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日本通訳フォーラム2018 8月25日(土)

2017年2月7日

メインメッセージに基づいた訳の具体例。

一昨年、昨年と名古屋外国語大学大学院で通訳を教えてきました。といっても私は学者ではないので、100%実践的な内容です。ときおり翻訳も交えながら、通訳的な思考の方法とか、詰まったときにどう逃げるとか、現場で役立つ内容ですね。一部同じような内容をつい数日前、日本会議通訳者協会の札幌ワークショップでも話しました。特にメインメッセージにフォーカスをすれば、枝葉が落ちていてもコミュニケーションは破綻しない、という話をしたのですが、この部分はもう少し具体的な説明が必要かもしれません。

人間の知識と記憶には限界があります。どんなに上手い人でも必ずど忘れをする日は来ます。重要なのは、たとえど忘れしても、きちんと対応できるメカニズムがあるかどうか。つまり、プランBやプランCが思考回路にあるかどうかです。具体例を挙げましょう。

ある時、某省で逐次通訳する機会がありました。そこで、A国の行為について、日本の外務大臣がA国の大使に抗議した、という発言があったのですが、私はこの「抗議」という言葉の英訳をど忘れしてしまいました。本来であればこのようになるでしょう。

原文: 本件について外務大臣はA国大使に抗議した。

訳文A: The Foreign Minister protested to the Ambassador...

Protestは小学校低学年でもわかるような基礎的な単語です。でも思い出せないので、訳の導入を少し工夫して、「抗議」の表現が後の方にくるようにして時間を稼ぎ、訳出しながら思い出そうとしたのですが、どうしても出てきません。しかたないので最寄りの訳(本来であればもっと意味が近い訳があるはずだが、思い出せないのでそれに最も近い訳を出す)でこのようにまとめました。

訳文B: The Foreign Minister expressed his displeasure to the Ambassador...

厳密には訳文Aの方が当然良いのですが、Bでも外務大臣が快く思っていないことは十分に伝わっています。通訳を学び始めたばかりの人はこのような訳をすぐに思い出せないかもしれませんが、通訳では話者が使った単語を必ずしも使う必要はありません。大事なのは、話者が話した内容を頭の中で絵として描けているかどうかです。抗議するということは当然良く思っているはずがない。訳文Bはそれを表現しています。

この現場では、私が辞書で「抗議」の訳を辞書で引く前に、話者がもう一度「抗議」という言葉を使いました。休憩があったら調べていたのに……(泣)

まだ思い出せない私は、前回とはまた違った表現で訳出しました。

訳文C: The Government of Japan was not pleased with the incident at all, and the Foreign Minister communicated this to the Ambassador...

日本政府は本件について快く思っていない、と前置きした上で、外務大臣はそれを大使に伝えた、と表現しています。まあ、普通に考えれば抗議と解釈されるでしょう。訳文Bと同じように訳さなかったのは、この時の話者の文章構築が前と異なっていたのが大きいと思います。それに、これは意訳なので、前と少し異なる訳にした方がリスクヘッジできるという考えが無意識に働いたのかもしれません。

特に焦るわけでもなく自然に訳したので(脳内ではかなり焦っていたけど)、通訳を聞きなれていない人には私が「抗議」をど忘れしたことはバレていなかったと思います。メインメッセージをがっちり掴んでいるとこういう訳ができるという例です。

2017年2月2日

通訳者のメンタルトレーニング、完結。

東京に引っ越してきてから新規開拓やら、通訳団体立ち上げやら、ポーカー大会やらで忙しくしている中、完全に放置プレイとなっているこのブログですが、ぼちぼち更新していこうかなと。

通訳翻訳ウェブで連載していた『通訳者のメンタルトレーニング』ですが、年末に予定通り完結しました。個々の原稿は遅れ気味だったので編集担当もかなりメンタルが削られたことでしょう。今後は色々と執筆活動を増やしていくつもりなので、専用タブもちゃっかり用意しました。
 
執筆コンテンツ

とりあえず次は、旧通訳翻訳ウェブで発表したノートテイキングに関するコンテンツを復活させようかなと。もう消えてからずいぶん経つのですが、今でもメールでリクエストが来たりするので。まあウェブ上にノートテイキングに関する情報はほぼゼロなので、需要はあるのでしょうね。

日本会議通訳者協会の公式サイトでは会員限定でデポジション通訳に関する連載を始めました。今後は技術的なことや、法廷速記者、ビデオグラファー、弁護士などのインタビューも掲載する予定です。