2012年3月31日

【英国発】法廷通訳人のボイコットで開廷できませんの巻

先日の大阪シンポでもチラっと話したのですが、とりあえずはこちらの記事を。

Court chaos follows interpreter change

そろそろ歯医者の時間だから読んでる暇はありません、という方に向けて経過をまとめると・・・

従来、イギリスとウェールズではNational Register(全国登録制度)に登録していた法廷通訳人を採用していた。

政府は法廷通訳業務をApplied Language Solutions (ALS)に外注。
ALS「年間6000万ポンドかかっていた通訳費を3分の一カットできます。してみせます!」

登録者2300人の6割がボイコット
「ふざけんじゃねーよ、そんな理不尽な報酬カットのめるはずねーだろ」

2月にALSのサービスが開始してから各地の裁判所で以下のようなことが。
①開廷しても通訳人がいないので何もできずに閉廷(公判延期)
②なぜか指定言語とは違う言語を喋る通訳人が来たものの何もできずに閉廷
③通訳人は来たものの、技能的に難があるため誤訳連発

政府「こりゃダメだ。とりあえず各裁判所は独自の裁量で通訳人を手配してください」
ALS「新サービスへの移行期にトラブルは付き物です。大丈夫だからもう少しご辛抱を!」
通訳人「ALSざまあwww」←イマココ

どれくらいの報酬カットかというと、従来はまず85ポンドの保証があり、3時間を超えた分は15分ごとに一定レートで追加報酬が支払われていました。これに交通費と諸経費分も支払われていました。ALSの新基準では交通費・諸経費無し、85ポンドの保証金も廃止、完全時給制にして通訳人の技能や資格に応じて一定レートを支払うとしています(16、20、22ポンドの3段階)。

最高額の22ポンドでも時給2800円程度。従来のレートも比較的低いのに、この新レートはどう考えてもプロレベルの通訳者が受け入れられるようなものではありません。集団ボイコットは当然の流れでしょう。

で、裁判所はどれくらいひどいことになってるの?

Manchester Crown Court Judge Martin Steiger QC slammed ALS as ‘very unsatisfying’ – hitting out after the sentencing of a sex offender from India was postponed twice when interpreters for the agency failed to turn up. He was so outraged he said he had considered putting the firm in the dock for contempt.

Judge Steiger said there had been no way to contact the interpreters who failed to attend the two previous hearings and ALS had not been able to explain their absence. The sentencing went ahead on the third attempt, when an interpreter attended.

A trial at Leeds Crown Court had to be called off and rescheduled because no one was available to translate for the Czech defendant, with the judge slamming the cost of rescheduling the case.

Solicitor Robert Moussalli, a lawyer with 20 years' experience from Manchester firm Burton Copeland, said he was ‘unimpressed’ by some of the replacement interpreters sent by the agency. ALS denies sending untrained agents to court – and says all its translators undergo rigorous tests.

Justice minister Crispin Blunt told MPs last week there were ‘unacceptable delays’ with the contract.

裁判官にもストレートに批判されたALSですが、社長は楽観的です。

Boss of court translation firm Applied Language Solutions hits back after judges blast service

弁護士のJohn Storerはこんな批判記事も書いてます。

Language Problem: The controversy over the court interpreters contract

ここぞとばかりに法廷通訳人の仕事ぶりなどがメディアでも取り上げられています。

Violent clients, traumatised victims, late payment - the life of a court interpreter

そしてこのALSですが、実はロンドン五輪の翻訳・通訳業務について独占契約を獲得しているのです。国の威信をかけてオリンピックにこんな会社を使っていいのかね・・・

2012年3月30日

つーほんニュース 3/30

TCA駐日代表・吉村章 「聞き返し」できるのがよい通訳

実は「聞き返し」は通訳者にとっては厄介なもの。というのは、聞き過ぎたらそれはそれで「この通訳者、ホントに大丈夫なの?」と思われてしまうからだ。通訳者としては、単に資料を貰えてないので内容がまったく分からないだけかもしれないのだが。まあ、メモととってない通訳者は問題外ですけどね。

川崎なぜ? 通訳困らせる英語会見

川崎選手としては、単に英語で答えるこどで自分の気持ちをストレートに伝えたいだけかもしれないけどね。僕は彼みたいな人を通訳するの、好きですよ。感情が溢れる言葉って訳すのが難しいけど、訳しててワクワクしてきますからね!

