2023年5月29日

Up Rising Tokyo

5月25日の前日記者会見から28日の決勝まで、スケートボードの新しい国際大会であるUp Rising Tokyoで同時通訳を担当してきました。ここ数年、特に力を入れているのがスポーツ分野です。もちろんスケートボードも守備範囲内です。学生の頃から深夜のESPNでX-Gamesを観てました!今回は通訳者としてどのような準備をしたかを書こうかなと。スポーツイベントで通訳者がどう動くべきか、一つのヒントになれば良いと思います。

■5月25日(前日記者会見)

大きなスポーツイベントになると、有力選手(チームスポーツの場合は監督などのケースもある)が前日記者会見に応じることが度々あります。競技前なので細かい技術的な話はなく、どちらかといえば大会に向けての意気込みとか、海外から参加している選手に対しては「日本の第一印象はどうですか?」というような典型的な質問が多め。Up Rising Tokyoは新しい大会なので、他の大会と比較してどう思いますか?というような質問も容易に想像できます(実際に、全部でてきた)。

このあたりは一定の経験がある通訳者であれば余裕だと思いますが、問題は歴史系の質問です。ここでいう歴史とは、①大会の歴史、②競技・スポーツの歴史、③選手自身や他の選手との関係性の歴史などがあります。

①Up Rising Tokyoは新しい大会なので大きな心配はなかったのですが、②は範囲が広いので難しい。触ってはおきたいけれどあまり多くの時間は割けないので、このようなスケボーの歴史ページをいくつか読み、世界各地のメジャーな大会の名称などを確認。③はとても大事。関係性を事前に理解していないと、同時通訳では脳内処理が一瞬遅れるだけで話者からかなり遅れてしまいます。前日記者会見にイショッド・ウェア選手と堀米雄斗選手が参加すると案内されてから、私はすぐにウェア選手と堀米選手の直近の成績と、両選手が一緒にエントリーした大会について検索しました。ちなみに大型スポーツイベントでは写真のような選手情報がメディアに配布されるのですが、超便利なので初日に一部もらっておくべきです。報道取材要領もある場合は入手するべき。大会の注目点、注目選手、レギュレーションなどが記載されているからです。

スポーツ案件は事前資料がないのが普通なので、自力で色々調べなければなりません。ヤマをはって外れることも多いですが、今回は当たり!大会アドバイザーのライアン・クレメンツ氏が「80年代~90年代の競技シーンはアメリカ勢が支配的、2000年代はブラジル勢が台頭し、2010年代、特にここ4~5年は日本勢の活躍が目覚ましい」と発言していたのですが、事前にどこかの記事で同じ内容を読んでいた私は同通ブースの中で心のガッツポーズです。早口の方だったので、事前に読んでいなければとても苦労したことでしょう。

こちらのコース説明のページにも感謝です。この日はコースに立って特徴を説明する逐次通訳も発生したのですが、会場内の音楽が予想以上に大音量で聞き取りが困難に。事前に予習していなければ何度も聞き返す事態になっていたことでしょう。

■5月26日(準々決勝)

準々決勝、準決勝、決勝と3日もあるのだから、のんびり観戦しているだろうと思う読者もいるかもですが、実際はそんなに楽しむ余裕はありません。競技の早い段階で各選手の技を確認する必要があります。私がスケボーを楽しんでいたのは90年代前半で、当然その頃とは比べ物にならないくらい技は進化していますので……

一応、イベントに先立つトリックの予習としては、nollieskateboarding.com の動画を視聴、用語集にも目を通し、あとはYouTubeのSLS動画など競技動画を観まくりです。特に大会一週間前くらいからは他の仕事の電車移動中もずっと観ていた気がします。文字通り、詰め込み教育。


■5月27日(準決勝)

