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2010年12月20日

Word Lens に翻訳の未来を見る。

Word LensというAR(拡張現実)技術を利用した翻訳アプリがリリースされました。これまでのように辞書で調べたり、調べたい単語を入力しなくても、画面を通して訳が瞬時に表示されるという一見夢のようなアプリです。まずは紹介動画から。



現在は英語←→スペイン語のペアしか対応していないのですが、物は試しとスペイン語→英語の辞書をダウンロードしてみました(有料)。色々試してみた率直な感想ですが、現時点ではまだ実生活で使えるレベルの製品ではないと思います。理由としては1)OCRの精度が低いので読み取り可能なフォントが限られている、2)つまり当然のことながら手書きの文字は全く読み取れない、3)翻訳エンジンも貧弱なので、かなりテキトーな訳が目立ちます。例えばこれ。

下ネタですみません
ただ翻訳エンジンの問題については、クラウド化して高性能なエンジンを利用すれば訳質が大きく改善される事は間違いありません(現時点ではオフライン利用のみ。公式サイトを読むと観光客がターゲットとあるので、おそらくネット回線がない場所等での利用も想定している、つまり普及の段階では訳の質<利用範囲と いう戦略的判断だと推測)。OCRの問題は色々クリアすべき点が山積しているのですが(特に日本語のOCRにはグーグルも苦労している)、今ほど酷くなることはないでしょう。

ネットの反応を見ると「なんだこの使えないアプリは!」とか「動画はやらせだろ」などの批判が目立つのですが、このアプリが公開された事の本質的な重要性はアプリの性能自体にあるわけではありません。本当に重要なのは、拡張現実という技術によって、翻訳業界の在り方そのものが変化を迫られているということです。いくら人間が機械より文脈を読むのが上手いといえども、機械のスピードには到底かなわない。そして各メディアで言われているように、今の社会は一般的に、訳質に多少の影響が出ることを承知でスピードと低コストを優先しています。社会の情報のスピードとコミュニケーションのダイナミズムを考えれば、これは当然の流れとも言えます。業界における機械翻訳が占めるパイは今後、かなりの割合で増加します。機械は進化しかしないという現実と私達は対峙しなければなりません。

ただ私は人間翻訳の未来が暗いとは全く考えていませんし、心配もしていません。今後は限りなく低いレートで働く(実力的にも難がある)翻訳者が進化する機械翻訳に一掃される一方、実力がある翻訳者はこれまで通り適正レートで評価され、専門的な分野で活躍を続けると考えています。構造的にそもそも機械翻訳の利用が難しい分野もある事も忘れてはなりません。安くて速い機械翻訳の出現により、本当に目の肥えた顧客は一層高い正確性と専門性、そして人間にしかできない「芸」を翻訳者に求めることになるでしょう。これはむしろ私が求めることでもあります。

当たり前ですが、人間は「人間らしさ」を武器に頑張っていかなければなりませんね!

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