2022年6月15日

甲子園優勝監督になりました。ある意味。

2021年の振り返りと新年の抱負について1月に書こうと思っていたのだけど、安定の放置で6月になってしまいました。で、なぜいま書いているかというと、
2021年の冬(1月~3月)に主宰した英語通訳塾の受講生からついに同時通訳グランプリ優勝者が出たからです。日本が誇るバンタム級王者が井上尚弥なのであれば、アトム級王者は間違いなく上妻つぐみでしょう。「次はメイウェザーじゃ!」って言ってたし。言ってないか。

英語通訳塾はコロナ禍での実験的試みで、単純に①一定の英語力があって、②通訳を専門的に学びたいけれど、③カネがない若手を短期間で集中的に教えたらどこまで伸びるか僕自身が検証したかったのが大きな理由です。僕自身暇だったので……と言いたいところだけど、予想に反して結構仕事が戻ってきたので、途中からかなりハードなスケジュールになりすぎて死にそうでした。帯状疱疹にもなったよ、今だから言えるけど。ははは。

実は上妻さんは入塾した時点から自然と声の使い方が印象的でした。最初は逐次も同時も情報の取りこぼしが多すぎて全然できなかったけれど、かぎかっこ話法を教えたあたりから「自分の声」を発見したのか、とても表現力に磨きがかかり、プログラム後半は少し余裕もでてきて、短時間であれば同時通訳のスピードにもついていけるようになっていました。思えばこの塾では声を有効に活用することで「訳を立体的に」しようと何かにつけて教えていた気がしますが、上妻さんはそれを一番よくできていたと思います。

まあでも正直、僕が教えなくても彼女は遅かれ早かれ通訳者としての自分のスタイルを発見していたと思います。なのでグランプリ優勝後、NHKが取材にきたら「上妻はオレが育てた」と豪語するつもりでしたが、それもできません。残念。

通訳塾では普通のスクールでは絶対にやらないような、「どうせ最初は同通スピードについていけないだろうけど、とりあえず荒波に揉まれて泳ぎ方を覚えよう、生きるために」的な教授法というかノープランな感じで、3週目くらいから全員同通ブースに入って頑張ってました。個人的にはスカーがムファサを崖から蹴落とすイメージがあって、「ライオンキング教授法」と呼んでます。みんな本当によく頑張りました。

去年のファイナリストである西原念さんや、今年のファイナリストになった村山咲希さんも最初は全然ダメだったのですが、やはり若さゆえ吸収が早いし、教えたことを素直に実践していたので、すぐに結果が出なかったとしても、何度もブース内でボコボコにされればそのうち何かのきっかけで開花するだろうと思っていました。またしてもノープランな放置プレイです。でも場慣れって大事なんですよね。初めて自転車に乗る時のように、経験を通して直観的に覚えることが多いのですよ、通訳って。特に村山さんは極度の緊張しぃだったので、とにかく経験を重ねることが彼女にとっては重要でした。小さな成功体験を積み上げていかないと緊張がとけることはないので。また来年、ラストイヤーですが再挑戦してほしいです。というか出場資格があるなら全員出ようよ。ホントに。

グランプリ決勝の翌日に祝勝会を開催。残念ながらファイナリストにはなれなかったけれど、参加したメンバーについて簡単に紹介します。

写真でピースをしているのは大島さん。塾を通して不器用な自分に向き合えたようで、確実に成長しました。プログラム後半の同通セッションでは、「これホントに大島さん??」と思うようなゾーンに入った瞬間があって、セッションMVPを獲得。今後もそのひらめき?と努力を大事にしてほしいものです。上妻さんと村山さんに花を買ってくる優しい&配慮できる人です。

写真の一番左にいるのは栗原さん。マイペースな性格ゆえに同通のスピードには最後まで対応に苦労していたようですが、内容をしっかり理解したときはとても正確で流麗な訳出をしていました(僕自身、その訳にうっとりしたのを覚えています)。最近、職場で1時間の逐次をしっかりやりとげたとか。爆速成長というわけではないけれど、経験を積んでいけば、間違いなくもっと上手くなります。今後に期待。長く聞いていられる素敵な声だし。

西原さん(去年書いた)、村山さんをパスして一番右にいるのが満元さん。僕が沖縄に住んでいた高校時代から知っているので、本当に夢をあきらめずに通訳者になったんだ……と思うと感慨深いです。あまりイケメン男子が増えると僕の肩身が狭くなるので困るのですが、いずれは彼のような有能な通訳者が現場の主役になっていくのでしょう。まだ粗削りな部分はありますが、最初は誰でもそんなもの。粗い部分はきちんと認識した上で、自己改善を繰り返す努力が求められます。今でも結構上手いですが、もっと上手くなりますよ。今の満元さんの想像を超える上手さに。

他の受講生についても語りたいけれど、ちゃんと会ってからにしておきます。12人全員、家族のようなものだから、何かあったらいつでも連絡してください。土地の権利書以外は支援できると思います。

ちなみにフランスから来日した王者・上妻さんに「エスプリに溢れる土産をよろしく」とお願いしたらお茶をもらった。友達に聞いたらすごいお茶らしい。でも僕自身にエスプリがないのでその凄さがよくわからない。美味しいけど。美味しいからいいか。


で、最後に。グランプリ王者を輩出してしまったからにはまた通訳塾を再開しなきゃならないのかな。たぶん来年1月~3月あたりにまたやろうかと。検討します。いま日英通訳の教科書(現場仕込みの技術論)を執筆するべく準備中なので、最終的にはそっちを優先するかもしれませんが。

2021年10月10日

『通訳の仕事 始め方・続け方』発売です。

 


一般社団法人 日本会議通訳者協会(JACI)がイカロス出版株式会社の『通訳翻訳ジャーナル』編集部とタッグを組んで編集した渾身の作品が10月8日に発売されました。JACIとして初めての出版物なので、JACIサイドの統括として夏休み返上で頑張りましたよ、もう。本業+日本通訳翻訳フォーラムの運営+新著の編集・執筆で7月と8月は吹っ飛んでいきました。というか9月も中旬まで何かやってたんじゃないかな。

本作では僕がわがままを言って、巻末に付録動画を付けてもらいました。トータルで5~6時間くらいのコンテンツです。個人的にはこの手の本はニッチゆえにバカ売れするようなものではないので、本そのもの+αみたいなものが必要だと最初から考えていて、今回は動画という形でそれをお届けします。ちなみにいま用意している私の次回作も動画コンテンツを豊富に盛り込むつもりで、他にも「コンテンツの立体化」を実現するためにいろいろ仕掛けていこうかなと。普通のことやってても面白くないですしね。

2021年8月14日

スポーツクライミングとの縁。

東京五輪、なんだかんだで観てました。スポーツ好きなので。政府は一度やると腹をくくったからには、2020年にNBANHLが採用したようなガッチガチのバブルを作って誰も文句を言えないような感染対策をしてほしいと思っていましたが……

さて、今回はスポーツクライミングの話です。私が大学一年のとき、同じ学生寮に住んでいたクライミング好きの先輩に一目惚れして、「共通項を持たねば!」と考えたのが始まりです。恋の方はあっさり終わったのですが、大学近くのクライミングジムにはしばらく通い続け、友人とブリティッシュコロンビア州北部のクライミングスポットで週末を過ごしたりと、それなりに楽しみました。日本に戻ってからは仕事が忙しくてやめてしまい、太った今は5.7すら完登できるか怪しいところです。

そんな私ですが、昨年、東京五輪におけるスポーツクライミングの代表選手選考に関する国際仲裁案件に通訳者として関わっていました。この件はニュースになっていたのでご存じの読者もいるかもしれません。これも何かの縁でしょうか。

一定の競技レベルでスポーツをしたことがある人はわかると思いますが、代表(またはチームメンバー)に選ばれないこと、特に事前案内された選考規則や選考会スケジュールに基づいて準備をしてきたのに後からそれが変わって代表への道が断たれるのは言葉にできない辛さがあると思います。4年に一度の国際大会であればなおさらのこと。事前に提供された数百ページもの資料を読みながら、「これは仲裁廷がどのような判断をしても夢が消えてしまう選手が生まれるので、どうやっても遺恨が残りそうだな……」と思いながら準備したのを覚えています。

で、その結果がこちら。国内競技連盟であるJMSCAの主張は通りませんでした。

夢破れた選手を思うと、代表内定のニュースを手放しで喜べなかったのですが、本選での野口選手と野中選手の銀・銅フィニッシュを観て悶々としていた何かが吹っ飛びました。特にこの大会で引退を決めていた野口選手のリードでの踏ん張り、あれは本当にすごい。五輪に批判的な意見が多いのは理解していますが、アスリートは与えられた舞台で最高のパフォーマンスを披露するのが仕事であり、少なくとも私はその姿に勇気づけられました。

私の五輪関係の仕事はこのように表に出ないものばかりだったのですが、一人の元アスリートとして、何かを極めようとする姿にはいつも元気をもらいます。3年後のパリも楽しみにしています!

あ、スポーツクライミングは単純に面白いですよ。観ていると腕力が必要なイメージを持つかもしれませんが、実際は下半身の力とボディバランスの方が大事です。もっとファンが増えてほしい!

2021年6月28日

英語通訳塾&同時通訳グランプリの振り返り。

年明けから3か月、比較的ステルスモードで若手を対象に通訳を教えていました。真面目に課題をこなして勉強すれば授業料は免除というシステムで、なんとか全員(12人)無事に修了しました。受講生が学びをまとめたブログはこちらから。

プログラム自体は3月末に終わったので、もっと前にブログに書けたのですが、実は受講要件の一つが「2021年のJACI同時通訳グランプリにエントリーすること」だったので、途中でごちゃごちゃ言うよりグランプリの最終結果が出るまで沈黙しておこうかなと思っていました。で、先日その結果が出ました。当塾からは西原念さんが社会人部門のファイナリストに選ばれましたが、惜しくも本選での入賞はならず。あー、残念です。甲子園出場校の監督ってこんな気持ちなんだろうなあ。やはり自分が教えた人には成功してほしいものですよ。

西原さんは正直、1月上旬の時点ではそこまで際立った特徴はなかったのですが、2月中旬くらいからめきめきと腕を上げて、最終的には受講生の中で一番の成長度を記録したと思います。そもそも受講生は全員スタート地点が異なるのですが、一番伸びたと思ったのが西原さんというわけです。受講生の中にはもっと安定的に訳出できる高度な技術を持っている人もいましたが、こういうものは結局、結果がすべて。強いやつが勝つのではなく、勝ったやつが強い。その意味では、西原さんがファイナリストに残ったのは間違いなく通訳が上手かったから。来年もぜひ挑戦してリベンジしてほしいです。

他の受講生はというと……提出したファイルが壊れていたり、音が入っていなかったり(または小さすぎて聞こえなかったり)、指定の時間までに送信できていなかったり、通訳以外の部分でつまづいた人も結構いたようです。実にもったいない。来年のエントリーは義務ではないですが、再挑戦してほしいですね。少なくとも私はウォッチしてますよ。目標があれば人は強くなれますから!

同時通訳グランプリについてですが、私は通訳塾をやって受講生を大会に送り込んでいた関係上、今年は運営にほとんど関わっていませんでした。当日のロジのお手伝いは少ししましたが、審査関係の業務は当然なし。つまりほぼオブザーバーだったのですが、社会人部門で神田雅晴さんが優勝したのは感慨深かったですね。彼は第1回から毎回参加していて、過去にはJACIの夏合宿に参加したこともあります。話すたびに、「通訳が上手くなりたい!」という気持ちが伝わってきて、こういう姿勢をもった若手がもっと育ってくれれば業界も安泰だなあと思っていました。優勝者スピーチにも気持ちがこもっていて、うるっときた人もいたはずです。