準決勝後の記者会見にはコルダノ・ラッセル選手(USA)とシェイ・サンディフォード選手(CAN)が参加すると案内された時点で、各選手の順位を確認。このあたりの文脈は質問を予想する上でとても大事。8位のラッセル選手は決勝進出確定なので、おそらく今日のパフォーマンスと印象と決勝に向けての抱負を聞かれるだろうし、サンディフォード選手は18位で敗退決定なので、おそらく本大会に参加した意味とか、大会の今後をどう考える?系の質問だろうと予測できます。大穴としては、サンディフォード選手は今大会に出店しているアパレルブランド Wind and Sea と契約しているので、その絡みで今後の日本での活動などを聞かれるのかな、と想定していました。業界では「通訳は準備が8割」と言われますが、ある程度質問を予想できていれば本番は結構スムーズに進みます。もう脳内でシミュレーションが済んでいますから。

ただ、現場にサプライズはつきもの。選手リストではラッセル選手は米国の選手と書いてあったので、それを鵜呑みにしていたら、会見では「僕は米国とカナダと二重国籍で、シェイとは同じカナダ代表のメンバーなんだ」と発言。え??自分の聞き間違いかな?と一瞬戸惑ったのですが、両選手が笑顔でハイファイブする姿を見て、すぐに発言通りに訳しました。

■5月28日(決勝)

決勝はYouTubeのRed Bull Skateboardingチャンネルで生配信されていたので、私は会場にいたけれど基本的にバックヤードで配信の解説を聞いていました。コースだと音楽やPAシステムがうるさ過ぎるというのもあるのですが、配信は複数角度のリプレイと一緒にきちんと技の解説をしてくれるので、とても助かります。誰が優勝しても勝利を決定づけたトリックについては100%聞かれるので……


最後の最後で大技をメイクして優勝した堀米選手。私は今回、同時通訳の契約だったのですが、実は諸事情により優勝後の堀米選手の逐次通訳も担当しました。写真では堀米選手の奥にいます(ぼやけているけど)。


このミックスゾーンでの記者会見ですが、The Japan Timesの記事が私の訳をそのまま使ってくれました!堀米選手の発言を同通した以下の部分です。

"I think competitions are very easy to understand. A lot of people were attending and they came to see the top pros in the world, and it's great to see that," said Horigome, who won the men's competition with a dramatic final run. "But I don't think the competition side tells the entire story. I want to do more to really bring out the street culture and get everyone to understand what the culture is all about and how fun skateboarding is."

普通は読みやすさのために編集を加えるのですが、そのまま使えるクオリティと判断されたのはとても嬉しい!

P.S. 以前からYouTubeで視聴していたLuis Moraさんも会場で発見。動画も公開されていました。ホントに奥さんと仲が良いのが微笑ましい。

2023年5月5日

Apex Legends

 


ゲームに強い通訳者として売り出し始めてから15年(?)近くになりますが、これまでは関わってきたゲームについてほとんど書いてきませんでした。発売/リリース前の情報は別として、一度世に出たゲームについては語れることが結構あるし、ゲーム自体のPRにもなるので本来はもっと書くべきなのですが、なぜかこれまでは放置してきました。本業が忙しくてこのブログも年に数回更新の残念な感じになってしまっているので、再起をかけて今年からはぼちぼち発表していこうと思います。

まずはApex Legends、大人気のマルチプレイヤー、バトルロワイヤル系のゲームです。記憶が正しければシーズン9(Legacy: 英雄の軌跡)からほぼ全部の日本向け公式配信イベントを担当しているのですが、実は私はバトロワ系が大の苦手で(主にソロ中心ゲーマー)、この仕事を始めるまではほぼ遊んだことがなかった。ほぼ、というのは、試しに遊び始めてもキャラの扱い方を学ぶ前に徹底的にボコられるので、長く続けるモチベがなかったのです。反射神経がモノをいうゲームで、おじさんは若者には勝てません。

そんなわけで、他のゲームの場合は実際にゲームを遊ぶことが予習の一部になっているのですが、Apexの場合はYouTubeの配信動画がメインになっています。ゲームには固有の専門用語が存在しますが、それを知っていると通訳もスムーズに進むし、「こいつはわかってる」感が確実に出ます。たとえば「漁夫る(third partying)」が良い例。

