2019年3月21日

【執筆後記4】一言の重み

このcheap/affordableは駆け出しがやりがちなミスだというのは、あとになって通訳学校で教えている友人から聞きました。別にこれに限る話ではないですが、学校で真面目に勉強している方々は数学的アプローチで通訳を習得しようとしているというか、とにかくA=Bのように定訳をつけたがるのですね。それはそれで頭の筋トレとして大事かもしれませんが、現場ではもっと柔軟な対応が必要になります。私の場合、特に逐次通訳では、繰り返される同じ表現に対して多少変化をつけたバージョンの訳をいくつか出し、聞き手や隣のパートナー通訳者(いる場合)の反応を確認しながら一つに絞っていくこともあります。経験を積めば積むほど、現場にいながら微調整ができるようになってくるのではないでしょうか。

一言の重みでいえば、ここで紹介しているヘルシンキの記者会見のように、ワードを一つ言わないことで大問題になることもあります。取締役会に呼ばれたのに会長の名前をフルネームで言えず(つまり基本的な準備不足)、その場でクビになった若手通訳者もいます。私も目の前でパートナーがクビになったのを見たことがありますが、メンタルに大ダメージでしょうね……

私の場合、昔は変なプライドが邪魔していましたが、今はわからないことがあれば積極的にパートナーさんに聞くようにしています。タイミングが許せばクライアントにも聞きます。プロとしてのプライドや誇りは持つべきですが、プロだからといってすべてを知っているわけではないので、わからないことは素直に教えを乞う謙虚な姿勢を忘れたくはないですね。


0 件のコメント: