2023年7月23日

【通訳の仕事 No. 4 】新ネットスーパー「Green Beans by Aeon」

コロナで通訳案件の性質が大きく変わった通訳者が結構いると各方面で耳にしていますが、私もその一人かもしれません。私の事務所に直接依頼してくるのは法律事務所が多いので、以前は小売り関係のクライアントはゼロだったのですが、コロナ初年度の春(5月くらいだったかな?)に英国のOcadoグループの日本代表者が突然連絡してきたのです。社内通訳者の採用を手伝ってほしいと依頼されたのですが、コロナが猛威を振るうなかで採用が上手く進むはずもなく(結構な頻度でイオンの本社がある海浜幕張まで通うのが条件)、では見つかるまでは私がスポットで代打しますよ、通訳者の採用もお手伝いしますよ、というのが仕事の始まりでした。

あれから3年。今では海外からOacdoの幹部が来日した時に限って呼ばれるくらいになり、つい先日、7月10日に誉田CFCのオープニングセレモニーでCEOの通訳をしてきました。写真のようにボットが倉庫内の商品を自動的にピックするこの施設は、日本では初だそうです。

フリーランスとして活動していると、同じプロジェクトに年単位で関わることはほぼないので、ある意味とても貴重な経験でした。小売り業について復習する機会になり、そして当たり前のことですが、自分が毎日使っているスーパーの裏側には緻密に計算された大きなオペレーションがあるんだなあと改めて実感しました。Ocadoのテクノロジーが最先端なものゆえに、3年前は日本側はもちろん通訳者も基本的な用語についていけないという状況がありましたが(笑)、そんな苦難も乗り越えて無事にサービスインです。あとは私が住む世田谷区にも早くサービスを拡大してほしいですね。

グリーンビーンズ

※ちなみにこの日のNewsPicksの取材を通訳したのですが、おそらくそれを基にした動画がアップされていました!

2023年7月19日

【通訳の仕事 No. 3 】FIFAの仕事~裏方編

4月に日本で初開催されたFIFA Diploma in Club Managementで同時通訳してきました(写真奥のブース、右側が筆者)。「FIFAの公式通訳者ってどんな仕事してるの?」とたびたび質問されるので、今回は一般のファンがアクセスできない案件、いわゆる”裏方案件”を中心に紹介します。試合のヒーローインタビューなどファンが通訳を聞ける案件については、またの機会にということで。

FIFAといえばワールドカップを想起する人が多いと思いますが、そのワールドカップにも各年齢カテゴリーの大会があって、たとえばつい最近でいえば5月20日から6月11日まで開催されたFIFA U-20 男子ワールドカップ・アルゼンチン2023が一例です。私は日本担当で、準決勝まで勝ち残ったら記者会見などを通訳する予定だったのですが(アンダーカテゴリーは予算が潤沢ではない)、日本代表はあえなく予選ラウンドで敗退。残念。けれど裏では大会に先立つロジ周りの会議とか、宿泊先で必要になる施設や設備、備品の手配確認の会議など、いろいろあるのです。

そして近年、FIFAがとても力を入れているのがサッカー(競技)以外の事業で、FIFA Diploma in Club Management (以下、Diploma会議)もその一つ。Diploma会議はこれまで各国で開催されている健全なクラブ経営に関する国際会議なのですが、3日間の本会議に加えて、国内のクラブチーム&スタジアムの視察もありました。Jリーグの野々村チェアマンはJリーグの今と成長戦略を語り、鹿島アントラーズは地方クラブの挑戦と成功モデル、横浜F・マリノスはシティグループの戦略、普段はなかなか聞けないセルヴェットFCの経営改革の歴史など、とても充実した内容でした。最近のFIFAは女子サッカーを盛り上げるための活動に積極的で、その意味ではWEリーグ理事の小林美由紀さんの発表がとても印象に残っています。