新シーズンの内容を発表する生配信イベントはだいたい日本時間の早朝が多いです。おそらくリーク防止の観点から情報も直前にしか出ず、それも必要最低限なので、日本語の公式訳を知らないまま同通することが多い。S16の「大狂宴(REVELRY)」は、辞書で確認したら「どんちゃん騒ぎ、陽気な酒盛り、お祭り騒ぎ」などが並んでおり、シーズン名としてはどれもダサすぎるなと思ったのでそのままRevelryと訳出した記憶がある。なんにしても、通訳者は与えられた情報と環境でベストを尽くしているので、このあたりはできれば大目に・・・

他の人気ゲームもそうだが、開発陣は各レジェンド(キャラクター)の設定を高度につくりこんでいる。S17の新レジェンド、バリスティックが参戦する経緯も興味深い。個人的には、設定がしっかりしているから感情移入がしやすくなるのだろうなと思います。



ちなみに公式による生配信イベントの同通以外にも、各メディアとのインタビューも逐次通訳しています。たとえばこちらのファミ通さんの記事で、開発との質疑の部分は記事用に編集されてはいますが、私が通訳した内容がベースになっています。

2023年1月30日

English Journal休刊&今年について

過去にいろいろお世話になったEnglish Journalですが、月刊誌は休刊し、今後はEnglish Journal Onlineとして活動していくようです。残念。最終号の「どうなる?英語の未来」特集では、同時通訳の未来について執筆させていただきました(通訳業界の代表みたいな感じになって申し訳ないのですが)。 ChatGPIやAI通訳の台頭で「人間の通訳者、もう必要ないんじゃない?」と言われているようですが、ちゃんと①勉強して技術を維持・向上していて、②適切な活動分野で稼働していれば大丈夫じゃないかな、というのが私の印象です。

アルクさんからは本を2冊も出版させてもらったので感謝、感謝です。

ENGLISH JOURNAL (イングリッシュジャーナル) 2023年1月号

ちなみに2023年はスイスのCAS(スポーツ仲裁裁判所、下の写真)でスタートしました。私のスポーツ知識x法務経験をとても評価してくれているエージェントと法律事務所があり、とてもお世話になっています。好きなスポーツだから仕事も楽しい。いろんな人に言ってますが、私はキャリア的にもう仕事を選ぶフェーズに入ってきているので、好きなスポーツやゲーム、得意な法務などを中心に活動して、やる気が出ない分野の仕事は他の通訳者に譲っていきます。

今年はすでにシンガポール、タイ、ドイツ、アメリカが決定していて、コロナ前の状態とはいかないけれど、海外出張も徐々に正常化しつつあるような感じです。夏にはJACIで欧州ワークショップツアーをやるか!みたいな案(あくまで案)もあるので、期待せずに待っていてください。

『現場視点の通訳教本』(仮題)ですが、一応のろのろ進んでます。いやー、本業をこなしながらの書下ろしは辛い。時間がない。あっても仕事しすぎて眠い(笑)。でも僕が通訳者を志したときに読みたかったけど存在しなかった、建前なしのガチ現場視点で語る本にしたいので、妥協はできません。いま市場に出ているどの通訳教本よりも具体的でわかりやすい内容にしたいなあと思っています。っていうか、本当にできるんだろうか・・・

あと、今年こそはブログをきちんと更新していきたいなあと。こんな全然更新してないブログでも、期待している読者がいるようなので。

【2月3日追記】EJの記事、もうネットで一般公開されてた。仕事が早いね!ちなみにこれを書いてから減量どころか若干増量したよ!

