2013年10月18日

「技術翻訳」の話

ちょっと一休みして「技術翻訳」の話【その1】 ~オフショア開発とご近所付き合い~

筆者が米国ボストンに5年間、駐在していたころ、隣のケンブリッジ市にある大きな翻訳会社に勤務する友人に頼まれ、和訳文のチェックをしていたこと があります。ケンブリッジは、MITとハーバードという理系と文系のトップ大学が、街の東端と西端にそびえる世界有数の学究都市であり(ただし、その中間 は犯罪多発地域)、科学技術や政治経済の分野で世界の優秀な頭脳が集まっています。もちろん、日本からも、大学の研究者、政府や企業から輝かしい肩書をそ ろえたエリートが集結しています。友人によると、そうした優秀な留学生や研究者たちが、お小遣い稼ぎのためなのか、生活費の補填(ほてん)のためなのか、 「自分の高度な知識や技術力を生かして、専門性の高いドキュメントの翻訳をしたい」と翻訳会社に乗り込んでくるそうです。

 優秀な翻訳者は大歓迎なので、「それでは、この英文を日本語に訳してください」と50行ほどの簡単なサンプル専門文書を手渡し(大抵の応募者は、 「え? 試験をするの? 即採用じゃないの?」という顔をするそうです)、数日後に返送された(自信満々の)和訳文を筆者がチェックし、採点していました。これは、翻訳者募集にお けるトライアルで、「お手並み拝見」というわけです。

 実際、応募者が20人いるとすると、10人は「中学校で3年間、国語の授業を1回も受けなかったでしょ?」と疑うくらい日本語能力の低い人たちで す。6人は「書いてある文章の意味は分かりますが、これにお金を払いたくありません」というレベルです。そして、3人は「編集者がしっかりサポートすれ ば、売りものになるかも」という感じで、「このままの訳文で出版できます」という合格レベルは1人しかいない、というのが現状です。
筆者がこの後に言うように、多くの(英日)翻訳者に決定的に欠けているのが、「日本語の文章力」であり、「コミュニケーション能力」だと思います。ただ、下記の主張には同意できません。

翻訳者に求められる英語の読解力は、高校1年生レベルで十分で、中には「中学3年生レベルでよい」という人もいるくらいです。翻訳は、基本的に「日本語との格闘であり、日本語の能力が全て」なのです。
日本語能力が大事なのは間違いありませんが、高校1年生レベルで翻訳はできません。私自身、中学から大学卒業までカナダで教育を受けましたが、英語力が本格的に鍛えられたのは高校3年~大学2年あたりでした。特に大学の最初の2年は朝から晩までリーディングの日々が続くので(どこでもそうだと思いますが)、一気に成長した実感がありました。

というか、そう考えると、やはり読書の質と量がすべてですね。はい。

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