2010年1月31日

n.Fluentに注目。

さて、前回はIBMのWebSphere Translation Serverがイマイチいけてない、という事を記事にしたわけだが、実は本番はここから。CNET JapanのIBMの社内向け翻訳ソフト「n.Fluent」--クラウドソーシングで精度向上図るという記事にもあるように、IBMはかなりの時間とリソースを注ぎ込んで「言葉の壁を乗り越える」という問題に真剣に挑んでいます。

IBMの従業員は現在、文書やウェブページ、さらにインスタントメッセージを英語とそのほか11カ国語の間で瞬時に変換できるテキスト翻訳ソフトウェアを使用している。「n.Fluent」と名付けられたこのソフトウェアは「クラウドソーシング」されている。つまり、170カ国にいる40万人のIBM従業員によってテストされている。

IBM従業員がn.Fluentを使用すると、同ソフトウェアは自らの間違いから学習して、性能を向上させる。IBM全社でn.Fluentを活用することが可能で、IBM社内のボランティアは翻訳された各単語の精度を高める作業を行う。2009年夏のわずか2週間の間に、ボランティアたちは約130万語を処理した。これは1日当たり約10万語に相当する。全体的にみると、n.Fluentはこれまで、IBM従業員のために4000万語以上を翻訳している。

この「自らの間違いから学習して、性能を向上させる」という部分のプロセスが分かりにくいのだが、毎日10万語の新エントリーは凄い。それも業務の内容に集中した訳文ばかりだろうから、精度アップも半端ないと思います。IBMは近い将来、このシステムを企業向けに販売していくつもりなのでしょう。グローバルに展開している大企業は大きなメリットが見込めそうです。こちらの記事も参考になります

IBM believes the technology will be particularly useful for companies that produce a large amount of support content, such as technical manuals. These tend to be dynamic, as new bug fixes are found or updates added, and they also need to be accessible to a multi-lingual customer.

Rapid, accurate translation of such literature published online can deflect calls from call centers, and bring significant savings.

Googleのような華やかな企業の取り組みに関心が集まりがちですが、地味なIBMのこれからの動向にも注目したいです。

2010年1月30日

WebSphere Translation Server - イマイチです。

機械翻訳といえば、最近はGoogle翻訳がなにかと話題になっていますが、IBMは結構昔からこの分野で研究をしています。数理言語や自然言語処理の分野では30年以上も前からパイオニア的研究をしていますし、生まれたてのGoogleがまだピヨピヨ言ってる10年前には独自の機械翻訳システムを作成していました。それがWebSphere Translation Serverです。で、どんだけ使えるのかというと、


はい、ヤフーニュースのヘッドラインです。これをWebSphere Translation Serverにかけたらこうなった↓


正直、精度的にはまだまだ道は長そうです。けれどIBMは積極的にクラウドソーシングを通じての取り組みにより、システムの精度を上げてきているようですので、これからに期待です。IBMの最高技術責任者もCNNに「独自の機械翻訳システムを本格的に商用化するつもり」と語ったようですしね。

WebSphere Translation Server

2010年1月29日

音楽を聴きながら作業をする人に。


私は普段、国会中継をBGMとして聴きながら(あのダラダラ感がなぜかフィットしている)作業をしているのですが、音楽を聴きながら、という時もあります。というか、そういう翻訳者は私だけではないと思います。これまではインターネットラジオだったり、iTunesの音楽をシャッフルして聴いていたりしたのですが、Youtubeが最近、自分の好きな音楽を集めてWeb上でプレイリストを作成・編集・保存ができるというサービスを公開しました。

まず好きなアーティストの名前を入力すると、そのアーティストの曲はもちろん、似たようなタイプのアーティストの音楽も自動的にリストに追加されます。それらの曲を全てキープするもよし、削除するもよし。検索を続けてプレイリストに曲をどんどん追加する事も可能です。名前を付けてリストを保存しておけば、いつでもアクセスが可能です。もしかしたら24時間連続再生とかもできるのかも(まだ試していないのですが)。