2022年6月15日

甲子園優勝監督になりました。ある意味。

2021年の振り返りと新年の抱負について1月に書こうと思っていたのだけど、安定の放置で6月になってしまいました。で、なぜいま書いているかというと、
2021年の冬(1月~3月)に主宰した英語通訳塾の受講生からついに同時通訳グランプリ優勝者が出たからです。日本が誇るバンタム級王者が井上尚弥なのであれば、アトム級王者は間違いなく上妻つぐみでしょう。「次はメイウェザーじゃ!」って言ってたし。言ってないか。

英語通訳塾はコロナ禍での実験的試みで、単純に①一定の英語力があって、②通訳を専門的に学びたいけれど、③カネがない若手を短期間で集中的に教えたらどこまで伸びるか僕自身が検証したかったのが大きな理由です。僕自身暇だったので……と言いたいところだけど、予想に反して結構仕事が戻ってきたので、途中からかなりハードなスケジュールになりすぎて死にそうでした。帯状疱疹にもなったよ、今だから言えるけど。ははは。

実は上妻さんは入塾した時点から自然と声の使い方が印象的でした。最初は逐次も同時も情報の取りこぼしが多すぎて全然できなかったけれど、かぎかっこ話法を教えたあたりから「自分の声」を発見したのか、とても表現力に磨きがかかり、プログラム後半は少し余裕もでてきて、短時間であれば同時通訳のスピードにもついていけるようになっていました。思えばこの塾では声を有効に活用することで「訳を立体的に」しようと何かにつけて教えていた気がしますが、上妻さんはそれを一番よくできていたと思います。

まあでも正直、僕が教えなくても彼女は遅かれ早かれ通訳者としての自分のスタイルを発見していたと思います。なのでグランプリ優勝後、NHKが取材にきたら「上妻はオレが育てた」と豪語するつもりでしたが、それもできません。残念。

通訳塾では普通のスクールでは絶対にやらないような、「どうせ最初は同通スピードについていけないだろうけど、とりあえず荒波に揉まれて泳ぎ方を覚えよう、生きるために」的な教授法というかノープランな感じで、3週目くらいから全員同通ブースに入って頑張ってました。個人的にはスカーがムファサを崖から蹴落とすイメージがあって、「ライオンキング教授法」と呼んでます。みんな本当によく頑張りました。

去年のファイナリストである西原念さんや、今年のファイナリストになった村山咲希さんも最初は全然ダメだったのですが、やはり若さゆえ吸収が早いし、教えたことを素直に実践していたので、すぐに結果が出なかったとしても、何度もブース内でボコボコにされればそのうち何かのきっかけで開花するだろうと思っていました。またしてもノープランな放置プレイです。でも場慣れって大事なんですよね。初めて自転車に乗る時のように、経験を通して直観的に覚えることが多いのですよ、通訳って。特に村山さんは極度の緊張しぃだったので、とにかく経験を重ねることが彼女にとっては重要でした。小さな成功体験を積み上げていかないと緊張がとけることはないので。また来年、ラストイヤーですが再挑戦してほしいです。というか出場資格があるなら全員出ようよ。ホントに。

グランプリ決勝の翌日に祝勝会を開催。残念ながらファイナリストにはなれなかったけれど、参加したメンバーについて簡単に紹介します。

写真でピースをしているのは大島さん。塾を通して不器用な自分に向き合えたようで、確実に成長しました。プログラム後半の同通セッションでは、「これホントに大島さん??」と思うようなゾーンに入った瞬間があって、セッションMVPを獲得。今後もそのひらめき?と努力を大事にしてほしいものです。上妻さんと村山さんに花を買ってくる優しい&配慮できる人です。

写真の一番左にいるのは栗原さん。マイペースな性格ゆえに同通のスピードには最後まで対応に苦労していたようですが、内容をしっかり理解したときはとても正確で流麗な訳出をしていました(僕自身、その訳にうっとりしたのを覚えています)。最近、職場で1時間の逐次をしっかりやりとげたとか。爆速成長というわけではないけれど、経験を積んでいけば、間違いなくもっと上手くなります。今後に期待。長く聞いていられる素敵な声だし。

西原さん(去年書いた)、村山さんをパスして一番右にいるのが満元さん。僕が沖縄に住んでいた高校時代から知っているので、本当に夢をあきらめずに通訳者になったんだ……と思うと感慨深いです。あまりイケメン男子が増えると僕の肩身が狭くなるので困るのですが、いずれは彼のような有能な通訳者が現場の主役になっていくのでしょう。まだ粗削りな部分はありますが、最初は誰でもそんなもの。粗い部分はきちんと認識した上で、自己改善を繰り返す努力が求められます。今でも結構上手いですが、もっと上手くなりますよ。今の満元さんの想像を超える上手さに。