学生部門準グランプリの渡部美樹さんには2020年2月(コロナ直前)にモントレーで初めて会ったのですが、その時はまだ同通練習を始めたばかりのようで、言葉には自信より戸惑いが感じられました。それが1年半で急成長!本当にWowの一言しかありません。

最後に。本大会は小野陽子理事のリーダーシップがなければ成立しなかった大会です。講演者、審査員、参加者などの関係者と個別に調整し、当日のフローを組んで、大会をほぼ円滑に実施したことはとてもすごいことだと思います。小野理事は謙虚なのであまり表に出ませんし、発言もしませんが、間近で彼女の仕事ぶりを目にしている私は尊敬&感謝しかありません。通訳業界は小野陽子さんがいて本当にラッキーです。

これを読んでいる皆さんは小野理事にあったら「グランプリ、ありがとう!」と言ってやってください。とっても喜ぶはずです!

2021年5月17日

帰ってきた日本通訳翻訳フォーラム

今年もやります!

日本通訳翻訳フォーラム2021

コロナで多くの通訳者・翻訳者が不安を抱えていた昨年夏、どうせなら業界初のスケールで祭りをぶちかまして元気だそうや、というほぼノリでスタートした同企画ですが、今年も開催する運びとなりました。

コロナの本格的な感染拡大が始まってからこの夏で約1年半。多くの業界人がいわゆるニューノーマルに慣れて落ち着き始めていますが、IJETなどの大型業界イベントはまだ復活しないようなので、今年も翻訳サイドを巻き込んで豪華な講演者をずらりと並べました。明らかにやりすぎた昨年よりは若干規模縮小ですが、それでも毎日開催になりそうです。十人十色管理人の井口富美子さんの紹介で、翻訳サイドの講演者にはビッグネームが並んでいます。すごいね、この厚み!

通訳サイドは海外講演者の数を増やしました。遠隔時代の環境設定や通訳報酬の考え方などタイムリーなトピックはもちろん、演技のスキルを訳に活かすという楽しみなトピックも。日本ではこういう内容で講演してくれる人があまりいないのですよね。あまり演じすぎるスタイルだと先輩通訳者に怒られるなんてことを耳にしたことがありますが、ホントかな。

まだいろいろ考えながらブッキング中ですが、最終的なセッション数は40~42あたりでしょうか。マイペースで頑張ります。

2021年4月9日

EJ連載終了&『なる本』でJACI会員が大暴れ

■English Journalで6年連載させてもらった「通訳の現場から~ブースの中の懲りない面々」が2021年3月号をもって終了しました。というか、このエントリーは2月上旬に書き始めたのだけど、本業やら通訳塾やら原稿執筆やら昼寝やらプレステやらで、気が付いたら4月になってしまっていた。時間が経つのは早いですね。

それにしてもこの連載、長かった。6年なんて連載期間としては普通なのかもしれませんが(知らんけど)、継続的にコツコツやるのが苦手な私にはとても長く感じられました。もともとは居酒屋で自慢できる通訳・言語ネタをちょこっと紹介するくらいの勢いだったのですが、ここから初の著書が生まれ、すぐに2冊目につながり、新たな友人やパートナーもできました。プラスしかなかったですね。

で、次のフェーズは何かというと、ちょっと充電してから英語通訳の教科書を書いてみようかなと考えています。構想はかなり固まっています。いま市場に出回っている通訳教本は具体例に乏しいというのが私の印象で、もっと今風というか、音声素材などをフルに活用していろんなバージョンの訳文を提示し、各訳文について何をどう考えてそう訳したか、などを説明するような構成を考えています。まあ、結構時間がかかりそうですが。紙媒体よりもウェブベースの方がいいのかな。

■さて、イカロス出版さんから毎年発売されている『通訳者・翻訳者になる本』(通称『なる本』)の2022年版でJACI会員が大暴れしています。巻頭の通訳者インタビューはエンタメ通訳者の今井美穂子さん。僕らの業界ではPerson of the Yearみたいなこのコーナー、JACIの認定会員が選ばれるのはとても光栄なことです。

これに加えて、JACIが企画協力した「通訳・翻訳の新常識」コーナーでは、小野陽子理事、古賀ともこ会員、山本みどり会員が遠隔時代のニューノーマルについていろいろ発言しています。JACIは一般社団法人化してからさらに組織力が増してきていて、活動の幅も広がっています。

あと2年もしたら僕がいなくても、というか僕がいない方がうまく回るような組織になっていくのかしら。それはそれで楽しみです。

2020年12月2日

メディア活動いろいろ。

もう12月ですね。2020年はずっと自分自身と他の通訳者のコロナ対応支援に忙しくて、時間ができたようで実はあまりなかったような気がします。よく考えると、2月に『通訳というおしごと』を発表して、感染拡大が本格化する前にカリフォルニアに出張、3月~4月は自分の遠隔環境を整えながらJACIの遠隔イベントを40件ほど実施、8月は1日も休まずに日本通訳翻訳フォーラム2020を開催しました。9月からの繁忙期は全然期待していなかったけれど意外に仕事が戻ってきました。いや、過去に取引があった顧客が戻ってきたというよりは、新規の顧客が増えました。なぜなのか私もまだ説明できませんが、この秋は昨年以上に忙しかったかもしれません。ありがたや。でも遠隔は正直飽きたので、現場に出たいですね。

■11月25日に発売された『通訳翻訳ジャーナル』冬号で日本通訳翻訳フォーラム2020のインタビューが掲載されています。白倉淳一理事と一緒です。業界史上初の超お祭り企画がどのように生まれたかを語りました。本号にはJACI会員のブラッドリー純子さん、巽美穂さん、岩瀬和美理事、袖川裕美さんも登場しています。

いま振り返ると、結構大胆な企画をほぼ勢いでやってしまったなあという感じです。ただ、協会側で舞台設定をしたら後は講演者が素晴らしい講演内容で参加者を唸らせてくれたので、そのあたりは講演者の一人ひとりに感謝です。来年のフォーラムをどうするかはまだ決めていませんが、コロナの感染拡大はまだ続いているので、劇的に状況が変わらなければまた完全遠隔になってしまうのかな、という感じもします。いずれにせよ、来年もやる予定なのでよろしく。

■English Journalの12月号にも顔を出しています(私だけではないですが)。巻頭特集で2020年を表す言葉を選んでほしいと依頼されたので、testicular fortitude...ではなくsocial justiceを選びました。コロナ関係の言葉が多い中、個人的にはコロナという一つの現象が強調した様々な社会問題が印象に残ったからです。BLMはその代表ですが、これ以外にも貧富の差だったり、マイノリティ差別だったり。

加えて、実は私は米国最高裁判所のファンなのですが(マニアまではいかない)、弁護士時代から社会正義の諸問題に鋭く切り込んできたルース・ベイダー・ギンズバーグ判事が死去したのも大きいです。リベラル寄りの彼女のあとに任命されたのはゴリゴリ保守派のエイミー・バレット判事で、今後しばらくは最高裁の保守寄りが避けられないでしょう。

『通訳の現場から』連載も続いています……が、次のフェーズに移行するため、今期で終了します。まあネタ切れで無様な姿を見せる前に引いた方が良いというのもありますが。

■英国翻訳通訳協会(ITI)が発行するITI Bulletinの2020年11月・12月号にもフォーラムに関する記事が掲載されています。海外でも31日連続のイベントは前代未聞らしいですね。この企画は業界が誇る「歌って踊れる翻訳者」の杉本優さんにインタビューされたものです。あ、正確には「歌って」の部分は聴いたことがないのでわからないけれど、サルサの腕前はセミプロ級だと聞いているので踊れることは確かです。というか、トレッドミルにノートPCを取り付けて、講演を視聴しながら走るくらいアクティブな方です。

■11月に開催された日本翻訳連盟のJTF Online Weeksに当協会のFri McWilliams理事が講演者として参加しました。私も理事代表として応援メッセージ?的なものを出しています。今後こういう「顔出し」の業務が増えるのであれば、本格的に減量してヒョンビンになる計画を遂行しなきゃなあと思う今日この頃。