シンプルですが、使い勝手が良さそうなツールです。

YouTube - Music Discovery Project

2010年1月27日

異なる機械翻訳のモデル

A Crash Course in Machine Translationがシンプルながら要点をついて説明をしている。

Babelfishに代表される規則に基づく翻訳モデルはもう40年以上研究が続いているわけだが、いまだにその精度の低さははっきりと分かるし、言葉が進化している限りこれから続けていってもあまり意味がないのでは?と個人的にはあまり将来に希望が見えない。グーグルに代表される統計に基づく翻訳モデルは一部かなり筋が良いのだが、別の意味でとんちんかんな訳出をする事も少なくない。面白いのは、これはあまり知られていないのだが、グーグルも翻訳事業を立ち上げた時はBabelfishと同様、SYSTRANのシステムを利用していたという事。マイクロソフトは両方の良いとこ取りを狙っているが、最終的にはどちらも中途半端で終わりそうな予感(個人的意見。バルマー時代のマイクロソフトは優柔不断・中途半端が顕著なので…)。

それにしても、翻訳システム向上のために国連から2000億ワードの資料提供を受けたって、グーグルはやる事が半端じゃないね!

2010年1月25日

長時間座りっぱなしだと病気にかかりやすい…知ってるよ(笑)

いまさらな感じもするが、米国心臓協会が「長時間座りっぱなしだと病気にかかりやすい」という研究結果を発表した。
米国心臓協会(American Heart Association)の雑誌『Circulation』(2010年1月19日号)では、テレビやPCの前に長時間座り込んでいる人は、筋肉が活動しない状態が続き、これが健康を害すると述べています。

スウェーデンのある研究データでも、一日中座り込んでいると病気のリスクが高まることが明らかになっており、1時間テレビを観ると心臓血管系の病気で死亡するリスクが18%、ガンで亡くなるリスクが9%も高くなるとか。テレビと心臓血管系の病気との間には肥満も関係しているようです。

まあ私は最近、ニュースやドキュメンタリー以外はほとんどテレビを観なくなったのだが、結局はUstreamやTwitterで費やす時間が増えたので、+/-はゼロ、いや、前よりひどくなったかもしれない。けれど多くの翻訳者を悩ませる腱鞘炎とか腰痛とかは全く縁がない。やはり通訳で現場に出て動いてる時間が多いし、作業場でも結構頻繁に体を伸ばしたり、柔軟体操をしている事が多いからかもしれない(といっても特に健康を意識しているわけではなく、単にサボりたいだけ)。でもさすがに年齢を重ねていくと故障も増えてくるだろうから、これからはもっと意識して動かなければと思っている。

2010年1月24日

中国政府、言葉で文化圏拡大を狙う?

New York TimesのForeign Languages Fade in Class — Except Chineseを読んだ。ざっくりまとめれば、過去10年で何千もの公立校が外国語の授業を廃止してきたが、最近では中国語に限っては教える学校が増加している、と。なぜか?中国政府が教師を派遣して、おまけに給与も一部負担しているようなのだ。派遣先は米国に限らず、世界各国との事。タダで先生を与えられたら、それは学校としては飛びつくでしょうね。資金が豊富な学校なんて少ないですから。

Some schools are paying for Chinese classes on their own, but hundreds are getting some help. The Chinese government is sending teachers from China to schools all over the world — and paying part of their salaries.

At a time of tight budgets, many American schools are finding that offer too good to refuse.

正直、やっぱり思想統制に力を入れている中国だけあって、文化圏拡大のグローバル戦略も大胆かつ緻密だなあと思いました。全てはまずは言葉から、という強いメッセージを感じます。幼い頃から中国語を学ぶという事は、必然的に中国文化もなんらかの形で学ぶ事になるわけで、それを何年も続ければ、必ずしも中国LOVEとはいかないまでも、中国の文化や思想に一定の理解を示す人間として成長していくわけです。プログラムが順調に広がっていけば、20年後は親中の若者の数が圧倒的に増加している事でしょう。

このプログラムの評価は別として、日本も国家としてもっと文化普及に力を入れていかなければならないと思います。近年では外務省のバックアップもあり、漫画や「カワイイ」文化を通して世界中の若者に日本についてもっと知ってもらおうと取り組んでいるようですが、規模的にはまだまだ小さい。コンテンツは素晴らしいのですから、ぜひとも頑張って欲しいものです。そして私たち翻訳者・通訳者もそのお手伝いをしていかなければなりません。

2010年1月23日

3outubeでYouTube動画をお手軽ダウンロード


日本でYouTube動画をダウンロードするには、私は機能的に優れているCraving Explorerをダウンロードしているのですが(音声も保存できるし、ニコニコ動画も対応)、最近は3outubeなる半分冗談みたいなWebサービスが無料で公開されています。使い方はシンプル。ダウンロードしたいYouTube動画の元ページへ行き、URLのyoutubeを3outubeに換えるだけ。たった一文字だけなんですね。