他の受講生についても語りたいけれど、ちゃんと会ってからにしておきます。12人全員、家族のようなものだから、何かあったらいつでも連絡してください。土地の権利書以外は支援できると思います。

ちなみにフランスから来日した王者・上妻さんに「エスプリに溢れる土産をよろしく」とお願いしたらお茶をもらった。友達に聞いたらすごいお茶らしい。でも僕自身にエスプリがないのでその凄さがよくわからない。美味しいけど。美味しいからいいか。


で、最後に。グランプリ王者を輩出してしまったからにはまた通訳塾を再開しなきゃならないのかな。たぶん来年1月~3月あたりにまたやろうかと。検討します。いま日英通訳の教科書(現場仕込みの技術論)を執筆するべく準備中なので、最終的にはそっちを優先するかもしれませんが。

2021年10月10日

『通訳の仕事 始め方・続け方』発売です。

 


一般社団法人 日本会議通訳者協会(JACI)がイカロス出版株式会社の『通訳翻訳ジャーナル』編集部とタッグを組んで編集した渾身の作品が10月8日に発売されました。JACIとして初めての出版物なので、JACIサイドの統括として夏休み返上で頑張りましたよ、もう。本業+日本通訳翻訳フォーラムの運営+新著の編集・執筆で7月と8月は吹っ飛んでいきました。というか9月も中旬まで何かやってたんじゃないかな。

本作では僕がわがままを言って、巻末に付録動画を付けてもらいました。トータルで5~6時間くらいのコンテンツです。個人的にはこの手の本はニッチゆえにバカ売れするようなものではないので、本そのもの+αみたいなものが必要だと最初から考えていて、今回は動画という形でそれをお届けします。ちなみにいま用意している私の次回作も動画コンテンツを豊富に盛り込むつもりで、他にも「コンテンツの立体化」を実現するためにいろいろ仕掛けていこうかなと。普通のことやってても面白くないですしね。

2021年8月14日

スポーツクライミングとの縁。

東京五輪、なんだかんだで観てました。スポーツ好きなので。政府は一度やると腹をくくったからには、2020年にNBANHLが採用したようなガッチガチのバブルを作って誰も文句を言えないような感染対策をしてほしいと思っていましたが……

さて、今回はスポーツクライミングの話です。私が大学一年のとき、同じ学生寮に住んでいたクライミング好きの先輩に一目惚れして、「共通項を持たねば!」と考えたのが始まりです。恋の方はあっさり終わったのですが、大学近くのクライミングジムにはしばらく通い続け、友人とブリティッシュコロンビア州北部のクライミングスポットで週末を過ごしたりと、それなりに楽しみました。日本に戻ってからは仕事が忙しくてやめてしまい、太った今は5.7すら完登できるか怪しいところです。

そんな私ですが、昨年、東京五輪におけるスポーツクライミングの代表選手選考に関する国際仲裁案件に通訳者として関わっていました。この件はニュースになっていたのでご存じの読者もいるかもしれません。これも何かの縁でしょうか。

一定の競技レベルでスポーツをしたことがある人はわかると思いますが、代表(またはチームメンバー)に選ばれないこと、特に事前案内された選考規則や選考会スケジュールに基づいて準備をしてきたのに後からそれが変わって代表への道が断たれるのは言葉にできない辛さがあると思います。4年に一度の国際大会であればなおさらのこと。事前に提供された数百ページもの資料を読みながら、「これは仲裁廷がどのような判断をしても夢が消えてしまう選手が生まれるので、どうやっても遺恨が残りそうだな……」と思いながら準備したのを覚えています。