ちなみに2021年は年初から通訳講座を開催します。試験的な企画なのでこれ1回で終わるかもしれませんが、ガチで教えるつもりです。まあ3か月で一人前の通訳者が育てられるわけがないのですが、進むべき方向性とか、自己修正の仕方とかはしっかり教えられるのかなと。それだけで結構成長できると思っていますから。

2020年10月3日

The Japan Times 通訳・翻訳キャリアガイド2021


The Japan Timesが毎年発行している『通訳・翻訳キャリアガイド』の最新刊で特集されました。それも巻頭特集。ありがたや。店頭販売はないのですが、こちらから申し込んで入手できるようです。取材担当者がメキシコで修行した元プロレスラーだと知ってちょっとびっくりです。

日本通訳翻訳フォーラム2020が終わってちょっと燃え尽き気味だったのですが、幸いなことに遠隔時代でも繁忙期は繁忙期のようです。9月は昨年より若干忙しかったかもしれません。リアル現場と遠隔の組み合わせなのですが、遠隔はできれば自宅から入りたいので、リアル現場からの移動時間などもきちんと計算しなければなりません。10月中旬には午前中に横浜、午後に遠隔一本、そして夕方からまた横浜という日があり、さすがにこの遠隔案件は横浜駅近くのビジネスホテルを予約して対応しおうかなと思っています。本当はこんなに無理して働かなくてもよいのですが、面白そうな案件だと受けてしまうのですよね……

2020年9月22日

通訳・翻訳ジャーナル 2020年秋号

 


前号では本棚&読書について取材していただいたのですが、今回(通訳・翻訳ジャーナル 2020年秋号)はコロナが通訳業界に及ぼした影響と今後の展望について執筆しています。立ち位置はJACI理事半分、個人半分、という感じで。

詳しい内容は記事を読んでもらうのが一番ですが、個人的な展望としては①当分は遠隔案件が多数を占める、②通訳案件の絶対数は確実に減る、③市場のニーズに合わない通訳者は淘汰されると書きました。

市場のニーズに合わない通訳者とは、遠隔時代の通訳に求められる技術知識や対応力がない人や、価格に見合わない価値を提供する通訳者のことを指しています。

「遠隔時代の通訳に求められる技術知識や対応力がない人」というのは、RSIプラットフォームをうまく使いこなせない人、デジタル全盛の時代に紙の資料に強くこだわる人、などでしょうか。個人的にも、時間が来たのに交替の準備ができない(またはやり方がわからない)人や、何度も回線落ちするような人とは組みたくはありません。

「価格に見合わない価値を提供する通訳者」とは、文字通りです。今までの日英通訳市場はやや売り手市場寄りだったので、正直な話、中途半端な技術でも仕事にありつけました。けれどコロナの影響で企業が節約モードに入る今、技術や顧客対応力がない通訳者はどんどん消えていくと思います。

たとえば遠隔時代になって、通訳者は1時間や2時間単位の刻んだレートが強く求められるようになっています。今まではあまり疑問を持たずに半日料金を払ってきた顧客が支出を厳しく管理するようになっているのです。これに加えて遠隔通訳では何年も前から1時間単位の価格設定が当たり前でしたので、コロナを機にその価格設定が業界全体に広がりつつあります。

通訳者個人の長期ブランド戦略を考えた場合、安易に料金を下げるのは得策ではないですが、「絶対に価格を下げるな」とも言えません。まずは今を生き残らないとブランドどころではないからです。実際、一部の大手通訳会社も収益確保のために、入札案件でとんでもない値引きを始めていると情報が入ってきています。

今後、通訳者は必ずどこかで値引きやレート単位の変更をお願いされる場面が出てくるはず。そこでいかに立ち回るか。いまの収入を確保したいのであれば、戦略的価格設定をしてとりあえずサバイブするのもアプローチとしては否定できません。逆に十分な蓄えがあるのであれば、無理に値下げをせずに嵐が去るのを待つのも良いでしょう。

まあ、これは確たる技術があるという前提での話ですが。

2020年7月17日

日本通訳翻訳フォーラム2020、スケジュール確定。

めでたくスケジュール確定です。

日本通訳翻訳フォーラム2020 スケジュール

前回のエントリーで「毎日開催は保証できない」とヘッジしましたが、なんと毎日開催になってしまいました(笑)。毎年新しいことにチャレンジしているフォーラムですが、今年は新理事が加わって推進力が増したので、ちょっと調子に乗りすぎたかな?まあでも、コロナで仕事が減り、あまり良いニュースがない中、僕らができることといえばフォーラムのようなイベントを企画して学びとつながりの場を提供し、翻訳・通訳業界を盛り上げること。新理事の松岡由季さんに頼みこんで動画も制作してもらいました。舞台は設定したので、あとはしっかり最後まで走り切るのみです。

あ、どさくさに紛れて私もパネルセッションに参加します。十人十色の世話人である井口富美子さん(翻訳代表)、『通訳ガイドというおしごと』を著した島崎秀定さん(通訳ガイド代表)、そして私が通訳代表です。お前が通訳代表かいとツッコミが聞こえてきそうですが、通訳技術を語るセッションではないので御安心を。「コロナ時代をどうサバイブするか」にフォーカスした内容です。

英語で進行するセッションには同時通訳が付きます(ボランティア)。前夜祭とハーフタイムには特設スタジオから講談を生配信。合計52セッション、見逃し配信ありで9,800円って、自分で言うのもなんですがかなりお手頃じゃないですか?



『通訳・翻訳ジャーナル 2020年夏号』の「通訳者・翻訳者の本棚」で特集されました。最近なぜかJohn Grisham熱が再燃して、彼の本ばかりが置いてあるのがアレな感じですが、読書に関しては雑種なので、特許実務書から栗原はるみまで何でも読みます。写真の下をよくみると、グレイ解剖学の隣にバムとケロがあるのに注目!

この取材に合わせて、アパート地下の倉庫から川端康成全集(全然読んでない)やウィトゲンシュタイン全集(4割くらいしか読んでない)を引っ張り出して、なんか賢そうな人感を出そうかなと一瞬考えたのですが、持つのが面倒なので断念。なので本当にいつもの本棚が写ってます。



■JACI会員の松下佳世さんがロックダウン中に立ち上げて超絶ペースでチームをリードして仕上げた本、『同時通訳者が「訳せなかった」英語フレーズ』が先月末に発売されました。JACIの公式プロジェクトではないですが、執筆者・関係者の大多数が会員です。

人間は不安定な状況に陥ると動きを止めてしまいがちですが、並外れた行動力・統率力がある松下さんはコロナ騒動が深刻化するとすぐに行動を起こしました。さすがですね。業界にはもっとこういう人が必要だと思います。

■実は3月からEnglish Journal Onlineで「スポーツの英語」連載を担当しています。動画を使ったライトな英語学習コンテンツ、それも私が大好きなスポーツをネタにしています。基本的には米国のメジャースポーツをメインに、他のスポーツをちょこちょこ織り交ぜていく感じで。

ちなみにプレミアムメンバー(有料)になると、English Journal(雑誌版)に連載している「通訳の現場から」のバックナンバーも読めるようです。

■私個人の近況ですが、通訳の仕事は5月末から少しずつ戻ってきています。主に遠隔ですが、リアル現場もぽつぽつと。あとは業界団体の理事という立場上、若手通訳者の相談にのったり、業界誌の取材に対応したり。

今年2月のエントリーでは、「今後数年はオンラインでは教えない」なんて書いてましたが、コロナでいろいろ考えた結果、秋以降にオンライン翻訳・通訳講座をやろうかなと計画しています。ただし金儲けが狙いではなく、選抜した25歳以下の若者(つまり大学生)に対象を絞って基本無償で育ててみようかなと。まあでも、社会人で参加したい人がいればきっちりお金をとって運営資金にしますがね、たぶん(笑)。

やりたいことは山ほどあるけど、体は一つ。うーむ。