ダウンロードファイルのフォーマットは、MP4かFLVから選ぶことができます。まあ最近では標準ですから、特に問題はないと。 問題があるとしたら、このサービスの提供者はYouTubeとは全く関係ないので、諸事情でいつサービス中止になっても特に文句はいえない、くらいでしょうか(まあ一つ潰れても、サービス自体が便利でニーズがあれば、似たようなサービスがすぐ立ち上がるのが今のIT業界のトレンドですが)。通訳教材などにも手軽に使えるので、ぜひお試しあれ。

3outube

2010年1月22日

笑える字幕。

Conan O'BrienとNBCのゴタゴタも一先ず決着がついたわけですが、YouTubeでは騒動を面白おかしく描いた動画などがいまだにアップされており、増え続けています。そんなわけで、こちらは台湾のTV局が放送した物をユーザが英訳をつけてアップした動画。まあ努力は認めますが…ははは。



Conan O'BrienをMr. Cocoとか、fecal matterとか(中国語は分からないので想像なのですが、おそらくbullshitとかshit hit the fanみたいな感じだと思います)、「本当は音声認識の機械翻訳なのでは?」と思わずにはいられないツッコミどころ満載の字幕ですね!

2010年1月21日

ハイチでボランティア通訳が必要!

NAJITを通じて以下のボランティア募集メールが届いているのだが、残念ながら日本語通訳者の私はお呼びでないらしい。国が一瞬にして消えるような大惨事だから、可能であればボランティアも考えてみようと思っていたのだが。基本的にクレオール語ができないと意味がないようで。支援できる方は連絡ください。

Volunteer Interpreters and Translators needed for the Haiti Relief Effort

By now we are all painfully aware of the situation in Haiti following the devastating earthquake last week. The National Association of Judiciary Interpreters and Translators andthe American Red Cross are seeking Haitian Creole and French interpreters and translators to assist in this time of great need.

Interpreters are needed for two types of assignments - either at the American Red Cross Headquarters in Washington DC (immediate need) or on the hospital ship USNS Comfort off the coast of Haiti (anticipated future need).

Immediate Need

The American Red Cross wishes to identify and recruit a Haitian Creole and French interpreter and translator to work at its National Headquarters Office in Washington for periods of between one to three weeks. The volunteer will support the International Services Department (ISD) in response to the earthquake in Haiti by sharing information with Haitian Creole speakers in the United States, translating documents from various ISD offices and/or American Red Cross chapters around the country, may be called upon to record messages in Haitian Creole or respond to inquiries from Haitian Creole speakers by telephone or in writing. The qualifications for this assignment are below:

VOLUNTEER POSITION DESCRIPTION

International Services Department/ International Humanitarian Law and Chapter Support

Location
2025 E Street NW; 3rd Floor; Washington, DC 20006

Position Title
Haitian Creole Translator/Interpreter

Purpose
Support International Services Department (ISD) in response to the earthquake in Haiti by sharing information with Haitian Creole speakers in the United States. The writer will translate documents from various ISD offices and/or American Red Cross chapters around the country. May be called upon to record messages in Haitian Creole or to respond to inquiries from Haitian Creole speakers by telephone or in writing.

Key Responsibilities
* Willingness to support Red Cross Mission
* Translate written information into Haitian Creole
* Respond to inquiries from Haitian Creole speakers

Qualifications
§ At least three (3) years of demonstrated experience as a professional translator and/or interpreter
§ Excellent writing, good interpersonal and some cross-cultural communication skills and experience.
* Advanced use of Microsoft Office for word processing.

Training
* Orientation to American Red Cross

Reports to or Partners with
* ISD/ International Communications Department

Length of Appointment
* Open

Time Commitment
* 20 - 40 hours a week -- flexible

2010年1月20日

テクノロジーと教育格差について。

今期の基礎通訳コースの開幕戦に、ジェフ・カナダ(Geoff Canada)のTED講演を使ったのだが、素晴らしい内容なのでここでも紹介したい。正直、私もこれを観るまではITについては結構ナイーブな思考を持っていて、「テクノロジーの進歩は教育格差さえも解決するはず」と考えていたのですが、実際はかなり深刻な問題のようです。ただカナダの学校での取り組みは素晴らしいもので、小さいサンプルサイズではありますが、黒人と白人の子供の学力差を完全に埋めた(!)という実績は賞賛に値するものです。