で、その結果がこちら。国内競技連盟であるJMSCAの主張は通りませんでした。

夢破れた選手を思うと、代表内定のニュースを手放しで喜べなかったのですが、本選での野口選手と野中選手の銀・銅フィニッシュを観て悶々としていた何かが吹っ飛びました。特にこの大会で引退を決めていた野口選手のリードでの踏ん張り、あれは本当にすごい。五輪に批判的な意見が多いのは理解していますが、アスリートは与えられた舞台で最高のパフォーマンスを披露するのが仕事であり、少なくとも私はその姿に勇気づけられました。

私の五輪関係の仕事はこのように表に出ないものばかりだったのですが、一人の元アスリートとして、何かを極めようとする姿にはいつも元気をもらいます。3年後のパリも楽しみにしています!

あ、スポーツクライミングは単純に面白いですよ。観ていると腕力が必要なイメージを持つかもしれませんが、実際は下半身の力とボディバランスの方が大事です。もっとファンが増えてほしい!

2021年6月28日

英語通訳塾&同時通訳グランプリの振り返り。

年明けから3か月、比較的ステルスモードで若手を対象に通訳を教えていました。真面目に課題をこなして勉強すれば授業料は免除というシステムで、なんとか全員(12人)無事に修了しました。受講生が学びをまとめたブログはこちらから。

プログラム自体は3月末に終わったので、もっと前にブログに書けたのですが、実は受講要件の一つが「2021年のJACI同時通訳グランプリにエントリーすること」だったので、途中でごちゃごちゃ言うよりグランプリの最終結果が出るまで沈黙しておこうかなと思っていました。で、先日その結果が出ました。当塾からは西原念さんが社会人部門のファイナリストに選ばれましたが、惜しくも本選での入賞はならず。あー、残念です。甲子園出場校の監督ってこんな気持ちなんだろうなあ。やはり自分が教えた人には成功してほしいものですよ。

西原さんは正直、1月上旬の時点ではそこまで際立った特徴はなかったのですが、2月中旬くらいからめきめきと腕を上げて、最終的には受講生の中で一番の成長度を記録したと思います。そもそも受講生は全員スタート地点が異なるのですが、一番伸びたと思ったのが西原さんというわけです。受講生の中にはもっと安定的に訳出できる高度な技術を持っている人もいましたが、こういうものは結局、結果がすべて。強いやつが勝つのではなく、勝ったやつが強い。その意味では、西原さんがファイナリストに残ったのは間違いなく通訳が上手かったから。来年もぜひ挑戦してリベンジしてほしいです。

他の受講生はというと……提出したファイルが壊れていたり、音が入っていなかったり(または小さすぎて聞こえなかったり)、指定の時間までに送信できていなかったり、通訳以外の部分でつまづいた人も結構いたようです。実にもったいない。来年のエントリーは義務ではないですが、再挑戦してほしいですね。少なくとも私はウォッチしてますよ。目標があれば人は強くなれますから!

同時通訳グランプリについてですが、私は通訳塾をやって受講生を大会に送り込んでいた関係上、今年は運営にほとんど関わっていませんでした。当日のロジのお手伝いは少ししましたが、審査関係の業務は当然なし。つまりほぼオブザーバーだったのですが、社会人部門で神田雅晴さんが優勝したのは感慨深かったですね。彼は第1回から毎回参加していて、過去にはJACIの夏合宿に参加したこともあります。話すたびに、「通訳が上手くなりたい!」という気持ちが伝わってきて、こういう姿勢をもった若手がもっと育ってくれれば業界も安泰だなあと思っていました。優勝者スピーチにも気持ちがこもっていて、うるっときた人もいたはずです。

学生部門準グランプリの渡部美樹さんには2020年2月(コロナ直前)にモントレーで初めて会ったのですが、その時はまだ同通練習を始めたばかりのようで、言葉には自信より戸惑いが感じられました。それが1年半で急成長!本当にWowの一言しかありません。

最後に。本大会は小野陽子理事のリーダーシップがなければ成立しなかった大会です。講演者、審査員、参加者などの関係者と個別に調整し、当日のフローを組んで、大会をほぼ円滑に実施したことはとてもすごいことだと思います。小野理事は謙虚なのであまり表に出ませんし、発言もしませんが、間近で彼女の仕事ぶりを目にしている私は尊敬&感謝しかありません。通訳業界は小野陽子さんがいて本当にラッキーです。

これを読んでいる皆さんは小野理事にあったら「グランプリ、ありがとう!」と言ってやってください。とっても喜ぶはずです!