篠沢教授が難病と闘いながら翻訳本

姿を目にするのはクイズダービー以来だけど、難病と闘いながらまだ頑張っているようです。発症後も親指だけでタイピングして何冊も出版する執念というか、情熱というか、素直に尊敬します。

 パピレス、App Store や Kindle Store で漫画を英訳して販売

今はハークレインに牛耳られているApp Storeの漫画コンテンツですが(笑)、今後はもっと色々な漫画へのアクセスが増えてくるといいですね。個人的には横山『三国志』と手塚『火の鳥』をさっさと電子化してほしいです!定価で買います!

 エンターテインメントの現場! 映像翻訳の裏側に潜入

「多チャンネル化やネット配信など、媒体自体が増えているので、吹替も字幕も、翻訳家の需要は増えていると思います。ただし、実力重視の世界なのでそんなに甘くはありませんが」というのはワケアリ発言で、確かに翻訳対象になるコンテンツの絶対量は増加傾向にあるかもしれないけど、ここでいう実力主義は価格力も含めた実力なんですよね。つまり、いくら腕があってもレートが高ければ仕事はこない。そもそもテレビ字幕なんて予算があまりないし・・・

2012年3月13日

つーほんニュース 3/13

TCA駐日代表・吉村章 ビジネス通訳はプロに

吉村氏は控えめに書いているが、旅行社の(またはフリーの)ガイド通訳で、ビジネス通訳もできる人はかなり少ない。もちろん中にはできる人もいるだろう。ただ、ガイド通訳を専門的にやっている人でビジネス通訳もできそうな実力を持ってる人に私は会ったことがないし、通訳仲間からそういう話を聞いたこともない。これは決して偶然ではないと思う。


TCA駐日代表・吉村章 相手の通訳にご用心

「基本的に相手の通訳は相手の立場で発言する。シビアな折衝であればあるほど、相手の通訳は相手の立場で物事を考え、そして相手の立場で発言する。これは、実は「当たり前」のことだが改めて心得ておきたい。つまり、相手の通訳は自分の「敵」と考えるべきなのである」

これホントです。民間の商談通訳では、通訳者は通訳だけでなく、コンサル的要素も求められるのですよ。相手の通訳者に全部任せて、後で全然話が違ったなんてことがないように、ね。


自分の声と顔で26か国語を話す通訳アバター技術、マイクロソフトがデモ

2008年だったろうか、CNNの選挙番組でワイクリフ・ジョンがホログラム出演したのを観たとき、「これが通訳の未来だな」と思いました(残念ながら画像が見つからない)。映像技術自体は以前からあったのだけど、通訳者の声をかぶせて高い精度でマッチングする技術が足りなかったのかもしれない。ただ、これも時間の問題だと思う。10年後には通訳者の移動時間が劇的に減っていてもおかしくない。


聴覚障害者:「手話通訳者、増員を」訴え 豊岡で支援集会 /兵庫

これを読んで、昔のテレビドラマ『愛していると言ってくれ』を思い出した。主人公は聴覚障害者のため、電話が鳴ると赤いサイレンが点灯するしかけがあった。防災サイレンの音が聞こえない人に対しても、何らかの通知の仕組みが必要ですね。まあ全体的に充実しているのが一番なんですが。

2012年3月3日

つーほんニュース 3/3

インド企業と共同でマンガ翻訳事業開始

翻訳およびDTP作業など主な作業はインドにて行い、日本または米国で品質確認を行うとのこと。最近はちょっとアレな翻訳でも読めればいいや的な空気が世界的に広がっているのですが(特にエンタメ関係)、それを前提にしたビジネスということだと思います。


音声翻訳のVocreが無料化, 23言語をサポート

発表は“フリーミアム”と言っているが、本誌がVocreに確認したところによると、一般消費者向けには単純に無料だ。そして今後提供する企業向けのソリューションは、何段階かの有料制にする。たとえば複数の国をまたぐ電話会議などには便利だし、通訳を雇うより安上がりになるだろう。

