2016年10月17日

東京外国語大学のイベント

東京外国語大学の鶴田知佳子教授にお誘いを受けて、金曜日に開催されたイベントに参加してきました。

午後4時からは同時通訳付き講演会「洋の東西往ったり来たり」に滑り込み参加。実は今回は通訳を“雇う側”の意見も聞きたかったので、元通訳コーディネーターの友人も誘って潜り込みました。

当たり前ですが、スキルに個人差はあります。すらすら訳出する人もいれば、すぐに息切れして言葉が続かない人もいる。5分交代でまわしていたようですが、やはりまだ経験不足というか同時通訳に必要な脳筋力(集中力)が鍛えられていない人が多かった。

ただ、「現場経験がない学生だからなあ」なんて最初は甘くみてましたが、実際に聴いてみるとそれなりにまとめてくる学生もいて、とても流暢な英語を喋る学生もいたので驚きました。国内の日英通訳市場で活動している通訳者できれいな英語を喋る人は意外に少ないので、この点でもう得していると思います。6人中2人はあと1年みっちり修行すれば現場に出られるレベルになるかな?というのが個人的な感想です。

訳がなかなか出なかった通訳者もいましたが、これは誰もが通る道なのでとにかく耐えて、そしてもっと勉強して経験を積んでくださいとしか言いようがない。私の場合は独学でしたが、これは当時私がおかれていた状況では他に手段がなかったからであって、本来であれば大学院や専門学校で勉強したかった。その意味では、外語大の学生は素晴らしい環境で学んでいるわけですから、めげずに前を向いて歩み続けてほしいです。

さて、講演後はすぐに別室のリオスタディーツアー報告会へ。日本人が活躍しなかった競技を担当した学生はあまり通訳ができなかったようですが、とても充実した日々を過ごしたようでした。時には深夜まで対応した方もいたとのこと。お疲れ様です!

このスタディツアーに関しては、一時はネットでかなり叩かれていたので通翻業界で仕事をしている人であれば覚えていると思います。

東京外語大が学生ボランティアをリオオリンピックに派遣 ネット上で「待遇が悪すぎる」と批判の声

リオ五輪自腹30万学生通訳ボランティアに疑問の声
 
この件については私は当初からツアー賛成派でしたが、ネットでは業界人も含めて反対派が圧倒的多数のような雰囲気だったのでずっと静観してきました。なにか言ってもどうせ「黙れこのブラック企業の手下め!」みたいな感じで片付けられてしまうのがネットですからね。まあでもせっかくこの報告会に参加したので、私の意見もはっきりさせておきましょうか。

五輪は世界中から人々が集まる、そして世界中の人々が注目するスポーツの祭典です。普通に暮らしていたら五輪で通訳することなんて一生ない。プロの通訳者だって五輪を経験した人は少ない(実力はもちろんだけど、運の要素も結構ある)。もし私の子供が通訳を目指していて、そんな貴重な機会がめぐってきたら、自腹で30万どころか100万払ってでも体験させていたと思います。それだけの価値があると思うし、若い頃にしか学べないことがあるから。批判者の多くは「通訳者を目指す学生の目線」が欠落していたと私は思うのです。私が学生の頃にこのような機会があったらたぶん親のカネを盗んでせっせとダブルシフトでバイトして稼いで申し込んでいたことでしょう。

きちんとすべての条件が事前に開示されて、ボランティア側がその条件に納得するのであれば私はなんの文句もありませんし、誰もつべこべ言う筋合いはないと思います。「こういうことがあるからプロ通訳の報酬が下がる~」「リスペクトが得られない~」なんて言ってる業界人もいますが、そもそも五輪は継続案件ではないし、学生はプロの通訳者ではないので、この比較は意味がない。それにこの世界は基本的には実力勝負なので、報酬が下がるのはビジネススキルも含めてその人の実力がないからだと私は思います。

あと、参考までにこれを。

曽我さん帰国チャーター便、日航と全日空が1円入札 -2004/07/17

プロだってカネがすべてとは限りません。ビジネス戦略は色々あります。日航と全日空が宣伝効果を見込んで1円で入札したように、プロ通訳者もたとえば戦略的に五輪を無料または格安でうけて、それで実績表に箔をつけて他の案件で稼ぐ、というやり方もあるのです。「先行投資」ですね。ツアー批判者はこのあたりのエコノミクスを理解していない印象です(独禁法違反じゃないか、というツッコミが飛んできそうですが、その話を始めると長くなるので機会があればまた書きます)。

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