2021年5月17日

帰ってきた日本通訳翻訳フォーラム

今年もやります!

日本通訳翻訳フォーラム2021

コロナで多くの通訳者・翻訳者が不安を抱えていた昨年夏、どうせなら業界初のスケールで祭りをぶちかまして元気だそうや、というほぼノリでスタートした同企画ですが、今年も開催する運びとなりました。

コロナの本格的な感染拡大が始まってからこの夏で約1年半。多くの業界人がいわゆるニューノーマルに慣れて落ち着き始めていますが、IJETなどの大型業界イベントはまだ復活しないようなので、今年も翻訳サイドを巻き込んで豪華な講演者をずらりと並べました。明らかにやりすぎた昨年よりは若干規模縮小ですが、それでも毎日開催になりそうです。十人十色管理人の井口富美子さんの紹介で、翻訳サイドの講演者にはビッグネームが並んでいます。すごいね、この厚み!

通訳サイドは海外講演者の数を増やしました。遠隔時代の環境設定や通訳報酬の考え方などタイムリーなトピックはもちろん、演技のスキルを訳に活かすという楽しみなトピックも。日本ではこういう内容で講演してくれる人があまりいないのですよね。あまり演じすぎるスタイルだと先輩通訳者に怒られるなんてことを耳にしたことがありますが、ホントかな。

まだいろいろ考えながらブッキング中ですが、最終的なセッション数は40~42あたりでしょうか。マイペースで頑張ります。

2021年4月9日

EJ連載終了&『なる本』でJACI会員が大暴れ

■English Journalで6年連載させてもらった「通訳の現場から~ブースの中の懲りない面々」が2021年3月号をもって終了しました。というか、このエントリーは2月上旬に書き始めたのだけど、本業やら通訳塾やら原稿執筆やら昼寝やらプレステやらで、気が付いたら4月になってしまっていた。時間が経つのは早いですね。

それにしてもこの連載、長かった。6年なんて連載期間としては普通なのかもしれませんが(知らんけど)、継続的にコツコツやるのが苦手な私にはとても長く感じられました。もともとは居酒屋で自慢できる通訳・言語ネタをちょこっと紹介するくらいの勢いだったのですが、ここから初の著書が生まれ、すぐに2冊目につながり、新たな友人やパートナーもできました。プラスしかなかったですね。

で、次のフェーズは何かというと、ちょっと充電してから英語通訳の教科書を書いてみようかなと考えています。構想はかなり固まっています。いま市場に出回っている通訳教本は具体例に乏しいというのが私の印象で、もっと今風というか、音声素材などをフルに活用していろんなバージョンの訳文を提示し、各訳文について何をどう考えてそう訳したか、などを説明するような構成を考えています。まあ、結構時間がかかりそうですが。紙媒体よりもウェブベースの方がいいのかな。

■さて、イカロス出版さんから毎年発売されている『通訳者・翻訳者になる本』(通称『なる本』)の2022年版でJACI会員が大暴れしています。巻頭の通訳者インタビューはエンタメ通訳者の今井美穂子さん。僕らの業界ではPerson of the Yearみたいなこのコーナー、JACIの認定会員が選ばれるのはとても光栄なことです。

これに加えて、JACIが企画協力した「通訳・翻訳の新常識」コーナーでは、小野陽子理事、古賀ともこ会員、山本みどり会員が遠隔時代のニューノーマルについていろいろ発言しています。JACIは一般社団法人化してからさらに組織力が増してきていて、活動の幅も広がっています。