フリーミアムモデルの有料部分を企業が支えて、一般の個人ユーザーは全部無料というのが最近増えてきている形ですね。エバーノートもさっさと企業スポンサーをつけて全機能を個人ユーザーに開放してくださいよ、と勝手に考えてみたり。


急加速に関する米CNN報道は「著しく不正確」=トヨタ

トヨタの急加速問題は2011年に一応の決着(シロ)が着いているのだが、メディアバトルはまだ終わっていない。トヨタにとってイメージ回復は大事ですからね。今回はCNNの一連の報道に対して「お前、誤訳に基づいて偏向報道すんなよ」という鋭い左フック。こちらから原文と訳文をすべて読めますが、一番大きいのは「勝手に」を "sudden unintended acceleration" と訳したことでしょうか。

2012年3月1日

つーほんニュース 3/1

翻訳センター<2483>、通訳・翻訳などのアイ・エス・エスを子会社化

「独立系翻訳大手の翻訳センター<2483>は、通訳・翻訳・国際会議企画運営等ののアイ・エス・エスの株式取得につき、基本合意を行ったと発表した(教育・コンサル業界のM&A)」との発表。翻訳センターもいよいよ通訳業に本腰というところでしょうか。


アルク 第16回映像翻訳コンテスト開催

今回から「英語字幕部門」(日英翻訳)が新設されたようです。日本の情報を海外に発信するのは良いことだと思いますが、ぜひとも価格破壊だけは勘弁を…(笑)。英日から逃げ出した私ですが、日英からも撤退する羽目にはなりたくありません(といっても、日英も半分引退してる感じなんだが)。締切日は2012年4月16日(月)で、結果発表は2012年6月15日(金)です。


ネットで対面通訳サービス、大垣市


実はネットを活用した対面通訳サービスは、あらゆる通訳分野において今後10年以内に主流になっていくのではないかと私は読んでいます。というのは、通訳ビジネスにおいてコスト的に一番大きいのは人件費(通訳者に支払う報酬)なのですが、交通費や宿泊費もバカにならないのです。「現場で通訳するのが一番。話者の体温や場の空気から細かいニュアンスを感じとって伝えられるから」というのは現実には通訳者だけに通じるロジックであって、マーケットには理解されないでしょう。


医療通訳:県、来年度から本格始動 派遣と電話で対応 /愛知

具体的なシステムはわからないけど、「大学や医師会などと医療通訳システム推進協議会を設立したり、市町村などと連携」できているのは大きいのではないかな。電話通訳についても、日本ではあまりポピュラーではないのだけど、もっと活用されるべきだと個人的には思います。


手話通訳派遣却下は違憲/高松の女性、市を提訴
 訴状によると、女性は2011年6月、長女(18)が進学を希望する東京の専門学校での保護者説明会に出席するため、市に手話通訳派遣を申請。派遣先が東京であることや、客観的な重要性が乏しいことなどを理由に、同7月に却下され、不服申し立てについても同10月に却下された。

具体的な内容がわからないので踏み込んだコメントはできないが、これが違憲と判断されたら他のコミュニティ通訳事業に多大な影響が及ぶことは間違いない。


NHN Japan、13ヵ国語に対応した無料翻訳アプリを公開

一部機能はオフラインでも使用可能らしいので、地味に便利そう。こういうアプリは使いやすさが命なんですよね。いくら情報が詰まってても、使い勝手が悪ければ放置プレイ確実ですから。


外国人受刑者の心情把握を 翻訳・通訳体制強化へ

先の李受刑者の脱獄騒動を受けての対策なのだが、そもそも刑務所に中国語を喋る職員が一人もいなかったってどういうことなの・・・


Lionbridge and Moxie Software Announce Partnership to Accelerate Global Enterprise Social Interactions With Real-time Translation

リアルタイム翻訳の流れは止まりません・・・というかグングン加速中です。まあプレスリリースなのでかなり盛ってある話もあるのですがね。