実は私も翻訳・通訳教育に関わるにあり、テクノロジーの有効な活用法に常に悩んでいます。使いたいWebサービスは結構あるのですが、生徒全般のITリテラシーに適した利用法でないと全く意味がありません。SNSに全く興味を示さない人にツイッターをやろうと言っても無理な話です。でも本当に「できる」翻訳者・通訳者は、ITを使い倒している人が多い。情報が武器の職業なので、情報を使いこなすスキルを有する人間が勝つのは当然の話です。

特にITリテラシーが内地と比較して低い(と私は感じる)沖縄で翻訳・通訳を教えるという事は、ある意味ではITについて教えるという部分もあります。基本的な検索技術と情報収集の方法とか。そういう意味では、デジタルデバイドをどうやって埋めていくかも、教える人間として私は勉強しなければいけないのかもしれません。

2010年1月19日

クリス・ファーリーの日本語パロディ

先日、YouTubeをウロウロしていたら、故クリス・ファーリーの動画を発見した。日本のクイズ番組をパロディ化した、Japanese Quiz Showと言うなかなかよく出来た作品だ。

個人的には4:07あたり、アレック・ボールドウィンが「とーんでもございません」と指を詰める所にかなり笑ってしまう。パロディだし、脚本は結構テキトーに書かれている様だが、外国人が日本のクイズ番組を観たら、やはりこのようなパロディを製作したくなるくらいツッコミ所が満載なのだろうかと思わずにはいられない。例えば日本人が昔の韓国映画やテレビドラマを観て、あまりの強引な設定と何の脈絡もないシーンの切り替え等にツッコミたくなったような感じなのだろうか(今では凄いクオリティだが!)。

2010年1月18日

新人翻訳者に文芸翻訳デビューのチャンスを。

Boston Translationの記事によると、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のダルキーアーカイブ・プレスは2010年1月(今月!)から、新人翻訳者に文芸翻訳デビューのチャンスを与えるプログラムをスタートするようです。

応募者の中から10名が選ばれ、1年間の集中プログラムに参加します。翻訳技術はあってもデビューのチャンスになかなか恵まれない新人翻訳者をターゲットにしたプログラムですが、競争率は高くなる模様で、高いスキルが求められるのは言うまでもありません。日本に限らず、文芸翻訳は(誤解を恐れずに言えば)技術よりもコネがモノを言う世界なので、十分なスキルがあっても10年以上デビューできないなんて事は少なくありません。その中でこういうプログラムが立ち上げられた事は朗報ですし、日本の出版社も同じような事ができないかなと期待もしています。

The program is intended for translators who are at a point in their careers where they are ready to undertake professional translation work but do not know where to go next, and especially for those who need a flexible schedule because of geographical limitations and other commitments.

太字の部分にもあるように、もしかすると日本に居ながら応募する事も可能かもしれません。

まあでもアマゾンのキンドルをはじめ、電子書籍の普及とそれに伴う自費出版のハードル撤廃が現実となれば、文芸翻訳もずっと参入が容易になるのではと予想していたりもします。米アマゾンは電子書籍の自費出版において、著者の印税率70%を発表していますし、これをきっかけに文芸翻訳業界も再編されるのではないでしょうか。

2010年1月17日

ブログのお引越しです。

沖縄に移住して10年が経ちます。これを機会に、5年前からマイペースで運営してきた沖縄翻訳ノート沖縄通訳トークを一つに統合して再出発する事にしました。作成当時はいわゆる地域ブログが流行していたので地域集中型サービスを利用してきたのですが、様々な管理・運用の問題から、安定性・利便性を求めてグーグル傘下のBloggerにお引越しを決めた次第です。

いわゆる「ゼロ年代」が幕を閉じ、個人的には未だ総括ができていない部分があるのですが、この10年で翻訳者の仕事環境は確実に大きく変化しました。今やインターネットを効率的に利用できなければクライアントが求める質・スピードで翻訳はできませんし、常に新しい情報を吸収する準備と習慣がなければ通訳者として第一線を張り続ける事は難しいです。特にウェブのリアルタイム化が2010年の大きな流れと叫ばれている今、情報を武器に仕事をしている人間として、自分自身が情報を発信するメディアとその形態・連携について再考を迫られています。私自身、まだ試行錯誤の段階ですが、今後は今まで以上にソーシャルメディアや新しいIT技術を上手く活用して情報を発信していこうと強く感じています。逆にそれができない翻訳者・通訳者は遅れをとっていくのではないか、とも考えています。

これからまた10年、地道に努力を重ねて、読者の皆さんと一緒に成長していけたら嬉しいです。宜しくお願いいたします。


関根マイク
スマック翻訳事務所