2012年一発目の仕事は1月5日~6日。大阪高等裁判所で法廷通訳研修の講師を務めてきました。年末年始は想定外の仕事が入ったのであまりゆっくりする機会がなかったのですが、教える側として呼ばれるのはいつでも光栄なことですし、まあ1月の第一週に開催される国際会議なんて無いですし、民間の仕事もさすがにまだ早いですしね。
最後の総括の時間では空気的に(笑)あまり喋る時間がなかったので、話したかったことをまとめておきます。一部は模擬裁判の時にも話しましたが、非常に重要なことなのでもう一度。
1.時制の扱いに注意
法廷通訳に限らず、通訳において時間の表現は非常に重要です。特に裁判ではいつ何をしたか、いつ何を思ったか/決意したか(殺意がいつ芽生えたか)などが争点に影響を及ぼすケースが多々あるので、ここを間違えるとコミュニケーションにズレが発生する可能性が高い。日本人通訳者には①なんでも進行形(...ing)にしてしまう病と、②過去形、特に過去完了形の扱いが雑な人が多いので(ちなみに仮定過去完了の表現を自由に使いこなす日本人通訳者を私はあまり見たことがありません)、この機会にもう一度復習することを勧めます。
2.Would を避けるな
これも日本人通訳者にかなり多いケースです。おそらくwouldの意味や使い方をしっかり勉強していないので、現場では絶対に使わない、というか避けている。身についていない知識を使わないのは、ある意味正解なのですが(笑)、プロとして通訳するのであれば知っていて当たり前のこと。少なくとも講師の私には避けているのがバレバレでしたし、通訳現場でもwouldを使わないと不自然な表現になるケースは結構あるものです。もう一度復習を!
3.言葉の差異に敏感になろう
ディスカッションでも盛り上がりましたが、hit と strike はどう違うのか、 push him against the wall と press him against the wall は何が異なるのか、このような言葉・表現の差異にもっと敏感にならなければならないと思います。時間的制約があるので細かい表現等についての講評はあまりしませんでしたが、本当はもっとツッコミたかった。受講者の通訳を聞いて、「うーん、意味の違いをよく理解してないのかなあ」と感じる点が結構あったからです。その中にはどちらを取っても広い意味ではOK、少なくとも誤訳とは言えない、というものも多かったのですが、肝心なのはそこではなくて、意味の幅の違いを体感的に理解しているかということです。この理解がないと、通訳者としてあまり成長しないので。まあ最終的にはいつもの結論→「もっと本を読め!」ってオチなのですが。
4.定型部分は暗記しよう
今回はフォローアップセミナーということで、受講生は基本的に法廷通訳の経験者か、未経験者の方でも民間での通訳経験が豊富な方に限って選ばれたと耳にしています。それでも黙秘権や控訴関係の告知など、事前にちょっと調べていれば誰でも分かる部分に苦労していた人がいたのには驚きました。というか、『法廷通訳ハンドブック』に全文掲載されていますが。丸暗記してください(まあハンドブックにもビミョーな部分はあるのですが、それについてはまたの機会に)。
これは法廷通訳に限る話ではないのですが、通訳の質は事前準備の質・量で半分以上決まると言っても過言ではありません。そして今は情報が溢れている世の中ですので、トピックについて事前にある程度調べていない人はプロとしての資質が疑われます。知らないことは決して恥ずかしいことではありませんが、今回の研修のように明らかに出ると予測できるもので、ちょっと検索すれば誰でも分かることを知らないことはかなり恥ずかしいことであるという認識を持ってほしいです。
長々と書きましたが、今回大暴れしたので、大阪に呼ばれることはもうないでしょうから(笑)、それで許してください。まあ通訳者は現場でボコボコになって育つものだと私は考えていますので、その意味では貴重な経験を積んだと好意的に解釈してくださいな!
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