案件に先立つ準備ですが、私はそもそも専門知識がある通訳者としてFIFAと契約しているので相当ニッチな内容でない限り上手く捌く自信はあります。ただそれでも、最近のクラブ経営について改めて学習しておこうかなと、以下の本を読みました。『海外のサッカーはなぜ巨大化したのか』では特にドイツ・ブンデスリーガのクラブ経営システムについて特に勉強になりました。ブンデスリーガは多くの発展途上のリーグがモデルにしている安定的な成長を志向するリーグで、スタジアムがチームの勝敗に関係なくほぼ毎試合満員になるという経営者としての一つの理想を実現しています。実際、Diploma会議でもブンデスリーガのチームとスポンサーとの関係や、ファンコミュニティとの関係の重要性についても話がありました。

『MLSから学ぶスポーツマネジメント』は、最近リオネル・メッシのマイアミ移籍で話題になっている北米のリーグ、MLSに関する一冊です。競技レベル的にはまだ欧州と対等とは決して言えないけれど、ビジネス的には近年目覚ましい躍進を遂げています。かつてサッカー不毛の地と呼ばれ、実際いくつものプロリーグが北米で立ち上がっては潰れていった過去がある中、その失敗から学んだMLSの戦略と実践がかなり詳細に語られていて、個人的には一番面白かったです。

クラブ経営の国際会議なのだから、マーケティング関連の内容も出てくるだろうなと思って『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロナのマーケティング実践講座』も読んでおいたのですが、ここで得た知識は本会議よりクラブ訪問で役に立ちました。特にスタジアム関連の広告やマーケティング手法、チケット販売戦略、VIPルーム関連の戦略など、昔のスペインで当たり前だったことが今は日本でも標準になってきています。ちなみにガンバ大阪のスタジアム(パナソニックスタジアム吹田)がエスパニョールのスタジアムをモデルにしているのは、この仕事をするまで知らなかった!そしてここパナソニックスタジアム吹田では、訪問時にフィールドの端で子供向けのサッカースクールが開催中で、元スイス代表のセンデロスさんと元オーストラリア代表のケーヒルさんが試合に乱入して子供たちに直接指導していました(写真)。遊びたかっただけかもだけど。みんな心からサッカーが大好きなので!

サッカーが大好きといえば、元日本代表監督のジーコさんも本会議で登壇。私も許可を頂いて写真を1枚撮らせていただきました。Diploma会議の参加者は基本的に各クラブの幹部や幹部候補生ばかりで、その意味では元選手を含め長年サッカーにどっぷり浸かっている人ばかりなのですが、それでもジーコさんの講演のあとはサインと写真を求めて長蛇の列が。レジェンドはレジェンドですね、ホントに。

さて、Diploma会議とは別ですが、6月6日にFCバルセロナが来日した際、バルサの胸スポンサーであるSpotifyとの記念イベントも担当しました。こちらは後日各メディアで報道されたので裏方仕事ではないかもしれませんが、スペインサッカーのファンとしてはとても充実した仕事でした。ちなみにスポーツ通訳者の中には「ファンは通訳をするべきではない」と言う人もいて、その気持ちというか発言の趣旨は分からないでもないのですが、要は通訳者としての役割をわきまえて行動すれば良いだけの話だと個人的には思っています。わきまえて行動できれば、あとはファンの方が知識が豊富で熱量もあるでしょうから、むしろ高品質な訳になる可能性は高い。私もプロですので現場ではおとなしくしていましたが、本当は「レヴィのサインほしい!」と思ってましたよ。そりゃファンですもの。


上の写真ではJO1の河野純喜さんとフジファブリックの山内総一郎さんの耳にウィスパー同通。バルサの公式インスタグラムのリールに掲載されたようです。下の写真は別アングルから。

さて、明日からFIFA 女子ワールドカップが開幕します。私は一応、日本担当でブッキングされています。優勝したら激アツな通訳をするので、日本代表には頑張ってほしい。個人的には猶本光選手と熊谷紗希選手が推しです!