あと2年もしたら僕がいなくても、というか僕がいない方がうまく回るような組織になっていくのかしら。それはそれで楽しみです。

2020年12月2日

メディア活動いろいろ。

もう12月ですね。2020年はずっと自分自身と他の通訳者のコロナ対応支援に忙しくて、時間ができたようで実はあまりなかったような気がします。よく考えると、2月に『通訳というおしごと』を発表して、感染拡大が本格化する前にカリフォルニアに出張、3月~4月は自分の遠隔環境を整えながらJACIの遠隔イベントを40件ほど実施、8月は1日も休まずに日本通訳翻訳フォーラム2020を開催しました。9月からの繁忙期は全然期待していなかったけれど意外に仕事が戻ってきました。いや、過去に取引があった顧客が戻ってきたというよりは、新規の顧客が増えました。なぜなのか私もまだ説明できませんが、この秋は昨年以上に忙しかったかもしれません。ありがたや。でも遠隔は正直飽きたので、現場に出たいですね。

■11月25日に発売された『通訳翻訳ジャーナル』冬号で日本通訳翻訳フォーラム2020のインタビューが掲載されています。白倉淳一理事と一緒です。業界史上初の超お祭り企画がどのように生まれたかを語りました。本号にはJACI会員のブラッドリー純子さん、巽美穂さん、岩瀬和美理事、袖川裕美さんも登場しています。

いま振り返ると、結構大胆な企画をほぼ勢いでやってしまったなあという感じです。ただ、協会側で舞台設定をしたら後は講演者が素晴らしい講演内容で参加者を唸らせてくれたので、そのあたりは講演者の一人ひとりに感謝です。来年のフォーラムをどうするかはまだ決めていませんが、コロナの感染拡大はまだ続いているので、劇的に状況が変わらなければまた完全遠隔になってしまうのかな、という感じもします。いずれにせよ、来年もやる予定なのでよろしく。

■English Journalの12月号にも顔を出しています(私だけではないですが)。巻頭特集で2020年を表す言葉を選んでほしいと依頼されたので、testicular fortitude...ではなくsocial justiceを選びました。コロナ関係の言葉が多い中、個人的にはコロナという一つの現象が強調した様々な社会問題が印象に残ったからです。BLMはその代表ですが、これ以外にも貧富の差だったり、マイノリティ差別だったり。

加えて、実は私は米国最高裁判所のファンなのですが(マニアまではいかない)、弁護士時代から社会正義の諸問題に鋭く切り込んできたルース・ベイダー・ギンズバーグ判事が死去したのも大きいです。リベラル寄りの彼女のあとに任命されたのはゴリゴリ保守派のエイミー・バレット判事で、今後しばらくは最高裁の保守寄りが避けられないでしょう。

『通訳の現場から』連載も続いています……が、次のフェーズに移行するため、今期で終了します。まあネタ切れで無様な姿を見せる前に引いた方が良いというのもありますが。

■英国翻訳通訳協会(ITI)が発行するITI Bulletinの2020年11月・12月号にもフォーラムに関する記事が掲載されています。海外でも31日連続のイベントは前代未聞らしいですね。この企画は業界が誇る「歌って踊れる翻訳者」の杉本優さんにインタビューされたものです。あ、正確には「歌って」の部分は聴いたことがないのでわからないけれど、サルサの腕前はセミプロ級だと聞いているので踊れることは確かです。というか、トレッドミルにノートPCを取り付けて、講演を視聴しながら走るくらいアクティブな方です。

■11月に開催された日本翻訳連盟のJTF Online Weeksに当協会のFri McWilliams理事が講演者として参加しました。私も理事代表として応援メッセージ?的なものを出しています。今後こういう「顔出し」の業務が増えるのであれば、本格的に減量してヒョンビンになる計画を遂行しなきゃなあと思う今日この頃。

ちなみに2021年は年初から通訳講座を開催します。試験的な企画なのでこれ1回で終わるかもしれませんが、ガチで教えるつもりです。まあ3か月で一人前の通訳者が育てられるわけがないのですが、進むべき方向性とか、自己修正の仕方とかはしっかり教えられるのかなと。それだけで結構成長できると思っていますから。