな風を楽しんでいる五月がゆったりとしたペースでめいてきました。貴社ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。先日連絡した○×のAと申しますが、また今日突然の送信を失礼と感じております。 詳しい弊社の業務内容を添付にて送りしますので、ご参考になってください。 お忙しいところを恐縮ですが、ご返信を頂ければ幸いです。

じゃあ送るなよ(笑)。それに朝のほととぎすのくだりはビジネスメールとしては斬新だね・・・

2012年5月10日

イチローから学んだこと。

IR通訳の会社を経営している丹埜段(たんの だん)さんのブログを読んでいてふと思い出したことがあります。8年くらい前にIR通訳でシアトルへ行ったときのこと(IR通訳は専門ではありませんが、たまにやります)。クライアントがシアトル・マリナーズの幹部と知り合いで、オフシーズンということもあり、セーフコ・フィールドの裏側、普通であれば一般人向けの球場ツアーでも見ることができない施設なども目にすることができました。あの頃はスマートフォンがまだ無かったので写真は一枚も撮れず、今では本当に残念に思っている。まあ仕事だからどうせ撮れなかっただろうけど。 室内バッティングケージに来たところでガイド役の球団スタッフがイチローの話を始めた。もうかなり昔のことなので正確には覚えていないのだが、だいたい以下のような感じだったと思う(少なくとも要点は伝わると思う)。
球団スタッフ

ここが室内ケージです。通常の練習でも使われますが、試合前や試合中にスイングの調整をするためにも使われています。今日は日本人の方もおられるようですので、イチロー選手について一つのエピソードを話しましょう。

通常、メジャーリーグのチームはワールドシリーズで優勝でもしない限り、シーズンが終わった翌日にロッカーの片付けをしに球場を訪れます。フリーエージェンシーやトレードで球団に戻ってこない可能性があるのはもちろんですが、やはりオフシーズンが始まると早く気持ちを切り替えて家族と過ごしたり、本国に戻りたいという選手が多いのが理由のようですね。でもね、私はもう20年以上も球団職員をやっているのですが、イチロー選手には本当に驚かされました。

彼は1年目のシーズンでアメリカンリーグMVPという輝かしい成績を残したのにもかかわらず、翌日にはこのケージでじっくり汗を流していたのです。右手だけでバットを持って右へ引っ張るスイング、次は左へ流すスイング。一通り終わったら次は左手で同じことを繰り返す。打撃練習も念入りでしたが、その後にはジムで筋トレもしていました。数時間はいたでしょうか。シーズン終了後、それも終わった翌日に球場を訪れて本格的なトレーニングをする選手は今も昔もイチロー選手しか私は知りません。彼は努力の人なのですね。

通訳者が何を努力するべきかといえば、 実技を磨くための勉強会などもありますが、基本的にはやはり読書でしょう。一人で地道にコツコツと。翻訳・通訳の仕事は知識があってナンボの世界なので、読めば読むほど実力がつく。逆に読んでない人はすぐに分かります。知識は言葉に表れるし、どうやっても隠しようがない。こんなこと書くともう外で人に会えないけど(笑)。でもまあ、翻訳者・通訳者としてもっと上手くなりたければ、とにかく読んで、読んで、読み続けることが一番だと思うのは本当です。イチロー選手でさえオフシーズンの初日からしっかり練習しているのに、読書しない翻訳者・通訳者が上手くなるはずがないですよね。

誰も見ていないところで毎日努力する人が夢を実現する、これはどの世界にも通じることだと思います。というかそうであってほしい!

※ちなみに丹埜さんのブログでSuicaを4枚持つという裏技が紹介されていて、「なるほど!」と思いました。この発想はなかった。

2012年5月2日

TEDお薦め、アート系。

NHKが『スーパープレゼンテーション』という番組を開始しました。厳選したTED動画を紹介する番組です。TEDxOsakaでイケメン歯科医の@sei_nさんと話してたとき、しきりに「TEDが盛り上がり始めている」と言ってたので、数年前からTEDを観ている私は「ずっと前から盛り上がってるけど、どういうことかな。当然、@sei_nさんも昔から観ているはずなのに・・・」と思っていたら、はっと気付いた。日本ではまだこれからなんだと。翻訳の問題もあり、これまではあまり普及してこなかった事実を。

といっても『スーパープレゼンテーション』は週一の番組なので、紹介できる動画も限られてくると思う。そこでプチTEDマニアな私も微力ながらキュレーションしてみようじゃないか。マイペース更新だけど(笑)。おまけに英語コンテンツを翻訳する暇もないけど(TEDが翻訳プラットフォームを改善してくれたらビシバシ翻訳する用意はありますがね・・・)。

とりあえず今回はアート系で!



退屈なパワーポイントより、ダンサーを使った方がメッセージが伝わるんじゃない?という単純明快なプレゼン。地味にマクロ経済の視点もあったりして笑える。



ニコ動的に表現すれば「昔の詩に音楽をつけてみた」でしょうか。私は10000 Maniacs時代からのファンなので紹介しないわけにはいきません。今年6月のサンフランシスコ公演に行きます!



詩の朗読というと中年以上のおじさん&おばさんが薄暗いバーに集まって行う自己満足イベント的な印象を持つ人もいるようですが、実はそうではありません。結構クールです。実は私も中学の頃にPoetry Clubに入って厨二病的な詩を大量生産してました。すみません・・・



紙切り芸もここまで来るともう言葉がでない。いわゆるネ申というやつですね。



iPhone、マウスピース、両手のコントローラーだけで新しい音楽を切り拓く。ビートジャズ誕生の瞬間です!